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はるまげ☆どーたー  作者: 葵・悠陽
グリモワール第2巻
29/33

重ならない正義

読んでくださる方、ありがとうございます。

この話を続ける前に言っておくッ! 


俺は今、この先の展開をほんのちょっぴりだが、体験した


い…いや…体験したというよりは まったく理解を超えていたのだが……


あ…ありのまま 起こった事を話すぜ!


「俺は 妙な夢を見てた思ったら いつのまにか十数日経っていた。

挙句、おっさん天使が涙ながらにお目覚めを提供してくれた」


な…何を言っているのかわからねーと思うが 


俺も何が起きてんのかわからなかった…


頭がどうにかなりそうだった… 


薄い本だとかドッキリだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ


もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…



<まるでどこかのポルポル君の如き表情で日崎実利、かく語りき>


                    

                    ◆

「いやはやまったく、無事で何よりです。

日崎、実利さん、ですね?

あの酷い状況から、よくぞ、よくぞ!

これもあなたに主のご加護があったからでしょう。

クラフィエル、我が同胞よ!貴方の見立ては間違っていなかった!

神の忠実なる僕が今、貴方の遺志によってこうして生かされたのです。

あぁ、ハレルヤ!

הללויה、偉大なる神の楽園をこの地に!」


光り輝く4枚羽を背負った白いローブの中年のおっさんが

感極まって涙ながらに天に祈りを捧げている。


状態だけ切り取って言語化すると、何か荘厳な雰囲気と状況を彷彿させるが

現実にそのような場面に遭遇するとドン引き以外の何物でもなく。

可愛い美少女シスターならわかるけどさ?おっさんだよおっさん。

加えて言うなら、何がどうして今どういう経緯でこうなった的な

5W1Hに相当する途中経過がさっぱり分からない。

途中経過が分からないから、状況を受け入れるだけで結構いっぱいいっぱいだ。


何か凄まじい不快感を感じて目が覚め、飛び起きたらほのかは部屋にいなくて

何故か天使っぽいおっさんが感極まって騒いでいる、そこまでは理解した。


そのそも、ここはウチ、なのか?と言いたいくらいに凄まじい散らかりっぷり。

ゴミとほのかの着替えが散乱して、いわゆる汚部屋とかゴミ部屋だ。


汚部屋の真ん中で天に祈りを捧げるおっさん天使の図……美しくない。


(くそ、後で掃除だなこりゃ……って、ほのかは?

何故に天使が室内にいる?

寝てる間に侵入された?

何で泣いてんだこのおっさん天使?

意味わかんねーぞ?

どうなってんだよこの状況っ!)


天使=敵だ。


それが目の前にいるという事は現在交戦中。


どちらかというとチェックが掛かった状況下?というところか。


迂闊な発言は一発で詰みになるわけね?


はっはっはOKOK……最悪だなっ!


俺はそんな感じで今置かれている状況を無理矢理定義した。

頭は妙にズキズキ痛むし、胸もえらいむかむかする。

適応準備無しで水深10mくらいに叩き込まれた後くらいの不快感だわ。

何でこんなに体が不調なのかさっぱり分からん。

足りない情報だらけで正直何をするのが正解かなんてわからない。

でも、こういう時何もしないのが一番まずいんだという事を

これまでの経験から俺は散々思い知らされていたからね。


だから、動く。


「俺は………一体?

あんたは何者なんだ?

天使?、コスプレか?」


寝ているところを不意打ちなんてパターンは想定してなかったからなぁ。

寝ぼけて、状況がつかめていない態で差しさわりのない事を聞く。


()()()()()()()ほのかの事がすごく心配なのだけど、

外(だよな?)から聞こえてくる「放せっ!」という叫びを聞くに一応無事っぽい。

内心むっちゃ焦るけど、焦りは禁物。


「こ、コスプレ……おほんっ!

そうですね、貴方からしてみれば私は不審な家宅不法侵入者ですね。

私は稲気十字教教会神父で、堀越と申します。

天使としての名は、ハルディエル。

位階五位、力天使ヴァーチャーです」


力天使!?

中位天使だったよな?

なるほど、それで羽根が4枚なわけか。

セラフは6枚羽根だって聞いたことあるからな。

コスプレ呼ばわりに対して若干怒りの反応があったけれど

自分も不法侵入者である自覚はあったようだ。


しかし、神父さんなのか……。

十字教関係者ならある意味妥当と言えなくもないけど

こりゃあ近隣の教会関係は全部敵の巣窟と見るべきなのかなぁ?

