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モウスグ、ハジマルヨ

皇居外苑近くの小さな祠の前で、藤堂は封印札を丁寧に確認していた。

「うん……今日は随分と安定していますね。

前回の巡回時より、封印の力がむしろ強まっている感じがします」

藤堂は少し首を傾げながら、そう言った。

普段より封印が安定していることに、かすかな違和感を覚えている様子だった。

一方、白峰は祠の前でぼんやりと立ち尽くしていた。

(……さっきの声……本当に聞こえたよね?

気のせいじゃ……なかったよね……?)

その時、再び白峰の耳にだけ、意味深な声が響いた。

『モウスグ、ハジマルヨ』

白峰はビクリと体を震わせた。

(……「もうすぐ、始まるよ」……?

誰が……? 何が始まるの……?)

しかし、それ以降は何も聞こえてこない。

周囲は静かで、藤堂も何も気づいていないようだった。

その一瞬だけ、祠の周囲の霊的濃度がわずかに上昇した。

藤堂の表情がピクリと変わる。

「……今、霊的濃度が少し上がりましたね。

白峰さん、何か感じましたか?」

「え……あ、いえ……何も……」

白峰は慌てて首を横に振ったが、心臓の音がうるさかった。


藤堂はもう一度祠をじっくりと観察し、軽く息を吐いた。

指先で封印札の表面を何度もなぞり、墨の薄れ具合や紙の状態を確かめている。

その表情はいつもより少し真剣で、わずかに眉が寄せられていた。

「他の異常は見受けられませんね……。

封印の力はむしろ安定しているようです。

……少し早いですが、お昼にしましょうか。

近くに良いお弁当屋さんがありますよ」

藤堂はそう言いながら、白峰の方を振り返った。

穏やかな笑顔に戻っていたが、目にはほんの少しの疑問が残っているように見えた。

「実はこの辺り、隠れた名店が多いんです。

特におすすめは『特製海鮮弁当』ですね。

新鮮なイカやエビがたっぷりで、ご飯に染みた出汁の香りが絶品なんですよ。」

藤堂は少し照れくさそうに笑いながら、いつものように飯の話題になると目が輝き始めた。

白峰は思わず小さく苦笑した。

(……藤堂さん、ほんとにご飯に五月蝿いな……

でも、なんだかほっとする……)

白峰は小さく頷いたが、心の中はまだざわついていた。


二人は祠を後にした。

しかし、白峰の頭の中には、先ほど聞いた不思議な声が、いつまでも残っていた。

『モウスグ、ハジマルヨ』

白峰は無意識に自分の耳を軽く押さえた。

まだ、かすかにその子供のような声の響きが、耳の奥に残っている気がした。

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