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はるまげ☆どーたー  作者: 葵・悠陽
グリモワール第2巻
33/33

蛇蝎の如く

「……おいおい、なんかよくわかんねぇ事になってんぞ?

ど~すんだよこれ」


「ぼ、僕に聞かれてもわかりませんよ……ハルディエル様の判断を」


「そのハルが悶絶してるから聞いてんだろうが」


槍を構えたまま、どうしたもんかと狼狽える天使達。

肝心のハルディエルは実利からの申し出に全身に浮き出そうなさぶいぼを必死で堪え、

対するほのかは頭を掻きむしってまるで気が違ったかのような狂乱ぶり。


平然としているのは実利のみ、という状況。


提案した本人は、何故こんなにお互いが嫌がるのか、さっぱり分かっていない。


(うーん、悪魔が天使に感謝の意を示す。

悪魔側に抵抗があるのは予想の範疇だったけど、天使側のこの拒絶反応……。

そこまで嫌がるほどあり得ない話なのか?)


実際問題として差別主義者同士の争いよりも根の深い、存在意義レベルでの対立こそが

「天使と悪魔の争い」というものである。


「人間」としての意識が強い者同士ならいざ知らず、ハルディエルにしろほのかにしろ

「天使」「悪魔」という自我、自意識が強く表層に現れている。


そんな互いの精神状態でこのような提案をされれば、ある意味こうなっても仕方がない。


ファンタジー脳的に言うならサラマンダーに「ウンディーネとハグしてこい」と

言うようなものなわけだから。

全力で拒絶されるのは当たり前だ。

この辺を理解できないのはやはり本質的に異種族であるという証左なのだろう。

とはいえそのような事が分かっていた上での提案であったなら、

その悪意を天使に見透かされ即座に殺されるか痛い目にあわされるか

ろくな結果を招かなかったであろうことも事実。


もっとも、この提案はほのかにとっては自身の危険性の低さ、

天使との協調の可能性を示唆するにはもってこいである。


自分は「悪魔」であるより「人間」でいる選択を選べる、という証明になるのだから。


享楽的な悪魔という精神生命体において「我慢」という概念は基本的に存在しない。

人の身に受肉し、社会生活をおくる中で体験的に学び取るものなのだ。

「感謝」や「謝罪」に関しても同様。

本来持ちえない感情、思考であるからこそそれを示すことには意味がある。




「……ほのか、天使相手にお礼を言うってそこまで嫌な事なのか?」


俺としてはたかだか「ありがとう」の一言の為にここまで悶えるほのか達の様子が理解できない。

悶えている間にも考えたし、「どゆこと?」という思いを込めて取り巻き天使にも視線を送ったが

全力で視線を逸らされて、おおぅ…って気分だし。

さっきまで殺し合いをしていたマフィアとや〇ざ屋さんが

突然の休戦協定で握手するにしてもここまで酷い反応はしないだろう。


「………パパが言ってることって、わたしがパパを殺しかけたコレラ菌に

『パパをコレラにしてくれてありがとう!おかげでパパの体重が30キロも落ちてスリムになったわ!』ってお礼のキスをするくらい最悪な発言よ?」

「ちょ!」

「………腹立たしいですが同意見です。

貴方のおっしゃることは猛威を振るいまくったペスト菌に『おかげで沢山の人類が淘汰されたよ!ありがとう』と感謝状を贈るに等しい提案なのですよ……」


苦々しい顔で、うんざりした様子の天使神父と悪魔っ子がこちらを見つめる。

さっきまで殺し合いをしていたマフィアとや〇ざ屋さんが

突然の休戦協定で握手するよりも酷い顔がそこにはあった。


「い、良い提案だと思ったんだけどなぁ?」


「なさりたい事も目的も理解できなくはないですが、そのような悍ましい提案は」


「うぅぅっ…パパが考えなしに言うはずがない。

だったらほのかはパパの期待に応えないとだめっ!」


「やめていただきたく……は?」「お?」


困惑し、あくまでも拒絶する天使に対してほのかは違った。

初めて感じた「罪悪感」の負い目もあったのかもしれない。

胸に燻る天使への嫌悪は消えない。

それでも、実利を救ってもらったという事実は確かに存在し、

救われたことを嬉しいと感じる心は間違いなくほのかの胸中に存在した。


だとすれば、自分はこの瞬間何をするべきなのか?


