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縁があったら

白峰はゆっくりと目を覚ました。

柔らかい布団の感触と、どこか懐かしい甘い香り。

隣で小さな寝息が聞こえる。

「……ん……」

横を向くと、きみどりが白峰の隣で丸くなって気持ちよさそうに寝息を立てていた。

黄緑色の着物が少し乱れ、ほっぺたがうっすら赤い。

本当にただの幼い子供のように見えて、白峰の胸がきゅっと締め付けられた。

(……可愛い……)


昨夜のことが、鮮やかに蘇る。

紅葉と紫のもてなしが始まった後、楼閣には次々と美しい花魁たちが現れた。

紫色の着物、紅の着物、淡い桜色の着物……

それぞれが違う艶やかさで微笑み、白峰ときみどりのために煌びやかな宴を開いてくれた。

琴の音が響き、華やかな舞が繰り広げられ、甘いお酒や果物、色とりどりのお菓子が次々と運ばれてきた。

きみどりは目を輝かせてはしゃぎ、白峰の手を引いて一緒に踊ったり、笑い声を上げたりしていた。

花魁たちも優しく二人を囲み、きみどりの頭を撫でたり、白峰に穏やかな言葉をかけたり……

あの一時は、本当に楽しかった。

温かくて、優しくて、まるで夢のようなひとときだった。

(……楽しかった……

みんな、笑顔で……きみどりを可愛がってくれて……

私にも、優しく接してくれた……)

でも——

その記憶のすぐ隣に、紫の苦しげな表情と、紅葉の遠い目が浮かぶ。

「わたしたちは……人にそうあれと願われて生まれた妖怪です」

「迷い込んだ人の子を魅了し、もてなし、最後に喰らう……」

白峰の指が、布団を強く握りしめた。

(楽しかったのに……

あんなに優しかったのに……

彼女たちは人を食べるんだ。

私も、いつか……あの笑顔の裏で、喰われていたかもしれない……)

胸の奥が痛いほど締め付けられる。

優しさと恐怖、楽しかった余韻と、妖怪としての残酷さが激しくせめぎ合い、白峰の心を乱していた。


そうこうしているうちに、静かに障子が開いた。

「もうお目覚めですか?」

紫が優しい笑顔で入ってきた。

彼女はきみどりの寝顔を見て小さく微笑み、そっと肩を揺すった。

「きみどりちゃん、起きなさい。

帰る時間ですよ」

きみどりは「んー……」と不満げに目をこすりながら起き上がった。

紫は白峰に向かって丁寧に頭を下げた。

「紅葉様が出口でお待ちです。

どうぞ、こちらへ」


白峰はきみどりの小さな手を握り、紫に導かれて遊郭の出口へと向かった。

細い路地の先、遊郭の境界ともいえる大きな鳥居のような門の前に、紅葉が優雅に立っていた。

深紅の着物が朝靄の中で幽かに輝き、黄金の蜘蛛の装飾が淡い光を反射している。

周囲の提灯はすでに灯りを落とし、甘い香りだけが静かに残っていた。

紅葉は白峰の顔をじっと見つめ、穏やかで少し寂しげな微笑みを浮かべた。

「縁があったらまた会いましょう、可愛い陰陽師さん」

その言葉は、優しく耳に溶け込むようだった。

しかし白峰の胸は、鋭く痛んだ。

(……また会う……?

こんな場所で……?

それとも……)

頭の中では、昨夜の煌びやかな宴、きみどりの笑顔、紫の悲しげな瞳、紅葉の優しい手つきが次々と蘇る。

返事をしようと思ったのに、喉が詰まって言葉が出てこない。

ただ、紅葉の瞳を見つめ返すことしかできなかった。

紅葉は白峰の沈黙を優しく受け止めるように、静かに目を細めた。

その表情には、別れを惜しむような、ほんのわずかな哀しみが浮かんでいた。

次の瞬間、周囲の景色がゆっくりと歪み始めた。

鳥居の向こうから白い霧が立ち上り、遊郭の建物や提灯の赤い光が、まるで溶けるように薄れていく。

きみどりの小さな手の感触が、ふっと遠のいた気がした。


白峰は慌てて横を見たが——

きみどりの姿は、もうそこにはなかった。

黄緑色の着物も、温かい小さな手も、忽然と消えていた。

「澪ちゃん!?」

突然、スマートとは程遠い、ほとんど悲鳴に近い声が響いた。

御堂奏だった。

彼女は目を大きく見開き、信じられないものを見るような顔で白峰を見つめている。

その声を聞きつけた黒崎がすぐに駆け寄ってきた。

黒崎が眉を寄せて低く言った。

「……どこ行ってたんだ、お前」

御堂はまだ動揺を隠せない様子で、白峰の肩を掴んだ。

「一晩中、どこをうろついていたんですの!?

心配しましたのよ!?」

白峰はたどたどしく、昨夜の出来事を説明し始めた。

異空間のこと、紫のこと、紅葉のこと……

煌びやかな宴のこと、優しかった花魁たちのこと。

ただ、きみどりの存在や、彼女たちと本当に楽しかったという気持ちについては、うまく言葉にできなかった。

「多分……女郎蜘蛛たちは、大丈夫です……

暴れたりしないと思います……」

その言葉に、皆が複雑な表情を浮かべた。

特に御堂はまだ信じられないという顔で、白峰をじっと見つめていた。

黒崎は無言で腕を組み、厳しい目で白峰を見据えていた。

少し時間は遡る——


仙台郊外の森の中、封印の祠の前。

ぼろぼろのコートを着た男が、静かに立っていた。


男は祠の表面に手を当て、ゆっくりと目を細めた。

封印の力が弱まっているのを確認すると、男は低く、意味の分からない言葉を繰り返した。


「可哀想……可哀想……」


その声は、まるで自分自身に言い聞かせるようだった。


「みんな、可哀想……」


男はゆっくりと手を離し、祠の周囲を眺めた。


「妖怪たちも……人の子も……みんな可哀想だ……」


風が木々の葉をざわめかせる中、男の姿は静かに闇に溶けていった。

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