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安心しなんし

子蜘蛛たちの攻撃が容赦なく白峰に襲い掛かる。

鋭い脚が肩を切り裂き、腕を抉り、太ももに深い傷を刻む。

赤い血が滴り落ち、息が荒くなるたび、白峰の足取りは重くなった。

それでも、白峰は止まらない。

「……っ……!」

痛みに顔を歪めながらも、一歩、また一歩と前に進む。

体に刻まれる傷は浅くはない。

しかし、それ以上に心に負う傷の方が深く、重かった。

黒崎が苛立った声で叫びながら、デッドノックを連射して子蜘蛛を薙ぎ払う。

「新入り! 無理すんな!」

御堂は牛鬼を操りながら、白峰の近くで必死に声を張り上げた。

「澪ちゃん! もう十分ですわ!

これ以上は危険ですのよ! お願いだから……戻って!」

彼女の声には、強い心配と優しさが溢れていた。

牛鬼の巨体が子蜘蛛の群れを弾き飛ばし、白峰の進む道を必死に守ろうとする。

安倍零は軽く笑いながら、五行の術を展開して白峰の周囲に防壁を張った。

「危ないよ、ミオちゃん。

少しペースを落としてくれないと、僕も本気出さなきゃいけなくなっちゃう」

その言葉は軽やかだったが、術の精度は確かで、白峰の負担を確実に軽減していた。

しかし、紅葉に近づくにつれ、今度は紅葉自身からの強烈な攻撃が飛んできた。

巨大な脚が地面を抉りながら振り下ろされ、衝撃波が白峰を襲う。

紅い光の粒子が爆発的に広がり、負のオーラが直接白峰の体を締め付けるように絡みついてくる。

「……ぐっ……!」

白峰の体が大きくよろめき、膝をつきそうになる。

肩の傷から血が流れ、視界が一瞬ぼやけた。

それでも、白峰は歯を食いしばり、足を無理矢理前に踏み出した。

(……苦しい……

でも、みんなを……このまま苦しませたくない……)

体に出来る傷以上に、心に負う傷が大きく、痛い。

優しかった紅葉や紫の記憶が、胸を抉るように疼く。

それでも、白峰は進む。

黒崎が舌打ちをしながら白峰の横に並び、デッドノックで紅葉の攻撃を牽制した。

御堂は牛鬼を盾のように使い、白峰を守りながら必死に叫ぶ。

「澪ちゃん……! もう限界ですわ!

お願いだから……!」

安倍零も笑みを浮かべたまま、守りの術を強化し続けていた。

白峰は荒い息を吐きながら、紅葉の巨大な姿を真正面から見据えた。

まだ震えは止まらない。

体は血と痛みで満ちている。

それでも、白峰は一歩、また一歩と、紅葉へと近づき、ついにその目の前まで辿り着いた。


他の子蜘蛛や紫とは比較にならないほどの、強烈な負の怨嗟が白峰の脳内に直接響いてくる。

(……苦しい……助けて……)

紅葉の苦しむ声が、痛いほど鮮明に聞こえた。

それはただの痛みの叫びではなかった。

気高く、誇り高い大妖怪の声が、強制された戦いの中で必死にもがいている響きだった。

自らの意思とは無関係に体が動かされ、敵意を向けさせられていることへの苛立ちと、無念と、深い苦痛が混じり合っていた。

紅葉の複眼には、怒りと痛みを超えた、誇りを踏みにじられることへの激しい抵抗が浮かんでいた。

巨大な体が時折激しく痙攣するのは、痛みだけではなく、自分の意志に逆らって動かされることへの、尊厳を傷つけられたもがきだった。

一瞬、白峰の心が折れそうになる。

しかし、その瞬間、きみどりの声が優しく響いた。

『一緒にいるよ……助けよう』


その言葉で、恐れが完全に掻き消えた。

それと同時に、白峰の体から溢れ出す強大な気。

それは、きみどりを介して流れてくる、倒れている子蜘蛛達の想いだった。

『女王を……助けて……』

『お願い……紅葉様を……』

『もう、苦しいよ……』

子蜘蛛たちの切実な声が、次々と白峰の心に届く。

そして、最後に——はっきりと聞こえたのは、紫の声だった。

『頼みましたよ……お嬢さん……』

白峰の胸に、熱いものが込み上げてきた。

(……紫さん……)

