藤堂さんと巡回です
私、白峰澪は絶賛、藤堂さんと外回り中です。
配属されてまだ数日なのに、何も説明されないまま、流されるまま散歩……じゃなくて巡回中です。
(……これが妖封士の日常、なんだよね……?)
白峰が少し早足で歩き出すと、藤堂は自然とその歩調に合わせてくれた。
優しい気遣いが、なんだか少し安心する。
「今日は皇居周辺の封印状態の確認ですね。
比較的落ち着いたルートなので、歩きながら説明しますよ」
藤堂の穏やかな声に、白峰は小さく頷いた。
藤堂は歩きながら、静かに説明を始めた。
「白峰さん、ここまで妖封士の仕事について色々見てきましたが、改めて整理しておきましょうか。
実は……東京には封印されている妖怪はそこまで多くないんです」
白峰は少し驚いて聞き返した。
「え、そうなんですか?
東京って、なんか妖怪が多く出そうなイメージだったのに……」
藤堂は小さく苦笑しながら頷いた。
「ええ。伝承の多くは京都を中心とした西側に集中しています。
だから当局の本部も京都に置かれているんです。
関東支部は、黒子班も併せて100人ほどしか所属していません。
しかも……陰陽師の血を引く、いわゆるエリートがほとんどいないんです」
白峰は足を少し緩めながら、素直に感想を漏らした。
「意外です……。
じゃあ、東京の妖封士って、みんなたたき上げみたいな感じなんですか?」
「そうですね。
エリートは関西、本部や京都周辺に多いです。
ただ、最近は事情が変わってきています。
東京の一極集中により、人の負の感情が集まりやすいんです。
特に新月の晩などは、自然発生した妖怪の退治に駆り出されることが多くなりました」
白峰は思わず足を止めかけた。
「自然発生した妖怪……?
それって、どういうことですか?」
藤堂は穏やかに説明を続けた。
「妖怪の根本は、付喪神や八百万の神と同じです。
人のイメージや感情が、自然現象に形を与える……そういう存在なんですよ。
その形を与えやすいのが、特に強い負の感情。
東京にはそれが集まりやすいんです」
そうこうしているうちに、二人は最初の目的地である皇居外苑近くの小さな祠の前に到着した。
祠の周りは、皇居外苑の木々がやや密集した静かな一角だった。
石畳の小道が少し苔むし、木漏れ日が地面に斑模様を作っている。
風はほとんどなく、葉ずれの音すら控えめで、まるで時間がゆっくり流れているような場所だ。
ただ、空気が少しだけ重く感じる……百目鬼の時のように圧倒的ではないけれど、どこか湿った、じっとりとした気配が漂っている気がした。
藤堂は祠の前に立ち、軽く頭を下げてから白峰の方を振り返った。
「ここに封印されているのは、座敷童子です。
比較的穏やかな妖怪で、昔から家を守ってくれると言い伝えられています」
その瞬間——
白峰の耳にだけ、ふと小さな子供の声が聞こえた。
『……あそぼ……』
白峰はビクリと肩を震わせ、思わず周囲を見回した。
しかし、辺りには藤堂以外に誰もいない。
(……今、子供の声が……?
気のせい……かな?
疲れてるのかも……)
白峰は首を軽く傾げ、もう一度周りを見回した。
藤堂は何も気づいていない様子で、祠の封印札を丁寧に確認し続けていた。
彼の指が札の端をそっと撫で、状態を確かめている。
白峰は少し遅れて、藤堂の横に並んだ。
まだ声の余韻が耳の奥に残っているような気がして、なんとなく落ち着かない。




