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前世で愛した魂が、死神と幽霊に分かれて私を溺愛してくる  作者: だしのもと


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第17話 不協和の狭間で②

 昇也はまだ心の奥にわだかまりを残したまま、通常の任務に取り掛かっていた。

 だが、どこか集中しきれない自分に気づいていた。


 放課後。

 学園周辺で霊的調査と浄化作業を行っていた昇也は、ふとした違和感に眉をひそめた。


(おかしいな、浄化が……鈍い)


 結界を張る手のひらに、力が思うように集まらない。

 以前なら問題なく対処できていたはずの空間が、今日は妙に重たく感じられた。

 手のひらから結界が揺らぐたび、微かに黒い靄のような気配が混ざり込んでいることに、昇也はまだ気づいていなかった。


 それを見ていた葵が、そっと声をかける。


「昇也……どうしたの?大丈夫?」


「……あ、ああ。ちょっと疲れてるだけかも」


 彼は無理に笑顔を作ってみせたが、その声にはどこか張りつめたものがあった。


 ***


 その夜、帰宅した昇也は、灯りの落ちた静かな居間で、零士と向き合っていた。


「昇也。お前、何か隠してるな」


 その言葉に、昇也の肩がわずかに跳ねた。

 だが、すぐに表情を整え、平静を装う。


「……別に。何でもないって言ってるだろ」


「そうやって誤魔化すのは昔からの癖だな」


 重たい沈黙が二人の間に降りる。


「お前の力に何か変化があったはずだ」


「何もない! ただ、今日だけが変だっただけ」


 零士に背を向けた昇也の返答は、明らかに焦りを帯びていた。


「お前はどうしたいんだ。葵を、本当に守りたいと思っているのか」


 零士の問いかけは、静かでありながら鋭い。

 昇也の胸に突き刺さる。


「俺は……俺だって、守りたいさ。だけど、兄さんみたいにはできない」


「できないと決めているのはお前自身だ。力がどうとか、記憶がどうとか、それを言い訳にして」


「うるさいな! 兄さんに何がわかる!」


 昇也の声が、感情に震えながら響いた。

 その瞳には、痛みと悔しさ、そして怒りが滲んでいた。


「俺には何も……」


 絞り出すように吐き出された言葉のあと、昇也は視線を落とした。


 自分には何もない。

 過去の記憶も、兄のような確信も。

 葵との強い絆すら、まだ築けていない。

 好きなのに、ただの今しか手元にない。

 過去から繋がっているふたりには決して届かない場所に、自分は取り残されているような感覚。

 隣にいるはずなのに、手を伸ばしても、触れられない。

 もがくように胸元を握りしめ、昇也はひとり、苦しみに歪んだ顔を隠すように俯いた。


 昇也の苦悩を前に、零士は一切言い返さず、静かに歩み寄った。

 昔のように肩に手を置こうとするが、霊体であるためその手は昇也をすり抜ける。

 それでも零士は微笑み、低く静かな声で語りかけた。


「お前が何を持っていて、何を持っていないかなんて、関係ない。今、彼女を想っているお前のその気持ちが、いちばん強い力になる」


 昇也は、その言葉に戸惑いながらも、ほんの少しだけ自分を取り戻していく。


 ***


 翌朝。

 積み重なった不安を胸に押し込めながら、昇也はいつも通りの顔で学園に向かった。


 葵は彼を見つけると、明るく手を振り、駆け寄ってきた。

 昇也もまた笑みを浮かべて応えようとするが、その表情にはどこか影が差していた。

 それに気づいた葵は微笑み、そっと手を差し出す。


「昇也。手、出してみて?」


「え……なに?」


 戸惑いながら昇也が手を差し出すと、葵はその手のひらに飴玉を一つ乗せ、優しく握らせた。

 そして包み込むように両手で覆いながら、祈るように言葉を紡ぐ。


「元気になりますように」


 その笑顔に、昇也の胸の中にあった重たさが少しずつほどけていくのを感じた。

 まるでおまじないのような一瞬に、彼はほんの少しだけ、救われた気がした。

 彼女の柔らかな手を強く握り返し、その手をそっと自分の額に当てながら、


「ありがとう、葵」


 とそっと呟いた。


 ***


 一方その頃、霧に包まれたような歪んだ空間の中、黒い装束を纏った影がひとり、薄く口元を吊り上げていた。

 その足元には、かすかに揺れる昇也の魂の気配。


「……魂が揺らいでいる。もう一押しだ。お前が開けば、彼女もまた、こちらへ落ちる」


 影は手を広げ、昇也の心に生まれた小さな亀裂に指を這わせるような仕草を見せた。

 その瞳には、歪んだ確信と、冷たい愉悦が宿っていた。



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