第21話 覚醒する力と再会の涙
葵は剣を握りしめ、血を吐きそうな息を吐きながら必死に戦い続けていた。
敵の呪文が放つ黒い触手を何度も切り裂くが、身体は打ち付けられ、何度も地面に叩きつけられる。
視界が滲むたびに、自分は本当に守れるのかと恐怖が胸を締めつける。
(負けたら、昇也も零士も……みんな……!)
だが足を止めるわけにはいかない。
意識が飛びそうになっても、葵は必死に剣を振った。
次の瞬間、闇の槍が伸び、彼女の心臓を貫かんと迫る。
目を見開く葵。
その瞬間だった。
大地が割れるような地響きが鳴り、地面から光が噴き出すように、青い炎と黄金が混じった光の柱が戦場を貫いた。
轟音が耳を打ち、空気が震えるほどの熱気が襲いかかる。
まぶしさに敵も葵も一瞬目を細めた。
その光が闇を押し戻していく様子は、恐怖と希望を同時に感じさせるものだった。
「何だ……?何が起こった!?」
黒装束の者たちが動揺して騒ぎ出す。
葵の手に握られた剣も、光に呼応するように脈動し輝きだした。
「え……なに、これ……?」
戸惑う葵の耳に、剣の奥から声が響いた。
(ついに、お前が来たか)
剣の意志が、長い時を待ち続けていたかのように静かに告げた。
葵は混乱しながらも、ぼろぼろの身体でその剣を支えながら前を見た。
光柱の中から、ゆっくりと歩み寄る影が現れる。
「大丈夫か?」
優しい声だった。
手を差し伸べるその人物の瞳は金色に輝き、身体は青い炎と黄金のオーラを纏っていた。
昇也だった。
その目を見た瞬間、葵の身体が小さく震えた。
震えたのは、彼女の魂そのものだった。
(……この目。この光……)
目の前にいるのは、かつての魂の伴侶。
葵の中に宿るキルハの記憶が、胸を突き破るように蘇る。
(やっと……会えた……)
溢れる感情が胸を満たし、涙が止まらなくなる。
理由はわかっていた。
ずっと会いたかった。
ずっと、守りたかった。
ずっと、傍にいたかった。
葵が差し出された手を震えながら握ると、青い炎と黄金のオーラが彼女の身体を包み込んだ。
死神の力には、命をつなぎ直す再生の性質がある。
その力が、葵の傷をゆっくりと閉じさせていく。
「ありがとう。俺らのために戦ってくれて。もう大丈夫だ」
優しく微笑む昇也の声に、葵の胸がまた熱くなる。
「ごめん……なんだか……涙が……止まらなくて」
嗚咽を漏らす葵を、昇也は安心させるように軽く頭を撫でた。
昇也は鎌を顕現させ、敵を鋭く睨む。
その背中は、葵が過去に見たあの日の姿と重なった。
黒装束の者たちは動揺を隠せなかった。
「忌まわしい力は我々が奪い取ったはずでは!?」
「そんなばかな……!」
叫びながら、慌てて呪文を唱えて襲いかかる。
昇也は構えた鎌を一閃した。
鋭い風圧が吹き荒れ、黒装束の者たちが恐怖に顔を歪める。
光の斬撃が闇を裂き、触手を焼き払い、地面を割って衝撃波を走らせた。
敵は悲鳴を上げて吹き飛び、その場には眩い閃光と残響だけが残った。
金と青の混じった閃光が嵐のように周囲を薙ぎ払い、黒装束の者たちをまとめて吹き飛ばす。
昇也の一閃で、ネザリウスの影が大きく後退し、濃密だった黒い霧も薄れた。
周囲を取り巻いていた邪悪な力が浄化され、倒れていた人々の魂を絡め取っていた闇が切り離される。
光る粒子が空に昇っていくのを見つめながら、昇也は息を整えた。
(……これで、魂を奪われる最悪の事態は防げた。でも……)
影は一掃されても、門そのものは開かれたままだった。
空間の亀裂からは、なお不穏な気配が漏れ出している。
(ネザリウス本体を倒さない限り、この脅威は終わらない。奴はまだ完全な姿じゃない。でも、門が開かれた今、この世界を喰い尽くすための足場を手に入れたも同然だ)
胸の奥に重く沈む覚悟と恐怖。
だが零士の「絶対に守れ」という声が、自分の中で静かに支えていた。
(兄さん……全部背負うから、見ていてくれ)
昇也は、零士の記憶をすべて引き継いでいた。
前世の戦いの記憶。
冥界で調べ上げた禁忌の知識。
そして零士が葵を見つめ続けた想い。
そのすべてが今、自分を支え、そして少しだけ重くのしかかっていた。
戦闘が落ち着いたその隙に、葵が震える声で言った。
「……零士は、どうなったの?」
涙をぬぐいながら、昇也を見つめる。
その瞳は戸惑いと不安で揺れていた。
昇也が今までとは違う鋭い光を宿していること。
言葉にできないほど何かが変わってしまったことを、彼女は感じ取っていた。
(私の知らないところで、二人はきっと何度も迷って、苦しんで、選んだんだ……)
その重さを想うだけで、胸が苦しくなった。
昇也は黙ったまま視線を落とした。
短く息を吐き、静かに口を開く。
「……兄さんは、ここにいる」
自分の胸に手を当てた。
それだけを告げた声は震えていなかった。
だがその言葉に宿る重みを、葵は痛いほど感じ取った。
葵の喉が詰まり、再び涙があふれる。
次の瞬間、昇也はゆっくりと手を伸ばし、葵を抱き寄せた。
「兄さんは、零士はここにずっとあり続ける」
葵は昇也の胸に耳を当て、そこから聞こえる鼓動に目を閉じた。
彼の中に確かに息づく零士の想いが伝わり、もう会えないという切なさと、夢の中でかすかに聞こえていた「大丈夫だ、俺はずっと、葵のそばにいる」という言葉を思い出して、声を殺して泣いた。
昇也はそんな葵を強く抱きしめた。
零士を失った痛みを飲み込むように、涙をこらえた。
(泣くわけにはいかない)
零士への想いを受け継いだ以上、過去から続く重い願いを未来へと変えていくために。
葵を守るために。
胸の奥で渦巻く感情を必死に押し込め、呼吸を整える。
ゆっくりと腕をほどくと、昇也は門の裂け目を鋭く見据えた。
(これが最後の戦いになるかもしれない。兄さんの想いも、前世からの因縁も、全部終わらせるために。俺が決着をつける)
「行こう。元凶を止めよう」
葵も涙をぬぐい、頷いた。
その手に再び剣を握りしめる。
「うん。絶対に一緒に行くから」
葵は真っ直ぐに昇也を見つめ、揺るがない決意をその瞳に宿していた。
昇也は小さく笑みを浮かべ、葵の頭に手を置いた。
「離れるなよ」
二人は門へと向かう足を踏み出した。
門の向こうから滲み出す圧倒的な気配に背筋を冷たくしながらも、互いを支え合い、決意を重ねて進んでいった。
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