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はるまげ☆どーたー  作者: 葵・悠陽
グリモワール第2巻
32/33

この手に握るもの

自分の無力を嘆く者の多くは、力を手にすると途端に豹変するという。


大金然り、権力然り、そして、武器然り。


普段の温厚さ、気弱さが嘘の様に消え去り凶暴な人格が表面に現れ、


周囲を傷つけ、貶め、踏みにじる。


抑圧された無力さへの不満がそういった形で出るのだというけれど


端的に言えば力に振り回されるだけの精神性しかないからそんな様になる……というだけの話で。


所詮力はただ力でしかなく、その在り様は扱う者の扱い方ひとつに左右される。


……とまぁ、その辺の理屈は誰しも頭では分かっていても、


実際に力を手にした瞬間心の弱い者は忘れてしまったり失念してしまったりする。


力を手にしたところで扱う自分自身は何の変化も進化もしたわけではないから


ある意味で先の見えた結末だ、と言えなくもないよね。




で、そんな偉そうな御高説を説いている俺はと言えば。


力なんてもんを与えられれば振り回される確信しかないねっ!はっはっは。


実際、天使神父から反射的に受け取ってしまった光輝く十字槍を手に


(これがあればこいつらを全員切り伏せてこの窮地を抜け出せるかも?)


と愚かにも考えてしまったし?


もし仮にその短絡的かつ無思慮な考えに流されて彼らに襲いかかっていれば


俺の、俺達の物語はここで『BAD END』のログが流れていただろうことは


全くもって疑う余地はない。


そんな最悪の事態を回避できたのは俺の自制心の賜物でも幸運の恩寵でも何でもなく


単に受け取った槍に仕掛けられていた『祝福』という名の呪いのおかげだったりする……。



                 ◆


(悪魔を殺せ!天に仇なすものへ粛清を!邪悪なるものに死を!殺せ!神威を示せ!悪魔は皆殺しだ!悪を許すな!神へ贄を捧げよ!邪悪なものに救いを!死をもって幸いを成せ!悪魔を滅ぼせ!邪悪を滅せよ!汚物は消毒だ!悪魔を殺せ!天に仇なすものへ粛清を!滅ぼすのだ!邪悪なるものに死を!殺せ!悪魔は皆殺しだ!悪を許すな!神へ贄を捧げよ!邪悪なものに救いを!死をもって幸いを成せ!主の降臨の日は近い!悪魔を滅ぼせ!邪悪を滅せよ!汚物は消毒だ!悪魔を殺せ!天に仇なすものへ粛清を!邪悪なるものに死を!殺せ!神威を示せ!悪魔は皆殺しだ!悪を許すな!神へ贄を捧げよ!邪悪なものに救いを!死をもって幸いを成せ!悪魔を滅ぼせ!邪悪を滅せよ!汚物は消毒だ!悪魔を殺せ!天に仇なすものへ粛清を!滅ぼすのだ!邪悪なるものに死を!殺せ!悪魔は皆殺しだ!悪を許すな!神へ贄を捧げよ!邪悪なものに救いを!死をもって幸いを成せ!主の降臨の日は近い!悪魔を滅ぼせ!邪悪を滅)


だああああああ!五月蠅い五月蠅い五月蠅い!


天使神父から光り輝く十字槍を渡されたわけだ。


槍を手にした瞬間は何も感じなかったのに、(あ、武器ゲット)と思った瞬間にこれだ。


頭の中に響き渡る、声、声、声、声、声!


「う、うぐぁ……」


「神の声が貴方にも聞こえるでしょう?

声に耳を傾け、全てを委ねるのです。

目の前の邪悪を切り払いなさい!

それで貴方は救われます、神の恩寵が貴方を祝福するでしょう!」

「「悪魔は滅ぼせ!悪魔は滅ぼせ!」」


響き渡る声と、それを煽る様な天使達の囁き。


左目がチリチリする。


湧き上がってくるのは言いようのない不快感。


何でこう、天使ってのは「殺せ殺せ」としか言わないのか?


うちの娘はいい子だよ?

ちょっとおませだけど将来美人になるのは間違いないし、

勉強だって頑張ってるし、男の一人親でも文句言わないし。

天使に絡まれてもいきなり襲いかかったりしないし、他の人に悪さしないし、

ちゃんということ聞いて魔法とかも使ったりしないし。

悪魔と人間の習慣とか考えの違いに戸惑ってる部分はあるみたいだけど

それでも善悪の判断はしっかりできるし、悪いことしたら悪魔らしく開き直る……

ところは要矯正だけども、考えなしってわけじゃないし!


何よりまだがきんちょだぞ?


子供だぞ?


将来性の塊なんだぞ?


育て方ひとつでいい悪魔にもなるかもしれないじゃないか。


「ボクわるいスライムじゃないよ?」って宣うスライムもいるご時世だよ?


