第22話 副位層への挑戦①
開かれた門の向こうは、想像を絶する光景だった。
無数の破片や建物のかけらが宙に浮かび、重力を無視して捻じれた形で漂っている。
空と地面の境目もあいまいで、歩いているうちに気づけば天井を歩いていることもある。
「これが……副位層……」
葵は震える声でつぶやき、昇也も初めて見るその異様さに息を呑んだ。
彼は正規のルートで現世に来た死神であり、この空間を直接目にするのは初めてだった。
空間は、そこにいる者の心の状態に応じて形を変える。
葵が一歩踏み出した途端、上下が反転しバランスを崩したが、昇也が素早く抱き止めた。
「心を落ち着けて、自分の立ち位置を強く意識して」
昇也の言葉に、葵は深呼吸して意識を集中し、地面を安定させる。
「ありがとう、頼りになる」
微笑みながら言う葵の瞳に、昇也は懐かしさと新鮮さを同時に感じた。
(兄さんもこんな気持ちで葵を見てたんだな……)
自然と胸に手を当てる。
零士から前世の記憶や想いを引き継いだのは確かだ。
でも、今この瞬間に葵へ向けている想いは、紛れもなく今の自分自身のものだった。
***
二人は慎重に歩を進めた。
空間は迷路のように捻じれ、重力の方向も変わる。
途中、歪んだ鏡のような結晶が浮かび、そこには魂を抜かれたような人々の映像が映っていた。
「ネザリウスの影響がこれだけ及んでいるのね」
葵が険しい表情を見せ、昇也も拳を固める。
そのとき。
「侵入者発見。排除開始」
無機質な声が空間に響く。
振り返ると、白い仮面をつけた人影が数体、宙に浮かびながら現れていた。
体は半透明で輪郭があいまいだが、手に持つ鎌のような武器だけは鋭い光を放っている。
「観測者……いや、ネザリウス側に落ちたものか」
昇也は呟いた。
零士を襲った記憶が鮮明に蘇る。
観測者たちに囲まれ、抵抗する間もなく貫かれた零士の姿が焼き付いていた。
昇也は奥歯を噛み締め、目の前の観測者を睨みつけた。
「葵、下がって」
昇也が前に出ようとしたとき、葵が彼の腕を掴んだ。
昇也の顔には憎悪の色が滲んでいた。
(零士の記憶を思い出してる……でも感情に流されないで)
震える手で昇也の腕を掴みながら、葵はその表情を必死に見つめた。
「大丈夫、昇也。私も行ける!」
葵が真剣な目で言い返す。
その直後、観測者たちが一斉に襲いかかった。
葵はとっさに剣を振るい応戦し、その姿を見て昇也はハッとする。
(……危ない、感情に引っ張られるところだった)
荒ぶる気持ちを抑え込むように深く息を吐き、冷静さを取り戻す。
死神の青い炎を纏った鎌を召喚し、迫る攻撃を受け止めた。
刃がぶつかるたび火花が散る。
昇也は一歩も退かず相手の鎌を押し返し、次の斬撃に備えた。
「ありがとう葵、怒りに囚われるところだった」
昇也は葵を見つめて微笑んだ。
葵もわずかに口元を緩め、真剣な瞳のまま微笑み返す。
その一瞬で、二人は気持ちを通わせた。
しかし、観測者の力は想像以上だった。
衝撃波が昇也を後方に押し戻す。
そこに別の観測者が背後から迫った。
「昇也!」
葵の振り下ろした剣の紫の光が閃き、観測者の動きを止めた。
隙を突いて昇也が反撃に転じる。
「俺の中に宿る記憶よ、力を貸してくれ!」
昇也の叫びとともに、彼の中で零士の記憶が呼応した。
死神の炎がより深い青色に変化する。
それは、零士の技と昇也自身の意志が融合した、新しい力だった。
「焔剣・零舞!」
昇也の鎌から放たれた青い炎が螺旋を描きながら観測者を包み込む。
苦悶の声をあげながら、消えていった。
しかし、まだ戦いは終わらない。
残りの観測者たちが、連携して襲いかかってきた。
昇也の鎌と葵の剣がぶつかった瞬間、二人の武器から不思議な共鳴音が響いた。
二人はハッと顔を見合わせる。
(これはもしかして……!)
同時にそう思った。
「葵、俺と力を合わせよう」
「わかった!」
葵の紫の光と昇也の青い炎が渦を巻くように絡み合い、美しい螺旋を描く。
その輝きが周囲を満たし、観測者たちの攻撃を完全に無効化した。
「いまだ!」
二人が同時に放った一撃が、爆発的な力を解き放ち、残りの者たちを一掃した。
静寂が戻った副位層で、二人は荒い息を整える。
「……これが本当の力」
昇也は驚きに満ちた声で呟いた。
単に力を足し合わせただけではない。
互いの力が響き合い、想像以上の結果をもたらしていた。
「過去でも、私たちはこうやって戦っていたのかもしれないね」
葵の瞳に、遠い記憶の断片が浮かぶ。
セインと肩を並べて戦ったかつての光景。
でもそれは懐かしさだけではなく、今この瞬間の二人だからこそ実現できた連携だった。
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