それにしたって()()()()()()襲撃かけてくるほど攻撃的な連中とは思わなかった。


「天使……。

()()襲ってきた連中も天使だったけども、

ん?あれ?昨日?」


そこまで口にして、妙な記憶の齟齬に気づく。

昨日?昨日っていつの事だ?

今日は、一体何日だ!?


「やはりまだ記憶が混濁しているようですね。

日崎さん、落ち着いて聞いてください。

今は6月13日水曜日、午前5時41分です。

貴方は、ほのかと名乗る悪魔の少女に『呪い』をかけられ、

その魂を穢され続けていたんですよ」


「は?

え?

の、『呪…い』?」


「そう、『呪い』です」


「きっときちゃう貞〇さん系のあんな感じとか怪談の?」


「貞〇さん系…という括りにはちょっと職業的な抵抗がありますが。

呪殺されてもおかしくないレベルの、かなり性質の悪い呪詛でした。

あんなもの、悪魔以外に扱う術者はいませんよ」


「ほのかが…………?

…………マジかぁ~……」


考えもよらなかった事態に、うわぁ……、っと反射的に頭を抱え込んでしまう。

敵さん相手についつい軽口交じりに確認してしまうくらいに突拍子もない内容である。

思い出すだけでも不快です、といった感じで顔をしかめるハル何とかという天使。

堀越神父だっけ?なんでもいいや。

この話は真実なのか?という疑いはある。

敵の、天使の言うことだ。

信じるより疑ってかかるのは当然、なんだけども……。

欠落した記憶、部屋の中の惨状、そして天使がここにいる事実が

どうしてもこの話に説得力を与えてくる。


よりにもよって、ほのかが「俺」を呪った?

そんな馬鹿な、有り得ないだろと思う思考に激しい痛みとノイズが走る。


(……味し■、ただ■餌な■■か■♪)


脳裏に浮かぶノイズ交じりの言葉と、見た事の無いほのかの表情。

幼いながらも淫靡で邪悪な魅力を漂わせる悪女といった風格。

にんまりと口元をだらしなく歪め、貪欲な食欲と弑逆心で炎をすら滾らせた瞳は

なるほど人外の魔を想起させるに相応しいもので………


「がっ……!!な、なんだ、今のは?

え、餌?俺が?……あれ、が、……ほの、か?」


「思い出すこと自体、楽しいものではないでしょうね。

その痛み、記憶こそが貴方が悪魔に欺かれていた証拠です」


いくばくかの同情がこもった声で天使は静かに断罪する。


「あの少女は、悪魔です。

貴方の娘である、というのがどの程度まで真実なのかは我々には分かりません。

が、実際に悪魔を宿し、貴方を傷つけたという事実を以て

我々天使はあの少女を悪魔として断罪する義務があります。

……本来なら貴方への断りもなく抹殺するのが筋なのですが

貴方自身、利用されていたことに対する憤りもあるでしょう?」


「…………」


憤りは、確かにある。

この天使の話がまぎれもない事実であるというのなら

これまでの生活は全て茶番だったと言えなくもないから。

俺をただの餌だとだけの認識で、懐いてくれているように見えたのも

単なる振りだったとなればそれなりにショックは受ける。


だけど同時にどこか納得している自分もいる。

あれが悪魔としてのほのかの本性だというのであれば、

それを看破できなかった俺に見る目がなかっただけの事。


安易に決めつけは出来ないし、したくない。


ほのかは俺の娘だ。

是非は本人に問いたい。


「………ほのかに、直接確認したい」


苦虫を噛み潰したような気分で、天使神父に希望を伝える。

この返答を予想していたのか天使神父は


「あの悪魔を養育していた立場上、その希望はもっともなものですが

情にほだされる様なことがあれば……相応の覚悟はしていただきたく思いますね」


そう言って、にこやかに微笑む。

その笑みには明確な殺意が秘められているのが流石に鈍感な俺にも理解は出来た。

こいつらが、天使たちが、悪魔に対して妥協するはずがない。

それは前回の襲撃で既に理解している事だ。


しかし、腑に落ちない。


「……俺があの子の親だと知って、何故あんたたちは俺を助ける?

俺が呪いにかかろうが、悪魔の親ならば当然の報いなんじゃないのか?

