第20話 門が裂けるとき、決意は試される①
目を閉じた昇也の視界に、闇が広がっていく。
その中で、誰かの声が遠ざかっていった。
零士。
葵。
手を伸ばしても、届かない。
叫んでも、声にならない。
「待ってくれ……!お願いだ……!」
何もかもが崩れ去り、ただ自分だけが取り残される。
(……また、誰も救えなかった)
魂の底から、冷えきった孤独が全身を締めつける。
(結局、俺は……一人になるのが、怖いだけじゃないか)
その隙間を縫うように、黒い囁きが染みこんでくる。
いっそ、全部捨ててしまえば楽になる。
誰にも期待されず、誰も守らなければ、痛まなくて済む。
その声はどこまでも甘く、どこまでも冷たかった。
夢の中で、昇也はただ膝を抱えてうずくまっていた。
***
目が覚めた瞬間、冷や汗が首筋を伝った。
息が浅く、胸が苦しい。
昇也はベッドに座り込んだまま、しばらく呼吸を整えた。
零士の言葉が頭の中でこだまする。
覚悟しろ。
その一言が、胸の奥に杭のように突き刺さって離れない。
(……俺に足りないのは、覚悟なんだ)
視線が膝の上に落ち、肩が静かに震える。
(誰かを守りたいと思いながら、肝心な一歩を踏み出せない)
大きなため息をついて、昇也はうなだれた。
そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
「昇也、いる?」
その声に、現実の重みが戻ってくる。
ゆっくりと立ち上がり、扉を開けた先にいたのは、制服姿の葵だった。
「今日は一緒に行こうと思って」
いつもの調子で笑う葵に、昇也はかすかに笑みを返した。
「……ああ。行こう」
***
二人並んで歩く通学路。
いつもと変わらないはずの風景が、どこか違って見えるのは、夢の後遺症のせいかもしれない。
隣を歩く昇也の表情は、どこか硬く険しかった。
笑ってはいたが、その目には深い疲労と迷いがにじんでいた。
葵はそんな彼の横顔をちらりと見て、胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。
(……やっぱり、無理してるんだ)
何かしてあげたい。
でも、どう言葉にしていいのかわからない。
ふと、零士の言葉がよみがえる。
『この先、何があっても、昇也の手を放すな』。
その言葉と同時に、葵はふと立ち止まり、昇也の手をそっと握った。
「……その、まだ具合悪そうだったから」
言い訳のような声だった。
本当はもっと自然に言いたかったのに、声がわずかに上ずってしまう。
(……変じゃなかったかな)
不安を抱えながらも、彼女の手は昇也の手を包み続けた。
不意に握られた手に、昇也の心臓が跳ねた。
まるで電流が走ったように、胸がドキリと高鳴る。
葵の方から近づいてきてくれたことが嬉しくて、思わず顔が熱くなる。
(落ち着け、俺……ただの手だろ、ただの……)
照れ隠しのように小さく咳払いし、視線をわずかにそらした。
「……うん、大丈夫。ありがとう」
握られた手を、今度は昇也が静かに握り返す。
わずかに顔を赤らめながらも、その温もりに安堵していた。
***
学校の門が見えてきた。
だが、近づくにつれて、異変が二人を包み込む。
門をくぐった瞬間、空気が一変した。
吐く息が重く、耳の奥に圧がかかるような違和感。
次の瞬間、周囲の生徒たちが次々に崩れ落ちていく。
「えっ……!?」
葵の叫びと同時に、複数の生徒がその場に倒れ、動かなくなった。
呼吸の音が消え、世界が静寂に包まれる。
気づけば、立っているのは二人だけだった。
「……これは……ネザリウスの波動だ」
震える手を握りしめながら、昇也は目の前に広がる異変の中心を見据えた。
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