……晋介……?
黒崎の後ろについてエレベーターに乗り、地下4階のボタンを押す。
表向きは「資料保管庫」と書かれた扉の向こうは、意外と広く整然とした武器庫だった。
黒崎が重い扉を開けると、奥の方で書類を抱えたサラリーマン風の男性がこちらに気づいて近づいてきた。
眼鏡をかけた地味な印象の男性は、黒崎を見て小さくため息をつきながらも、すぐに姿勢を正して私に向き直った。
「はじめまして、白峰澪さんですね。 隠蔽調整班、通称 黒子班所属の藤堂 司と申します。 本日はよろしくお願いいたします」
丁寧で落ち着いた声と、はっきりとした自己紹介。 これまでの黒崎や室長とは明らかに違う、しっかりとした印象を受けた。
(……地味だけど、すごく丁寧な人だな……
なんか、ようやく普通の公務員っぽい人に出会えた気がする……)
私が内心でそう思っていると、黒崎さんが横から面倒くさそうに口を挟んだ。
「 地味だが使えるやつだよ。
気も効くし、優秀な後輩だ
ただ、飯に五月蝿え」
……え?
私は思わず目を丸くした。 あの適当そうな黒崎さんが、こんな風に信頼を込めて言うなんて意外すぎる。
(……黒崎さんって、意外と後輩をちゃんと評価してるんだ……
褒め方が変だけど……)
藤堂は少し照れくさそうに苦笑しながら、黒崎を軽く睨んだ。
「黒崎さん、褒めるときはもう少し素直に言ってくださいよ……」
その間、黒崎は慣れた足取りで棚に近づき、黒い拳銃のようなものを手に取って、ぶっきらぼうに私へ手渡した。
「ほれ、晋介25号。お前さんのしばらくの相棒だ」
私は恐る恐る両手でそれを受け取り、思わず小さく呟いた。
「……晋介……?」
直後、慌てて声を上げた。
「これ本物ですか!?」
黒崎はそれを聞いてケラケラと笑いながら、馬鹿にしたように言った。
「本物のわけがないだろ。
警察に捕まっちまうだろうが」
藤堂がすぐに黒崎を諌め、穏やかで丁寧な口調で説明を始めた。
「黒崎さん、新入りをからかわないでください。
白峰さん、こちらは簡易退魔銃の最新モデル、晋介25号です。
外見はモデルガンとほとんど変わりません。
一般の方が持っていてもただのエアガンに見えます。
妖封士が氣を込めることで退魔の弾となって打ち出すことができますので、警察に捕まる心配はありませんよ。」
私は渡された晋介25号をまじまじと見つめながら、当然の疑問を口にした。
「……簡易って事は、しっかりしたものもあるんですよね?」
藤堂は頷き、表情を少し引き締めて続けた。
「はい。その通りです。
私たちが使う武器は大きく簡易と真打の2種類に分けられます。
簡易クラスは外回りや軽い巡回時に使うものです。
一般人が持っていてもモデルガンや木刀とほとんど変わらないため、目立たず持ち運びやすいのがメリットです。
ただし出力が抑えめで壊れやすいのが欠点です。
特に黒崎さんのような高出力の方だと、すぐに壊れてしまいます。
一方、真打は本格的な討伐任務の際に使用する高出力・高耐久の武器です。
真打は実弾に氣を纏わせて撃つタイプの拳銃や、刃が本物の刀などになり、威力は非常に高いですが、警察に捕まるリスクがあるので、討伐時のみの限定運用となります。
簡易クラスでも数十万円、真打になると数百万円単位になりますので、取り扱いには十分注意してください。」
私は晋介25号を握ったまま、頭の中で数字がぐるぐる回っていた。
(数十万とか数百万……新人に渡す物じゃないよ……
しかも黒崎さん、今月だけで3丁壊したって言ってたよね?
私の給料から天引きされたら一瞬で赤字なんだけど……?)
その時、黒崎がニヤニヤしながらからかうように言った。
「壊すんじゃねーぞ、新入り」
私は思わず顔を上げ、さっき聞いた言葉を思い出した。
「……あの、さっき今月だけで3丁壊したって言ってませんでした?」
黒崎は一瞬目を丸くした後、肩をすくめておどけたように笑った。
「まあ、そんなこともあるさ」
藤堂がすぐに黒崎を諌めるように、ため息をつきながら言った。
「黒崎さん……本当に新入りの前でそういうこと言わないでくださいよ。」
藤堂は軽く咳払いをして、話題を変えるように続けた。
「ところで、白峰さん。
今日はただの武器の受け取りだけではありません。
これから軽い外回り任務があります。
場所はあきる野市にある古い神社周辺です。
その神社は昔、百目鬼を封じていたと言い伝えられている場所で、 最近その近辺で怪奇現象の報告がいくつか上がっています。
夜中に奇妙な複数の目のような光が見えた、とか、 突然強い視線を感じて動けなくなった、といった内容です。
今回の仕事は現地視察と簡易調査です。
まだ本格的な顕現が起きているわけではないので、危険は少ないと思いますが……
念のため、晋介25号は常に携帯しておいてください。」
「百目鬼ですか?……? 妖怪……?」
(……百目鬼? 聞いたことあるような、ないような……
しかもいきなりって、さっきまで妖怪退治するなんて事すら知らなかったのに、もう具体的な妖怪の名前が出てくるなんて……
私の頭、追いついてないよ……!)
「詳細の資料はこちらになります。
詳細は道中に説明しますので、後で目を通しておいてください。
どうせ黒崎さんは要らないでしょ?」
藤堂の呆れたような声の質問に、黒崎は棚の方に戻りながら
「当然だろ」
とだけ答えると同時に晋介25号と同等の簡易退魔銃をさらに5丁ほど無造作にカバンに突っ込んでいた。
黒崎は私と藤堂の視線に気づくと、平然とした顔で肩をすくめた。
「保険だよ、保険」