俺は、あんたらが救いの手を伸ばすようなまともな人間じゃないぞ?」


こんなことを聞いても仕方がないのにと思いつつも、

どうやら救われたらしい、ということに対しての感謝の念はある。

だからこそ敵対者を何故救うのか、何故見捨てなかったのかを問いただす。


悪魔は容赦なく皆殺し、協力者も容赦なし、それはこちらの先入観年なのか?

もしかしたら自分たちの方が間違っているのかもしれない?

相手の事を一方的に決めつけ、対話の可能性を消しているのではないか?

想定外に救われてしまった立場としてはそんな懸念がぬぐい切れなかったのだ。


話して折り合いがつくならそうしたい、と思うのは人情だ。

(サーチ)(・アンド)必殺(・デストロイ)、キルオブゼムなどと殺伐とした生き方はしていないつもりなので。

もちろん明確な敵対者に容赦する気はないけれども。


そんなこちらの問いかけに、天使神父は苦笑いで答える。


「……正直な事を言わせていただけるのであれば、

私は悪魔の協力者に情けをかけた事はありませんし、かけたくもありません。

貴方を救いたいと願ったのはクラフィエル……

先だって貴方達を襲撃した天使達のリーダーである、私の盟友の遺志なのですよ。

貴方は悪魔と共に在りながらその力に溺れることなく人として正そうとしていた、と

それ故に貴方を救い、同胞に加えたいのだとクラフィエルは願っていました。

彼の遺志とはいえ悪魔の協力者に情けをかけるだけの理由はあるまいと

そのように思っていたのですが…悪魔の呪いに侵されていた貴方を見るに

協力者というより、被害者と私は判断しました。

その二つの理由を以て私は貴方を救おうと決めたのです。

……納得していただけましたか?」


俺達が、というより俺がこの手で殺したあの勘違い天使が?

彼の遺志が、俺にかけられたという呪いを解く遠因になった?


苦笑いを浮かべながらもこの天使神父が「盟友」と呼ぶ天使を語るときの表情は

実に誇らしげで、同時に失った悲哀と命を奪ったものへの怒りも漂わせていて、

俺は直接殺めた立場上非常にいたたまれぬ心境で。

(ほのか)を殺そうとした相手だし、自分が悪いことをしたとは微塵も思わない。

だが、あの天使を「盟友」と呼ぶこの天使神父から見ればどうだろうか?

互いの価値観、正義感が違うからと言って殺し殺されたことを納得できるか?

ははは…普通に無理だよなっ!

俺としては殺し合いのテーブルについたんだから殺されても文句は言えないよね?と

言いたい気分ではあるんだけれど、それはそれ、これはこれ、だろう。


人間自分の都合のいい現実しか見ないものだし……あ、こいつら天使だっけ?


(……これ、俺が殺りました!って言ったらどうなるんだろうか?

もしくはほのかがバラしたら、一発アウトじゃね?

なんか味方に引き込むつもりで助けましたって空気なんだけど、

天地がひっくり返っても無理だよなぁ?)


ふぅむ、と表向き考え込むような表情で誤魔化してるけど、

嫌な汗が背中をだらだら流れるのは止めようがない。

表でぎゃんぎゃん騒ぐほのかの声も「放せ!」「殺してやるっ!」といった内容で

どう贔屓目に見ても捕縛されている雰囲気だし。

そもそも「今のほのか」が俺の敵なのか味方なのかすら判断がつかない。

予備知識なし、状況説明なし、完全包囲済みの「詰めろ」状態と言える。

目覚めて直後のイベントにしては、ちょっとハードルが高すぎやしませんかね?


こちらのそんな内心の焦りなど知る由もなく、

天使神父は人好きする笑みを浮かべ俺を誘う。


「さて、これ以上あの悪魔を抑えてくれている仲間たちを待たせるわけにもいきませんし

貴方も真実をご自身で知った上で納得したいでしょう?」


立ち上がり部屋を出て行く天使神父の後を、俺は力無い足取りで追う。


(どうしよう?どうする?どうすればいい?)


そんな焦りに身を焦がしながら。







ほのか「詰めろ、ってこういう意味なんだって!」


【詰めろ】 必至に似たような状態で、次に何も受けの手をしなければ詰みになる状態を詰めろ(つめろ、詰めよとも)または一手すき(いってすき、一手透きとも)という。 「詰めろ」の語源は、「次にあなたの玉将を詰めるから、その前にこちらの玉将を詰めてみろ」とされる。 必至は詰めろの一種で、詰めろより強い状態であるといえる。(WIKI先生より)

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