白峰は小さく息を吸い、震える声で、しかしはっきりと答えた。

「……紫さん……任せてください……!」

白峰は真田丸8式を両手で強く握りしめ、渾身の力を込めた。

「——っ!」

渾身の一撃が紅葉に叩き込まれる。

とどめには至らなかったが、巨大な体が大きくよろめき、負のオーラが一瞬大きく乱れた。


一気に大量の気を放出した白峰は、激しい疲労と硬直に襲われた。

視界が揺れ、膝がガクンと崩れ落ちそうになる。

体が鉛のように重くなり、指先一本すら満足に動かせない。

激しい息遣いの中で、白峰はただ立ち尽くすことしかできなかった。

その隙を見逃さず、女王蜘蛛が決死の一撃を振り下ろした。

紅葉の八本の脚が同時に動き、巨大な体が一瞬で加速した。

大地が爆音を立てて抉れ、衝撃波が空気を引き裂く。

紅い光の粒子が爆発的に噴き上がり、負のオーラが黒い奔流となって白峰を飲み込もうと襲いかかる。

その猛攻はまさに大妖怪の全力——触れただけで人体を粉砕し、魂すら引き裂きそうな、圧倒的で残酷な一撃だった。

しかし、その攻撃は間一髪で阻まれた。

安倍零の守りの呪符が、淡い金色の光を放ちながら紅葉の巨脚を真正面から受け止めた。

激しい衝突音が響き渡り、地面が大きく陥没するほどの衝撃が広がった。

それでも、安倍零はサングラス越しに余裕そうな笑みを浮かべたまま、軽く息を吐いた。

「危ない危ない……

もう少しでミオちゃんが潰されるところだったよ」

その声は世間話のように軽やかで、紅葉の全力の一撃など最初から予想の範囲内だったかのような余裕が漂っていた。

呪符の光が激しく揺れる中でも、安倍零の姿勢は微動だにせず、ただ楽しげに状況を眺めているだけのように見えた。


その直後、黒崎がデッドノックを連射し、御堂が牛鬼を駆り立てて紅葉の注意を引く。

三人が連携して白峰を守る中、白峰の硬直がようやく解けた。

最後の一撃を振るおうとした瞬間、脳裏によぎったのは、昨夜の紅葉の優しい笑顔だった。

甘いおだんごを勧めてくれた温かい手。

あの記憶が、胸を強く締め付ける。

その迷いを、苦しみながらも白峰を気遣うような優しい声が溶かした。

『優しい子……安心しなんし……』

紅葉の声が、白峰の心の奥底に優しく、しかし確かに響いた。

その瞬間、白峰の中で最後の迷いが溶けるように消えていった。

代わりに、胸の奥から熱い想いが溢れ出す。

優しかった紅葉を、紫を、みんなを——

この苦しみから解放してあげたいという、純粋で強い想いが、真田丸8式に注ぎ込まれる。

白峰の体から、これまで以上に強大な気が爆発的に溢れ出した。

刀身が眩い光を放ち、気の高まりに呼応するように激しく輝く。

白峰は目を閉じ、最後の迷いを完全に振り切った。

真田丸8式を高く掲げ、すべてを込めた一撃を紅葉に放つ。

ズシャァァァァッ!!

空気を切り裂くような鋭い斬撃音が響き渡った。

刀身から放たれた純白の光の刃が、紅葉の巨大な体を真正面から貫いた。

負のオーラが激しく弾け飛び、紅葉の甲殻に深く刻まれた亀裂から、真紅の光が噴き上がる。

女王蜘蛛の巨体が、大きくよろめき——

ゆっくりと、地面に崩れ落ちた。

戦場に、静寂が訪れた。

白峰は荒い息を吐きながら、真田丸8式を握ったまま立ち尽くしていた。

胸の奥に、達成感と、言いようのない切なさが同時に広がっていく。


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