↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で愛した魂が、死神と幽霊に分かれて私を溺愛してくる  作者: だしのもと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/43

第15話 深層に潜む影

 夜の静寂を切り裂くように、地下礼拝堂のさらに下層、地図にも載らない空間で、不気味な囁き声が反響していた。


「……境界は薄れてきている。もうすぐ器を手に入れることで完全に開くだろう」


 声の主は、黒衣に身を包んだ人物だった。

 その顔はフードの影に隠されており、ただ赤く光る瞳だけが、異様な存在感を放っている。

 傍らには数名のフードの一団。

 いずれも口を閉ざし、中央に広がる複雑な術式陣を囲んで立っていた。


 地面には古代の冥界文字が刻まれ、わずかに紫の光が明滅している。


「副位層との接続は進行中。門は三つ、開き始めている。最終の門である学園は……順調に歪みつつある」


「選別の儀は必ず成す。今度こそ、完全な魂を手に入れ、ネザリウス様のために」


 その言葉に、フードの一団が無言で頷いた。


 ネザリウス一派。

 冥界において禁忌とされた魂操作の術を信奉する、異端の存在たちだ。

 彼らが求める完全な魂とは、転生を繰り返して穢れた魂ではなく、縛られたまま純粋さを保ち続けた魂。

 絶望の果てでもなお光を宿す、そんな存在こそが理想だと考えていた。


「弱き魂は捨て去られるべきだ。価値ある魂だけが、新たな理を築く」


 それがネザリウスの思想であり、一派の信仰だった。


「彼女の魂が鍵となる。だが同時に、我らの障害にもなりうる」


「ならば、揺さぶればいい。心を、記憶を、夢を」


 影の一人が手を翳すと、紫の霧が術式の中心に立ち昇り、やがて少女の姿を象った幻影が浮かび上がった。


 紫月葵。

 その名を、彼らは魂の理想の器と呼んだ。


「今度こそ、復活のための糧になってもらうぞ。キルハ・シェイド」


 囁きのような声が地に響き、やがて空間が静まり返る。


 ***


 その頃。


 昇也は一人、資料室の裏手にある古びた礼拝堂の跡地へ足を踏み入れていた。


 かつては神聖な祈りの場だったと言われているが、今では人の出入りもなく、天井に大きな穴が開き、月明かりだけが冷たく差し込んでいる。

 瓦礫の中には崩れかけた聖具や古びた彫像が無造作に散らばり、異質な空気を孕んでいた。


 昇也は霊気の気配を探りながら、奥へと足を進める。

 その背後には零士の霊体が静かに浮かんでいた。


「……ここ、妙に霊気が歪んでるな」


 昇也の言葉に、零士が短く頷く。


「副位層との境界が近い。だがそれだけじゃない」


 そう言って、零士は瓦礫の下にある焦げ跡を指し示した。

 霊的な術式を刻んだ痕跡だ。

 ネザリウス一派が使う禁術の形跡だった。


「この場所、つい最近まで儀式に使われていたな」


「儀式?なんだよ、それ」


 零士は低く続けた。


「副位層の門を開くための導入儀式だ」


 現世と冥界の間には、決して踏み越えてはならない境界がある。

 それが副位層だ。


 本来は現世と冥界を隔て、互いの法則を交わらせないための緩衝帯。

 そこがあるからこそ、死者の魂は定められた道を辿り、生者の世界は守られてきた。


 だが、その封印がこじ開けられれば、奥に眠る異質な力が現世へ流れ出す。

 通常のルールが通用しない領域。

 秩序を破壊し、魂を歪める、暗黒の淵だ。

 だからこそ、死神たちはその境界を守る者として存在してきた。


「……つまり、冥界の制御を受けない領域ってことか」


「そうだ。その空間と現世を繋げることで、より強力な魂の選別が可能になる。俺たち死神の力を介さないからこそ、ネザリウスたちは副位層に執着する」


 昇也は唇を引き結び、拳を握りしめた。


 自分の通う学園の地下に、冥界の一派が干渉していた。


「……ふざけんな。ここは、ただの学校じゃなかったのかよ」


「もっと根が深いかもしれない。この学園は、副位層と接続しやすい場所の上に意図的に建てられている。記録の改ざんもある」


「どういう意味だよ、それ……」


 零士は静かに宙を見つめた。


「かつて冥界で行われた選別の儀というものがある。魂の価値を測り、淘汰と昇格を決する禁忌の儀式だ。選ばれた場に魂を集め、極限まで追い込むことで本質をむき出しにし、その価値を見定める」


「それを本当にやったら……魂は救えず、ただ苦しむだけじゃないか……」


 昇也は難しい顔をした。


「ということは、副位層の門を開くための儀式が、選別の儀と繋がってるってことか!?」


「ああ。多くの魂の選別が行われれば門の封印は解ける。そしてその混沌がネザリウスを呼び寄せるだろう」


 零士の視線が、礼拝堂の奥へ向けられた。

 昇也は言葉を失った。


(俺も、葵も、狙われる側ってことか?)


「……葵が特に危ない。選ばれし魂を求める者にとって、あの子は特別だ」


「葵が?」


 零士は静かに頷いた。


「葵の魂は転生を一度も経ていない。キルハとして命を落とした瞬間から、セインの禁忌の術で縛られ、この現世に至るまで一度も輪廻を経ず純粋な状態を保っている。そのため、崩壊も汚染もされず、莫大な力を内包する特異な器として存在している。ネザリウスが求める完全な魂に、最も近い存在だ」


 その言葉を聞いた瞬間、昇也の背筋に冷たいものが走った。


「……じゃあ、本当の目的ってのは……」


 昇也は口元を震わせる。


 もしかして自分たちと行動することが、敵の計画に加担していたのではないか。


 そんな思いが胸を締めつけた。


「くそっ……!」


 拳を強く握り、歯を食いしばる。


(だったら、俺が葵を守らないと)


 昇也の瞳が決意の色に染まる。


 その瞬間、遠くでガラガラと崩れるような音が響いた。

 昇也と零士は反射的に顔を上げ、周囲を見渡す。


「……礼拝堂の奥からか?」


「違う。もっと深い、副位層との接点に近い空間からだ」


「……この場所だけじゃないってことか」


「らしいな。他の門も、すでに開いている可能性がある」


 昇也は顔をしかめた。

 自分たちはまだ、ほんの入り口に立っているに過ぎない。


「急がねえと……何かが、始まってる」


 彼らが踏み入れた礼拝堂は、単なる廃墟ではなかった。

 副位層と現実世界が重なり始める、不穏の始まりの場所だった。


お読みくださりありがとうございます!

ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!


リクエスト企画の方は不定期で参加者様を募集してます。

Xで最新情報を投稿してますので、よかったらご覧ください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。