うちのほのかだって「わるい悪魔じゃないよ?」って宣えるかもじゃないか!


それをほのかの事を何も知らんおっさん共が寄ってたかって殺せ殺せと喧しい!!


そんな怒りがふつふつと湧き上がってくる。


ほのかを見限られる悔しさがストレスになって胸を焼き焦がす。

イライライライラ!ムカムカムカムカ!プンスカプンスカ!


「うがあああああああ!!

やっかましいわあああああ!!」


「きゃっ!」「は!?」「え?」「なっ!?」


溢れる激情のまま槍を振り上げ、弧を描くように振り下ろす。


鋭い刃は宙にほのかを繋ぎとめる水の鎖をまるで空気の様にあっさりと切り裂き

返す刃は反対側の水鎖を同じように切断。


まるで手ごたえを感じぬままに、光の円弧はほのかを縛る束縛から彼女を開放する。


俺は即座に脳内で大合唱鳴りやまぬ槍を地面に深々と突き刺し、

空になった両手で落ちてくるほのかを確保。


「ほのかっ!」「パ、パパ!?」


状況が呑み込めない周囲を置き去りにほのかをぎゅっと抱きしめ、地面へとおろし、






「このお馬鹿っ!!!」「ひゃん!!」





その潤んだ瞳が見上げるのを無視して思いっきり脳天にチョップを叩き込んだ。


「ちょ、え?おい!ハルっ!」「え、い、一体なにが?」「何が起きてるんですか!?」


天使たちも状況が見えずに混乱している。

悪魔を助けた、すわ戦闘か?と構えたところで俺がほのかに一発入れたのだ。

俺の立ち位置、すなわち敵か味方か?何が起きたらこんな事態になるのか?の

想定が出来ていなかったのだろう。


……そう、これでいい。


天使神父たちには、ほのかがいい子である、わるい悪魔ではないと理解させねばならない。

その為には普通なら契約による順守命令でも全力で拒否するようなことを

ほのか自身の意志ですすんでさせればいい。


きちんと公共道徳に則った、社会的生命体として認知してもらい敵意を解くのだ。


前回襲ってきた奴らは下っ端っぽかったけれど、今回はそれなりの様子だし、

俺達がハルマゲドンに関与する気のない、安全な悪魔だと理解してもらえれば

今後こうやって襲撃を受けることもなくなるだろう。


それどころか、ご近所さんとして仲良くやれるかもしれない!


そんな内心の策を口に出す事は出来ないけれどきっと聡いほのかなら理解してくれると信じ、

俺は心を鬼にする。


「ほのか、正座っ!」

「え!?ええええっ!?今!?ここでっ!?」


チョップを入れた後、ほのかの前で腕組みして仁王立ちする俺。


お父さん怒ってるんだよ?てきな演出だ。


「うぅ……」


呪ったとか餌疑惑とかで追い目があるからなのか、

しょぼんとした様子でほのかがその場に正座する。

朝方のアスファルトだ。

本来ならこんな虐待じみた真似はしたくないけど仕方がない。


「ほのか、なんで俺が怒ってるか、わかるか?」


「……パパの事、餌扱いして呪ったから、でしょ?」


不貞腐れた様子で、さっきまでずっと答えなかったことをようやく答えてくれる。

やはり、ほのかは理解はしていたのだ。

自分が叱られるに足るだけの事をしていたのだと。

悪いことは悪い、そう理解できていた。


ただ、答えは求めていた答えではなかった。

俺が怒っていたのは、そんなつまらない事ではないのだ。

それをほのかは、やはり理解していなかったのだと、ようやく俺は知ることができた。


(あ~、なんかずっとほのかの態度が気になるなぁって思ってたけど、

そうか、あれ、昔の『俺』だわ)


