魔王と勇者
城の屋根から、ティオが飛び降り着地する。
「女戦士のティオだったか? なんで、前戦ではなく城にいるのさ?」
「諸々の事情があってね。それよりも聞きたい、なんで2週間前の戦闘で、貴様達3魔将は姿をあらわさらなかった?」
ティオの表情から、怒りが感じ取れる。
「2週間前? 魔王ドラミスと勇者達が戦っていたときか? 俺様達3魔将は、上司面する魔王が邪魔で、あえて出陣しなかったのだよ。しびれを切らした魔王は自ら迎え討って倒されたけどね。おかげで自由に行動できるようになってよかったよ」
カメレオスは、けらけらと笑う。ティオは、4本の剣を鞘から抜いた。
「なるほど、出来の悪い部下共は始末しないとね。我が障害を焼き払え、焼炎弾」
カメレオスは、炎弾を避ける。炎弾は展望フロアの一部に燃えあたり黒煙が立ち上った。カメレオスは西の壁にはりついた瞬間に姿を消した。
「凍え咲け、氷点花」
氷の花像が床の一部をこなごなにした。そのうちの大きな破片がカメレオスにもどる。
「馬鹿な、なぜ俺様の位置が分かった?」
「貴様は体の特性で色や形や大きさは、自由に変化させられる。そして、移動する音は無詠唱魔法で消している。だが、貴様の魔力の匂いは消せないから私には、位置が分かるのだよ」
カメレオスはころげまわった後、すぐさま周囲の風景に同化した。
「馬鹿な! 魔力嗅覚なんて、魔王ドラミスしかできないはずだ!」
「私は、魔王ドラミスだ。風の断裂よ、障害を切り裂け! 風刃!」
カメレオスが姿形を変えども、彼女に感知され一方的に攻撃をくらう。
「何で、人間側にいるのだ? 裏切ったのか?!」
「裏切ったのはお互い様だろ? 大地に潜むもの邪魔者を貫け硬石槍!」
床から、巨大な石の槍が突き出される。カメレオスは致命的な攻撃を受ける。
「貴殿の傷よ、聖なる水で癒されよ、聖水生成」
「なんで……俺様の傷を治す?」
「貴殿の運命これより過酷を与えん落運」
カメレオスは、吹き飛び転げて混乱した。傷を治された矢先、攻撃するという行為が理解できなかった。
カメレオスは、ティオの表情を見る。彼女の瞳を何処かで見たことがあった。
――それは昔、魔王と部下たちで晩餐した時、大量に焼かれた肉を前に置かれたときの魔王の瞳を思い出した。
「まて、何をする? 俺をどうする気だ?!」
「我が魂の移設を貴殿に任命する魂移管」
城の展望フロアが光にまみれた。
**
カルは城内まで到達した、城内では展望フロアに黒煙が上っていることに城内の兵達はざわついている。だが、展望フロアのドア付近が破壊されており、兵士達は進めなかった。
「どいてくれ、俺がドアを斬り飛ばす!」
カルの斬撃により道ができ、そのまま展望フロアに駆けつけたが、カルは驚愕した。そこにティオが2人いたのだ。
1人は、倒れている。
もう1人は、立ったままカルを見ている。
「カル先生、気をつけてください! 立っている方は、3魔将の1匹カメレオスです!」
レイアが木剣を構えている。隣にブリンクマンもいるが、彼の片腕が無くなっていた。
「違う私は、肉体はカメレオスだが中身は魔王ドラミスだよ」
そう言って立っている方のティオは服装だけを変化させる。それは、2週間前に魔王ドラミスが着ていたものと同じデザインの黒いローブであった。
「うむ、この変幻自在の肉体は便利だな、魔力もかなりあるし……服装以外はティオの外見にさせてもらうよ。この方が交渉しやすい」
「交渉だと?」
「ティオは、私が憑依している間、眠っていてもらった。あと1時間後には目を覚ますだろう」
魔王は、そばに落ちていたブリンクマンの腕を拾った。
「勇者カルよ、人間と魔物の平和条約を結ぼう」
突然の提案に、カルは動揺する。
「2週間程、ティオの肉体に憑依し、人間社会を学ばせてもらった。そのうえで私は、人間と魔物は敵対してはいけないものだと確信した」
「そんな戯言、信用できるかよ」
「信用? カルは私を信用してくれたじゃないか? 私の料理の腕をね」
魔王は笑いながら、ブリンクマンに腕を投げ渡し回復魔法を詠唱する。
「ブリンクマン、あなたは未来が見えるようだが、何が見える?」
ブリンクマンは、付着した腕が動くことを確認した。
「……ふむ、大まかに2つの光景が見える。片方は平穏、片方は火の海だ」
「勇者カルよ、2択だ。この場で戦いを選ぶなら、私は周囲の人間達を巻き添えにする」
魔王の表情は、本気だった。だが、魔王の瞳には何か別のものが見える。
何処かで見た。何処で? そうだ、魔王が料理を用意して、俺に食べさせるときの瞳だ。あれは、自分自身を信用してほしいという瞳であった。
「……分かった。平和条約に応じよう」
魔王の瞳が輝いた。
この瞳が輝きも何処かで見た。2人で露店市場に行ったときと同じである。あの輝きは、新しい世界を見いだしたときのものなのだろうか。
「じゃあ、できの悪い3魔将を粛清したいから、手伝ってくれ。なに、私がカメレオスの姿になり奇襲をかければ楽勝だ。その後、魔物達を平定させて人間を襲わせないようにするよ」
「その前に、ティオの姿をやめろ。ティオが目覚めたら、斬り裂かれるぞ」
魔王は、自身の胸を大きくした。
「こうか?」
「違う、そこだけじゃない」
「この姿は気に入ってしまってね。カルが何とかティオを説得してくれ、成功すれば私が夕食を作ってやろう」
魔王は、また笑った。
「毒がはいっているかもしれないものを食えるか」
「カルの料理は毒以上だったよ」
「……まあいい、じゃあ魔物達を平定したら、料理を作ってくれ」
勇者と魔王は、街外にまだいる魔物の軍勢に向けて駆け出した。
この物語は、ここでおしまいです。
最期まで、読んで頂きありがとうございました。
あとがきは、明日にでも書きます。




