新入り、でしたね?
お弁当を食べ終え、他の巡回箇所も無事に確認を終えた頃には、すっかり陽が傾いていた。
「藤堂さんのおすすめの特製海鮮弁当、本当に美味しかったです……」
白峰は歩きながら、つい先ほど食べたばかりの弁当の味を思い出して小さく微笑んだ。
新鮮なイカやエビの甘みがご飯にじんわりと染みたあの味わいが、まだ口の中に優しく残っている気がした。
同時に、あきる野の路地裏にあった少し小汚い街中華屋のことがふと思い浮かぶ。
(……あの天津飯と餃子も、めっちゃ美味しかったな……
外観は正直ビビったけど、藤堂さんが自信満々に連れて行ってくれたお店だったっけ)
思わず口元が緩んでしまう。
あの時は百目鬼の事件の直前で胸がざわついていたはずなのに、今こうして思い返すと、妙に温かくてほっこりした気持ちになる。
藤堂はそんな白峰の様子を見て、優しく微笑んだ。
「気に入っていただけて良かったです。
今日はもう十分ですね。特対室に戻りましょう」
二人は並んで六本木へと歩き始めた。
特対室に戻ると、デスクの近くに、見知らぬ女性の姿があった。
黒髪を長めに一つにまとめ、ダークグレーのスーツを完璧に着こなした、品のある美しい女性。
彼女の立ち姿は、まるでその場にいるだけで周囲の空気を引き締めるような、洗練された気品に満ちていた。
鋭い目つきは優しさよりも知性と自信を湛え、わずかに上げられた顎のラインが、どこかツンとした高貴さを漂わせている。
女性は二人の方を見て、わずかに片眉を上げた。
「……お帰りなさい。遅かったですね」
その声には、はっきりとした京都訛りが混じっていた。
柔らかく品のある響きの中に、微かな冷たさと興味が混ざっている。
白峰は思わず固まった。
(……誰……?
こんなに綺麗で、気品があって……
特対室にこんな人がいたなんて……)
藤堂が小さく頭を下げて言った。
「御堂さん、お疲れ様です」
女性——御堂 奏は、軽く腕を組みながら白峰の方へ視線を移した。
その視線は、優しさよりも、興味深さと少しの棘を含んでいた。
まるで「この子が例の新入りか」と値踏みするような、鋭くも優雅な視線だった。
白峰は慌てて頭を下げようとしたが、奏はすでに軽く目を細めて、静かに口を開いた。
「新入り……白峰澪、でしたね?」
こうして、白峰の二度目の外回りは、予想外の人物との出会いで幕を閉じた。
小さな影が、ぴょんぴょんと跳ねながら独り言を呟いている。
「もうすぐ……もうすぐだよ……
ふふ、渦がくるよ……ぐるぐる、ぐるぐる……」
影はくすくすと笑いながら、指をくるくる回した。
「白いおねえちゃん、飲まれちゃう……?
あそぼ……あそぼうね……
ねえ、はやく……はやく来て……」
子供のような無邪気さと、どこか底知れない楽しげな声が、暗闇に溶けていった。
「モウスグ……ハジマルヨ……」




