表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

第七章:蒼き静寂、秩序の断罪

闇の界の最深部。そこは「音」すらも凍りつく、絶対零度の虚無だった。


サタンデュオスが玉座で愉悦に浸り、アークが親友の灰を抱いて慟哭しているその裏側で、世界を分断する「亀裂」そのものが、ゆっくりと目蓋を開いた。


――サウザー。


かつて創造神ゼウスと共に世界を分かち、空の調和を司った蒼龍。


だが今、深淵の底で揺らめくその巨躯は、美しき調和の象徴ではなく、すべてを等しくゼロに帰す「冷徹な秩序」の化身と化していた。


その瞳が、闇の中で蒼く発光する。


「……不純な音が、響いている」


声ではない。それは大気の震え、あるいはことわりそのものが発する律動だった。


サウザーにとって、地上で繰り広げられる善神と悪神の争いも、アモルの自己犠牲も、アークの離反も、すべては「均整を乱すノイズ」に過ぎなかった。


サウザーはゆっくりと、数千年振りにその翼を広げた。


バサリ、と羽ばたきが起きた瞬間、闇の界の重力が狂い、黒曜石の宮殿がひび割れる。


「ゼウス……。お前が『無力』を選び、均衡を捨てたその時から、この世界は壊れた器となった」


サウザーの思考は、あまりに巨大で、あまりに孤独だった。


彼が求めているのは闇の勝利ではない。ましてや光の再興でもない。


「矛盾」を孕んだまま生き続ける生命そのものを一度すべて消し去り、再び完璧な、静止した秩序を築くこと。


「選ばれなかった者が、消えるべきだと……誰が決めた」


かつて彼自身が発したとされるその問いは、今や冷酷な断罪へと変わっていた。


「ならば、我が選ぼう。不純なる命を、等しく塵へと還すことを」


サウザーがひと鳴きすると、闇の空が鏡のようにひび割れ、そこから「蒼い雪」が降り始めた。


それは美しい雪ではなかった。

触れた者の魔力を吸い取り、存在そのものを希薄にする、存在の消滅を促す死の結晶。


闇の兵たちが、己の腕を見下ろす。


黒き輪郭が、その雪に触れた端から砂のようにほどけていく。


「なぜだ……我らは、不滅のはず……」


「我らは……正しかったはずだ……」


断末魔すら上げられず、彼らは確信に満ちたまま、虚無へと溶けて消えていく。


サウザーはその光景を、慈悲もなく、また憎しみもなく、ただ淡々と見下ろしていた。


「不純物は、排除すべきだ。神も、悪も、人も」


蒼き龍の全身から、絶対的な威圧感が噴き上がる。


それは、マースの「燃える火」やアスティシアの「祈りの光」とは根本的に異なる、抗いようのない「世界の意志」。



サウザーは、自分を呼び覚まそうとするサタンデュオスの浅ましい欲望すらも、冷ややかに切り捨てた。


彼はもはや、誰の「盟友」でもない。


「……来るがいい、火を継ぐ者よ」


サウザーの視線が、遥か遠く、火の界で飛翔するマース・クレイオスを捉えた。


「お前の火が、この絶対の静寂を焼き切れるというのなら――その時初めて、新たな理を認めてやろう」


サウザーが天へ向かって飛翔した。


その巨躯が雲を割った瞬間、ラザールの全土に「蒼い夜」が訪れた。


それは、世界の終焉を告げる、あまりにも静かで美しい夜だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