力天使に取り囲まれ、絶体絶命の状況だったはずがいつの間にか混沌とした状況に変化している。

全て、実利が無意識に引き起こした状況だ。

ほのかを殺させない、なんとしても助けたい、その一念が動かした「今」を

ほのか自身が壊すわけにはいかない。

実利から渡された「天使に感謝する」というバトンをしっかりと相手に渡すこと。

それこそが託された想い。


ほのかは「悪魔」としての拒絶感を「人」の理性でねじ伏せる。


「パパの言う通りだわ。

天使だろうと悪魔だろうと、大事な人を助けてもらったのは事実だもん。

……パパを助けてくれて…………ありが、とう、感謝するわ」


「「「!!!!!!」」」

「おぉ~~~~~!!流石ほのか!

偉いぞ~!ちゃんとお礼言えたなっ!」


葛藤に言葉を詰まらせながらも、ほのかは「感謝」を口にした。

ありえない、絶望的な何かを見せつけられたように目を見開く力天使達。

実利は若干涙目で肩を震わせるほのかを抱きしめ、わしゃわしゃと頭を撫でまわした。


ぐすんぐすんとすすり泣きが響く。


ピンと、空気だけが張り詰めていた。



「有り得ない……有り得ないありえないあり得ない有得ない有りえない有り得ないありえないあり得ない有得ない有りえない有り得ないありえないあり得ない有得ない有りえない有り得ないありえないあり得ない有得ない有りえない有り得ないありえないあり得ない有得ない有りえない!!」


沈黙を破ったのは、ハルディエルの叫びだった。


「何故ですっ!?何故悪魔風情が我々に謝意を向けられるのですかっ!

我々は本質的に敵同士っ!存在自体が相いれないもののはずっ!

それが、それが口先だけでない、心からの謝意!?

そんなことは、あってはならないっ!」


「……ハル、そいつだ。

日崎実利、その男が口を開いてから状況がおかしくなった」


「なん、ですって?」


崩れるように膝をつき、天を見上げて吠えるように叫ぶハルディエルに

ワカニエルが応える。

実利に水の槍の穂先を向けながら。


「ハル、てめぇ気付いてただろ?

お前の槍の『祝福』、この男はどういう方法か真っ向から跳ねのけやがった。

普通なら天使の囁く声に人間風情が抗えるはずがねえってのにな?

それに………こいつが動き、口を開いてからだ。

そこのガキが解放され、俺達は混乱させられ、信じられないものまで見せつけられた。

挙句、今この瞬間俺達は戯言一つに言いくるめられかねない状況だ、違うか?」


「それは……」「そういえばっ!」


「待ってくれ!俺は無駄な争いは」「黙ってろ人間っ!」ジャキン!

「ひゃあっ!」


口を挟もうとした実利を槍を目の前に突き付けることで黙らせ、

ワカニエルは二人の同胞に説く。


「そこのガキもなかなかにやべぇ、やべぇけどよ、

………その男はもっとまずい。

今すぐ、殺すべきだ」


「ワカニエルっ!それは…!」


「ハルっ!

お前がダチの遺志を尊重したいって気持ちは分かる、スゲぇわかるぜ。

……だがよ、こいつはダメだ。

なんでこんな何処にでもいそうなおっさんがこんな上等な悪魔を飼ってるのか

えらく不思議だったけどよ……こいつは、おそらく『器』持ちだ」


「!?…………『器』持ちですか。

ならば、仕方ありませんね」


『器』という言葉が出た途端、二人の天使の殺気が一気に膨れ上がる。

これまでの困惑した雰囲気を一掃するような、冷徹な殺意の奔流。

地面が震えだし、空気が凍り付く様に重さと静かさを増していく。


「『器』!?『器』ってなんだよ!

俺達に戦う気はないっ!

ただ静かにのんびり過ごせれば、それでいいんだよっ!

何故ちょっかいを出してくるっ!

