第35話:『狂気のヴァレット』
1.(起)
【逆光でも分かる異様な数の影。だが、その群れの先頭に、一同は「救い」を見た。】
ハウスキーパー 「ああ、バトラー!ヴァレット!無事だった……んですね……って……えっ……?」
【高揚していたハウスキーパーの声のトーンが、明らかに萎んでいった。ヴァレットの口は貝のように閉じられ、彼の眼鏡に反射される光の屈折が、さらに冷徹な雰囲気を醸し出していた。】
キヨシ 「まさか……ヴァレット……さん……う、嘘ですよね……?」
2. (承)
【アランを筆頭に地下施設に逃げ延びた者たちが恐怖から一転、二人の姿を見て、一度は心の底から安堵した。助けに来てくれた……これで助かると…だが……。】
アラン 「ヴァレット……そして、バトラーも……なのか……?」
香織 「……ヴァレットさん……なんで……?……なんで何も言ってくれないの……?」
【……だが……そうではなかった……。】
3. (転)
【ヴァレットは無言のまま、ピストルをキヨシへ向け――躊躇なく引き鉄を絞った。乾いた破裂音が鼓膜を突き刺す。】
キヨシ 「(……えっ……?)」
【激しい銃撃音が地下施設内に響く。泣きじゃくる香織にハルは咄嗟に覆い被さった。】
ヴァレット 「旦那様。よくぞご無事で。……到着が遅れましたこと、深くお詫び申し上げます」
【鼓動も温度も感じさせない、冷徹な機械音声のような声。ヴァレットは硝煙の漂う銃口を下ろし、何事もなかったかのように頭を垂れた。アランは戦慄し、言葉を失う。】
アラン 「……ヴァ、ヴァレット……お前、今、なにを……」
4. (結)
【アランは恐る恐る、親友が立っていた場所へと視線を這わせた。】
アラン 「……キ……ヨ……シ……?」
【そこに「彼」の輪郭はなかった。横たわる身体の、ちょうど頭部があったはずの場所は死角になり、伺い知ることはできない。】
ハル 「キ……キヨ……!?」
【だが、暗がりの床を急速に侵食していく黒い池――おびただしい血の広がりが、すべてを物語っていた。】
ヴァレット 「旦那様。キヨシはあろうことか、私の『宝物』を無残に損壊させたのです。……ゆえに、相応の罰を与えたまでです」
アラン 「……貴様……なっ、なにを言っている……!」




