第23話 二つの魂、一つの想い②
ネザリウスの表情が怒りに歪む。
内に秘めた狂気と憎悪が、空間を軋ませていた。
赤い瞳がさらに光を増し、口元が歪む様子は、もはや人間性を捨てた怪物そのものだった。
声が轟き、副位層全体が唸りを上げて震動する。
神殿の壁が崩れ落ち、空間を支配する闇が渦を巻いた。
「愚か者めが……ならば、お前たちにも私の理想を理解させてやろう」
その声は冷酷で、感情を持たない裁断のようだった。
「まさか……!魂の強制融合……」
葵の顔が青ざめる。
ネザリウスが発動しようとしているのは、禁忌の中の禁忌とされる術だった。
「そうだ」
ネザリウスが狂気の笑みを浮かべる。
「副位層に囚われたすべての魂を、私に取り込む。そして、その力で現世と冥界の両方を支配し、完璧な秩序を築き上げるのだ」
両手を天に向けて掲げると、副位層の天井が割れたように光の糸が無数に降り注いだ。
砕けた石片が音を立てて落ち、冷たい風が空間全体を揺らす。
囚われた魂たちの叫びが響き渡り、恐怖と絶望が空間を満たした。
昇也は喉を締めつけられるような罪悪感を感じ、葵は震えが止まらなかった。
救えなかった魂を無理やり取り込むその姿に、前世での後悔が重なる。
「やめて!!!!」
葵は声を枯らして叫ぶ。
「その子たちは苦しんでいるのよ!!!」
だがネザリウスは冷たい目で葵を見据えた。
「苦しみなど一時的なものだ。完璧な秩序の前では取るに足らん」
葵の胸が締めつけられた。
前世でもこの暴力的な理想の前に、多くの命が失われた。
その時守れなかった後悔が、今も痛む。
けれど、昇也と約束した。
囚われていた魂たちを必ず救うと。
その約束を思い出し、葵は震える膝を押さえつけて立ち上がろうとした。
(逃げたくない、守りたい、昇也と約束したから……)
心の中でそう繰り返し、自分を奮い立たせる。
「今度こそ守る!」
「ああ!」
昇也も立ち上がり、鎌を握る手に力を込めた。
恐怖で指先がかすかに震えたが、葵の姿を見て、もう逃げないと決めた。
しかし強化されたネザリウスは、人の形を保ちながらも異形の存在となり、二人の攻撃をものともせず凌いだ。
衝撃波が走り、二人は壁に叩きつけられる。
葵は血を吐き、昇也も呼吸を荒げた。
それでも目を閉じない。
「葵……大丈夫か」
「何とか……でも、これじゃあ」
二人の力だけでは、明らかに限界だった。
ネザリウスはすでに、人間の範疇を超えた存在になりつつあった。
そのとき、奇跡が起きた。
先ほど二人が救済した魂たちの光が、遠くから飛んできたのだ。
光は二人の周りを包み込み、温かな力を与えてくれる。
(ありがとう)
(君たちを信じている)
(私たちも一緒に戦う)
救われた魂たちの声が、二人の心に響いた。
本来なら転生のサイクルに戻るはずだった彼らは、恩人である二人を助けるために、自らの意志で留まっていたのだ。
「みんな……」
葵の瞳に再び光が宿る。
昇也も立ち上がり、鎌を握り直した。
「そうだ……まだ俺たちの戦いは終わってない」
魂たちの支援を受けて、二人の全身が温かな光に包まれた。
まるで、凍てついた心と身体を溶かすようなぬくもりだった。
葵の傷口から流れていた血が徐々に止まり、痛みが和らいでいく。
昇也の荒れていた呼吸も整い、胸の奥から新たな力が湧き上がってきた。
(こんなにも……あたたかい。あなたたちが、私たちを支えてくれるんだね)
葵はその声に涙をこらえながら微笑み、昇也もまた、心の奥に広がる静かな力を感じていた。
(みんな、信じてくれてありがとう。私も信じる。もう一度立ち向かう)
(必ず守る。兄さんの記憶じゃない、俺自身の意志で)
昇也もその声に背中を押され、零士の記憶に縛られず、自分の意志で彼らを救う覚悟を新たにした。
しかし、ネザリウスの強化はまだ続いていた。
最終決戦は、これからが本番だった。
「面白い……ならば、その絆とやらがどれほどのものか、とくと見させてもらおう」
ネザリウスが最後の力を解放する準備を始める。
周囲の空間が軋むように歪み、床がひび割れて赤黒い光が漏れ出す。
神殿全体が脈打つように揺れ、闇が生き物のように蠢いた。
副位層全体が、彼の意志によって再構成されようとしていた。
昇也と葵は固く手を取り合った。
これまで培ってきた絆と、多くの魂たちの想いを背負って、最後の戦いに挑む時が来たのだ。
「行こう、葵」
「うん、一緒に」
二人の瞳に、不屈の意志が燃えていた。
お読みくださりありがとうございます!
ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!