何を言っても怒られる。

自分は悪いことをしたのだから。

何を言っても言い訳になる。

だから何も言わない、答えない。

責めたいなら責めるがいい、責められるだけの事をしたのだから。


ある意味で開き直り。

なまじ自分がしたことが如何なることか理解できるだけに

言い訳する事の無意味さと、諦念と、罪悪感から罪を受け入れ、貝のように押し黙る。


父親に怒られるたびに、俺もよくやった。

そして、その度に「生意気な態度だ」と殴られた。

殴られて当然だと思って、更に頑なに黙り込んで、また殴られる。

止める者もなく呆れられるまでそれは続いて、気まずい空気だけが残る。

誰も指摘してくれないから、それがいかに馬鹿な事なのかずっと知らないままだったんだよな。


警備員を始めてすぐの頃、俺のお師匠さんに言われたことだ。


「お前は悪い事を理解して、言い訳をしない姿勢は素晴らしい。

でもな?謝罪の姿勢は言葉にしなけりゃ、少なくとも大抵の相手には伝わらん」


要は、こっちが悪いと思ってても相手に伝わらなきゃ意味ないよね?という話で。


言葉が、態度が、コミュニケーションというものが、

いかに難しいかを思い知らされた一例でもある。


そんな昔の馬鹿な俺と同じ間違いをしているほのかには、

この場でその間違いをきっちりと理解してもらおうと思う。


「俺、呪われたこととか餌扱いについては怒ってないぞ?」


「…………ぇ?」


思い違いについてさらっと指摘したら、絶句された、何故だ。


「そもそも、親子関係ってよくわからんってほのかは言っていただろう?」


「う、うん」


「だったらそれを理解するまでは相応の日数がかかるだろうし、

その間ほのかが俺の事をどう見るかなんて……力をつけるための道具、じゃね?」


「え、あ、あれ?そう……なる……の?」


俺が自分の事をどのようにみられていたか、とか気にしないわけ無いじゃんね?

出来れば早く父親として見てほしいなぁ、って思いながら生活してたわけでさ?

口ではほのかは「パパ」って言ってくれるけど、実感が伴わないならそれは上滑りの言葉でしかない。

俺自身、「父親」ですってまだ胸張って言える自信ないしなぁ、情けないけど。


「だからまぁ、お前が俺に呪いをかけたってのもさ?

前の襲撃で妙なテンションになって勢いでやらかしたって考えれば納得いっちゃうんだよ。

ほのか、頭も良いし基本的にいい子だけど、結構抜けてるとこあるしな」


「ひ、ひっど~~~~~い!!」


「とまぁ、お前の思い違いは理解してもらえたと思うんだがな、

その上で俺がなんで怒ってるかわかるか?」


「うぅ……………わかん、ない」


抱えていたであろう罪悪感が行き場を失くして混乱している様がよくわかる。

自分がなんで怒られているのかが理解できないというのはさぞ不安だろう。

あんまり不安にさせておくのも可哀想なので、はっきりと告げる。


「ほのか、悪いことしたって自覚があるならちゃんと言葉にしなさい。

言葉にしなきゃ、人間は理解できないことの方が多いんだから」


「え、それって」


「そ、お前が悪いと思ってても謝らないから、怒ってる」


「そんなぁっ!ほのか、ちゃんと悪いことしたなって思ってるよっ!

でも、パパの事傷つけちゃったのは事…きゃっ!」


慌てたように『ちゃんと悪いと思ってたんだよアピール』を始めたほのかにチョップを入れ、黙らせる。

目線を合わせ、じっと見つめる。


「う、うぅ…………………」(じ~~~~~~~~~~~)

「あぅぁ………………」(じ~~~~~~~~~~~)


「うぅ、パパ、ごめんなさい…………」

「はい、よくできました」


観念したようにしょんぼりと謝罪の言葉を口にするほのか。

頑張った娘の様子に何か嬉しくなって頭を撫でまわす。

目を細めて俺のされるがままになるほのかがとても愛らしい。



「……なるほど、面白い見世物でした。

それで茶番は全部でしょうか?」


背筋の凍るような圧と共にそんな言葉が投げかけられる。


見ないでも分かる。


天使達、かなりご立腹だ。


彼等からすれば、茶番でも見せられたような気分だろう。

悪いことしました、ごめんなさい、だなんて口の上手い悪魔なら簡単に言ってのけるだろうし、

そんな言葉をこいつらに聞かせたところで何の譲歩も引き出せるとは思わない。


ここからだ。


背筋を流れる嫌な汗をあえて無視して、何事もないかのように俺はほのかへと語りかける。


「ほのか、ちゃんと悪い事に謝れて、偉かったなぁ。

んじゃ、次はちゃんとお世話になった人に『お礼』を言わないとな?」


「「「「……は?」」」」


ほのかと、天使たちの声が綺麗に重なる。


「俺の呪いを解いてもらったんだ。

ちゃんとそこの神父さんにお礼を言いなさい」


「な、何で天使に悪魔がお礼を言わないといけないのよぉ~~~~~!!!!」

「な、何で悪魔に私が礼を言われないといけないのですかぁ~~~~~~!!」







青い空の下、悪魔の少女(ほのか)天使神父(ハル……なんだっけ?)の悲鳴が響き渡った。




あぁ、やかましいなぁ。








ほのか「パパ、わたしてきには今って敵にお礼を言うしちゅえーしょんじゃないと思うの」

実利「お世話になったらちゃんとお礼を言う!それはどんな場面でも!社会人の基本だぞ?」

ほのか「え~~~?言えなかったらどうなるの?」

実利「少なくとも俺はそんな礼儀知らずを娘に持った覚えはありません的な?

ついでに一番嫌いな女のタイプ」

ほのか「神父さぁ~~ん♪パパを助けてくれて、ありがとぉ~~~♪」

実利「うっわ、凄い手のひら返しを見た気がするよ、女って怖い」

ほのか「!?」

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