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可愛い陰陽師さん

謎の男に警戒しつつ、黒崎と御堂は即座に戦闘態勢に入った。

黒崎はデッドノックを構え、低く唸るように言った。

「てめぇ……何者だ?」

御堂も呪符を手に、冷たい視線を男に向ける。

その動きは淀みなく、訓練された冷静さがはっきり見て取れた。

白峰は慌てて晋介25号を取り出そうとしたが、手が震えてホルスターから上手く抜けない。

指先がもつれ、焦りがさらに震えを大きくする。

「う……っ……!」

黒崎が鋭く叱責した。

「遅ぇよ! さっさと構えろ! お前がビビってる間にやられるぞ!」

その声は厳しかったが、黒崎の目には一瞬、白峰を心配する色が浮かんだ。

「は、はいっ!」

白峰は慌てて晋介25号を構えたが、手が小刻みに震え、照準が定まらない。

突然の敵の出現に心臓が激しく鳴り、頭がうまく回らない。

そこへ、御堂が慌てて白峰の横に寄り、宥めるように肩に手を置いた。

「澪ちゃん、落ち着きなさい!

大丈夫ですわ、ちゃんと息を吸って……!

今は焦らずに構えることだけを考えなさい!」

御堂の声は少し上ずっていたが、白峰を励まそうとする優しさがはっきりと伝わってきた。

その一方で、藤堂は即座に状況を判断し、落ち着いた声で指示を出した。

「黒子班! 倒れた者を回収して手当を!

他の者は速やかに後方へ退避してください!」

藤堂の指示は的確で、動揺した黒子たちを素早く動かしていく。


いざ戦いの火蓋が切られるかに思われたその瞬間——

男がおもむろに動き出した。

ぼろぼろのコートの袖から異様に長い指を伸ばし、口元を裂けるように歪めて不気味に笑った。

影に沈んだ顔の奥で、白い歯だけがチラチラと浮かび上がる。

「ふ……ふふ……ふふふ……」

低く、湿った笑い声が響く中、男は封印の祠に向かって奇妙な呪符を投げつけた。

バチッ! という鋭い音と共に、祠の表面に走った亀裂から真紅の火花が爆ぜ、封印が焼き切られた。

その瞬間、白峰もはっきりと感じた。

——百目鬼のときと同じ、霊的濃度の急上昇。

空気が一気に重く歪み、地面が低く唸るように震え始めた。

甘ったるい腐臭が爆発的に広がり、周囲の空気をねっとりと塗りつぶしていく。

祠の奥から、圧倒的な気配が噴き上がった。

大地が大きく脈打つような震動と共に、鮮やかな紅の光が爆発的に広がる。

無数の紅葉が幻のように舞い上がり、風のない空間で激しく渦を巻いた。

提灯の灯りが一瞬で赤く染まり、影が長く伸びて地面を這う。

その中心から、ゆっくりと——厳かに、美しい女性の姿が顕現した。

先ほど別れたばかりの紅葉だった。

深紅の着物が風を孕んで大きく翻り、金糸の紅葉刺繍が光を浴びて輝く。

黒髪は高く結い上げられ、真紅の珊瑚と黄金の蜘蛛の簪が妖しく煌めいていた。

白く透き通る肌と、深紅に染められた唇。

そして、底知れぬ威厳と妖艶さを宿した瞳が、ゆっくりと開かれた。

大妖怪の顕現に、周囲の空気が震え、結界そのものが軋むような音を立てた。

紅葉はまず白峰の姿を捉え、優しく包み込むような微笑みを浮かべた。

「早い再会ね……可愛い陰陽師さん」

その声は柔らかく甘く、白峰の胸に温かい波紋を広げた。


しかし、次の瞬間、紅葉の表情が一変した。

優しく微笑んでいた顔から、すべての温かみが一瞬で消え失せた。

瞳の奥に宿っていた柔らかな光が、冷たく鋭い紅の輝きに変わる。

大妖怪の本質が、抑えきれない怒りとともに表面に浮かび上がった。

彼女はゆっくりと首を巡らし、謎の男を射貫くような視線を向けた。

紅葉の声が、低く、しかし圧倒的な威厳を持って響き渡った。

「あんた、誰?

あたしらの眠りを邪魔するなんて……随分と命知らずなのね」

言葉の端々が空気を震わせ、周囲の温度が一気に下がった気がした。

紅葉の着物の裾が怒りに呼応するように激しく翻り、無数の紅葉の幻が彼女の周囲で鋭く回転を始めた。

「この遊郭はあたしらの領域よ。

勝手に踏み荒らすなど、百年早いわ……?」

その声は優しさの欠片もなく、冷たく、高貴で、圧倒的な大妖怪の怒りを体現していた。

先ほどまで白峰に向けていた柔らかな微笑みとは別人のような、恐ろしくも美しい威圧感が、紅葉の全身から溢れ出していた。


大妖怪の気に充てられても、男は表情一つ変えなかった。

影に沈んだ顔の奥で、ただ白い歯だけがゆっくりと弧を描くように歪んだ。

ぼろぼろのコートの袖から伸びる指は、まるで枯れた枝のように節くれ立ち、異様に長く、ねばつくような動きでゆっくりと懐に差し入れられた。

男は奇妙に光る玉を、ゆっくりと取り出した。

その玉は濁った紫色に輝き、表面を不規則に脈打つような光が這い回っている。

まるで生き物のように蠢く光を放ちながら、男の掌の上で不気味に回転を始めた。

次の瞬間——

玉が強く輝いた。

強烈な負のオーラが爆発的に広がり、黒い霧のようなものが紅葉の体を一瞬で包み込んだ。

そのオーラは粘つくように紅葉の肌に絡みつき、彼女の美しい深紅の着物を汚すように染み込んでいく。

紅葉の顔が、苦痛に大きく歪んだ。

「っ……あ……!」

白く透き通る肌が一瞬で青ざめ、細い首筋に黒い血管のような線が浮かび上がる。

優雅に結い上げられていた黒髪が乱れ、肩に落ち、唇の端から小さな呻きが漏れた。

彼女の瞳に宿っていた高貴な紅の輝きが、激しい痛みによって揺らぎ、かすかに曇った。

白峰は息を飲んだ。

(……紅葉さん……!)

胸が激しく締め付けられる。

ついさっきまで自分に向けていた優しい微笑み、あの温かみのある声、きみどりの頭を優しく撫でていた手……

そのすべてが、今、目の前で苦痛に歪んでいる。

白峰の指が晋介25号を握る手に力が入り、震えが止まらなかった。

(どうして……

あんなに優しかったのに……

紅葉さんが、こんなに苦しんで……!)

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