表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第六章:黒き風、決意の刃

闇の宮殿、その最奥。


黒曜石の壁に囲まれた、窓のない一室。

アーク・バドルは、ひとり冷徹な静寂の中に座していた。


外では、蒼龍サウザーの目覚めを讃える悪神たちの狂乱が続いている。


だが、アークの耳に届くのは、その喧騒ではなく、胸の奥で鳴り止まない不快な鼓動だけだった。


「……均衡が、崩れたか」


彼の手元には、父サタンデュオスから下された、光の界への進軍命令が記された書状があった。


彼の中で渦巻く父への嫌悪、そしてこの閉じられた闇の世界への葛藤は、限界に達しようとしていた。


「俺は……こんな世界を望んだわけじゃない」


不意に口をついて出たその言葉は、誰にも届くことなく、闇に吸い込まれた。


その時、部屋の隅の影がゆらりと揺れ、一人の男が姿を現した。


「……焦るなと言ったはずだ、アーク」


ミュドルだった。


彼の瞳には、いつも通りの冷静さと、アークだけに見せるわずかな憂いが同居している。

彼はアークの手元にある書状を一瞥し、静かに首を振った。


「サウザーが目覚めた今、光の連中は風前の灯火だ。

……お前が何を考えているか、俺にはわかる」


「……わかっているなら、止めるな、ミュドル」


アークは立ち上がり、壁に掛けられた黒い剣を手に取った。


「俺は、マース・クレイオスの軍門に下る。……この腐った闇を切り裂くためなら、裏切り者と呼ばれても構わない」


アークの離反の決意。それは憧れというよりは、彼にとって唯一の「生きるための選択」だった。


ミュドルは動じなかった。ただ、アークの目をまっすぐに見つめ、小さく、けれど確かな覚悟を込めて微笑んだ。


「……そうか。なら、仕方ないな」


ミュドルは、アークを信じていた。


どんな選択をしたとしても、アークは最後まで己の信じた道を進むだろうと。


だからこそ、彼は親友として、そして監視役としての「最後の役割」を果たさねばならなかった。


「サタンデュオスの粛清命令が下った。……アーク、お前を狙う刺客たちが、すぐそこまで来ている」


ミュドルの言葉と同時に、部屋の扉が爆破され、瘴気を纏った悪神たちがなだれ込んできた。


「裏切り者アーク! その首、サタンデュオス様へ捧げる!」


アークが剣を構えた瞬間、ミュドルがその前に立ちはだかった。


ミュドルの体から、強烈な闇の力が溢れ出す。

それは、自身の生命力を爆発させる、禁忌の術だった。


「……ミュドル、お前……っ!」

アークが叫ぶ。


「ミュドル、離れろっ!」


ミュドルは振り返らなかった。

ただ、まっすぐに前を見据えたまま。


「俺は、お前を見てきた。

……お前が選んだ道だ、アーク。

……振り返るな」


彼は焦る刺客たちを巻き込み、自爆の術を発動させた。


「さよならだ、アーク。

お前が、自由になるなら、それでいい」


轟音と共に、光と闇が爆発し、宮殿の一角が崩れ落ちた。


爆風に吹き飛ばされながら、アークは見た。


炎に包まれながら、最期まで微笑んでいた、親友の姿を。


――その想いは、アークの胸に、深く刻み込まれることとなる。


崩れ落ちた瓦礫の中から、アークは這い上がった。


全身は傷つき、親友を失った喪失感に心は引き裂かれそうだった。


だが、その瞳には、かつてないほどの激しい「意志」の炎が灯っていた。


「……ミュドル。俺は……」


彼は、ミュドルの愛用していた髪留めの金属片を、瓦礫の中から拾い上げた。

焦げ跡の中にひとつだけ、無傷で残っていたその金属片を、握りしめる。


呟きは、誰にも届かない。けれどアークには、それで十分だった。


「……俺は、行く」


彼は父サタンデュオスの座す玉座を、一瞥もすることなく、宮殿を去った。


向かう先は、光の軍。マース・クレイオスのもとへ。


アークはもう、ただの「誰かの子」じゃない。

ミュドルの想いを、この剣に宿して戦う。


不穏にうねる風が、アークの背中を、光の方角へと押し出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