表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/87

出来ませんじゃねぇ、やるんだよ!

数日ぶりに特対室の地下オフィスに足を踏み入れた白峰澪は、なんだか空気が重く感じた。

地下特有の淀んだ空気が、いつにも増して肺にまとわりつくようだった。

検査入院で数日休んでいたせいか、足取りが少し重い。

百目鬼との戦いの記憶がまだ鮮明に残っていて、胸の奥がざわつくような感覚が消えなかった。

(……黒崎さん……まだ入院中なんだ……)

デスクに座りながら、白峰は隣の空席をぼんやりと見た。

そこはいつも黒崎が座っていた場所だ。

今は無人になっていて、ただの椅子とデスクが、妙に寂しく感じられる。

百目鬼の戦いの記憶がフラッシュバックし、血の臭いや爆発の熱が、ふと鼻の奥によみがえる。

白峰は小さく息を吐いた。

地下の空気は冷たく湿っていて、まるで戦いの残り香がまだこの部屋に染みついているようだった。


ちらりと室長の相楽剛の様子を伺うが、まるで気にした様子もない。

いつもの厳つい顔で書類をめくりながら、コーヒーをすすっている。

白峰は小さく息を吐いた。

(……入院してたのに……心配する素振りすらしないなんて……

本当に平気なんだろうか……)

そこへ、白峰の出社に気づいたのか、室長の相楽剛が書類を片手に近づいてきた。

「おう、やっと戻ってきたのか」

同時に、無造作に巡回表と書かれた書類が白峰のデスクに放り投げられる。

白峰がまだ言葉を返す前に、室長はいつもの厳つい顔で言った。

「いつまでボケっとしてんだ。外回り行ってこい」

白峰は一瞬、言葉に詰まった。

「……え? あの、黒崎さんがいないので……」

「だからなんだ?」

「一人じゃ出来ないなぁ……なんて……」

少しおどけるように言った白峰に、室長は即座に返した。

「出来ませんじゃねぇ、やるんだよ!」

白峰が内心で小さく肩を落とすと、室長は一瞬だけ書類から目を上げ、彼女の顔をじっと見た。

厳つい表情のまま、わずかに声のトーンを落として付け加える。

「……まあ、無茶だけはすんじゃねぇ。

怪我しても面白くねぇからな。

黒崎の分までしっかりやれよ」

その言葉には、いつものぶっきらぼうさに混じって、ほんの少しだけ気遣うような響きがあった。

白峰は思わず目を瞬いた。

(……心配、してる……?)

室長はそれ以上何も言わず、再び書類に視線を戻した。


「失礼します」

丁寧な声と共に、藤堂 司が入室してきた。

「白峰さん、準備は出来ましたか? 今日は比較的落ち着いたルートなので、ゆっくり行きましょう」

その言葉を聞いた瞬間、白峰の胸にふっと温かいものが広がった。

(……藤堂さんが一緒なら、少しは安心できる……)

さっきまで室長に「一人で行け」と言われた時の、あの胸が締め付けられるような不安が、急に軽くなった気がした。

百目鬼の戦いの記憶がまだ生々しく残っている今、一人で外回りに行くなんて、正直怖くて仕方なかった。

でも、藤堂さんなら大丈夫。

あの時、結界を張りながら必死に自分を守ってくれた人だ。

戦いが終わった後も、すぐに駆け寄ってきて、黒崎さんのことや自分のことを気遣ってくれた……。

白峰は思わず小さく息を吐き、肩の力が少し抜けるのを感じた。

「お願いします、藤堂さん!」

新入社員らしい、精一杯の活発な声で返事をする。

声に自然と明るさが混じっていた。

こうして、白峰の二度目の外回りが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