放っておいてくれれば俺達は何もしない!」


せっかくほのかが示した平和の糸口を潰したくなくて、俺は叫んだ。


戦う気はないんだ、何も悪さはしないしさせない、と。

どこか無駄なんだろうな、とは思っていた。

言葉を交わす段階は過ぎたんだろう、と理解は出来ていた。


でも、諦めたくなくて、叫んだ。

前回の天使達同様いきなり襲ってはきたけれど、助けてくれた恩義もあったから。


「俺達に戦う意志はないんだっ!」


「台所にゴキブリが出た。

……見逃す主婦がおりますか?」


天使の答えは、それだった。


こちらを見つめる天使たちの目は、三者三様。


軽蔑のこもった若い天使の目。

警戒心に満ちたチンピラ天使の目。

そして、どこか諦めたような、残念の目。


「……そっか、交渉の余地はもうないんだな?」


「残念です」


抱きかかえるほのかから密かな合図が返る。

天使たちの構える槍の穂先は油断なくこちらへとその切っ先を光らせる。

戦いは、避けられない。

その事実に俺はがっくりと肩を落とし、うなだれるしかなかった。


「別に意図して煙に巻くつもりはなかったんだが…こうなっちゃ仕方がないよな?

……交渉決裂だ」


合図と同時にほのかが突き出した手のひらから迸る白き光。

閃光が周囲を真っ白に染め上げる。


「ちいっ!」「なっ!?悪魔が光を!?」「焦っては思うつ」

「ほのかっ!飛べっ!」「まかせてっ!」


流石に場慣れしている様子の年長天使は即座に光に対応しようとしていたが

同時に放たれた「煙幕」と「飛べ!」という声に「チッ!」と舌打ち一つ

煙を避けるように高く飛びあがった。

若干遅れて煙の中から飛び出てきたオクナエルにワカニエルが呼びかける。


「オッキー!毒を受けたりはしていないかっ!?」

「は、はい!煙を吸ってはいませんから……」


困惑しながらも無事な様子のオクナエルの様子に二人はほっと息をつくが、


「………してやられましたね」「……あぁ、一杯食わされたぜ」


モクモクと広がり続ける煙幕を見下ろしながら、自分たちの迂闊さに苦い思いを抱く。

相談する時間などなかったはずだ。

念話などで会話していた様子もなかった。

ならば、これは事前にあの親子の間で練り込まれていた対応策という事だろう。

呪いから覚めたばかりのただの男、反属性で拘束できる程度の悪魔、

そう高をくくっていたからこそ裏をかかれた、付け込まれた。


光を使って目潰し、というのはよくある手だ。

煙幕で視界を潰すのは寡兵を埋める奇策でもある。

徹底して視覚を潰されたところに声で誘導された。

相手が「飛ぶ」事ができるならそれは天使相手にも上を取れるという事。

天使の強みは空から一方的に攻められる点に尽きる。

そのアドバンテージを潰されまいと反射的に飛び上がり、そこでブラフに気づいた。

「飛ぶ」と言ったからと言って本当に飛ぶ必要などないのだ。

そして、天使たちは完全に二人の姿を見失った。


「この煙幕を利用して時間稼ぎ、もしくは各個撃破狙いというところですか」


「……だろうな。この煙幕、魔力反応が強すぎて連中の居場所がさっぱりわからねぇ。

下から何か仕掛けてくるにしても、ギリギリまで分からねぇ可能性がある」


「な、ならこんな煙幕なんて吹き飛ばせば!」


オクナエルが鼻息荒くそう主張するが


「バッカじゃねぇの?

こんな広範囲の煙幕、下手に風の法術で吹き飛ばしてみろ。

更に拡散して手に負えなくなるぞ?

で、吹き飛ばしてる最中の隙だらけの姿やら、

煙に巻かれて混乱する様を間違いなく狙われるだろうなぁ」


「うぐっ」


「ワカニエル、いじめないであげてください。

隠れるにせよ不意を狙うにせよ、そして逃げ出すにせよ……

何かしらのアクションを取れば、必ず場に乱れが生じます。

相手の思惑に乗るようで不本意ですがここは上空から警戒するしかないでしょう」


じっと煙幕の拡散を見守りながらハルディエルが指示を出す。


3人の天使は更に空高く上昇し、周囲の警戒をするのだった。




ほのか「さぁ!パパお得意の空気を読まない行動が活路を開いたよっ!ここからはほのかの大活躍?」

実利「そう願いたいけど、3対1だぞ?勝てるのか?」

ほのか「無理。ぱわーあっぷしないときついかなぁ?」

実利「ですよねぇ」

ほのか「え?じゃあもしかして次ってばぱわーあっぷ回!?きゃ~~~♡」

実利「あ~、勝つためだから仕方ない、勝つためだから仕方ない、勝つためだから…」

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