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はるまげ☆どーたー  作者: 葵・悠陽
グリモワール第2巻
27/33

封じ手

6月13日(水)晴れ


先週までの日中の熱さはどこへやら、妙な涼しさが漂う。

少々早めの5月末から梅雨入りと言いながらも

関東方面は例年通りの梅雨らしからぬ梅雨。

その反面西日本方面では連日雨が続き、

このままでは大雨による被害が出るのはないかと危ぶまれている。


国際情勢も12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談で

アメリカ連邦国ドナルド・タロット大統領と北部朝鮮の銀正恩総書記とが

北部朝鮮の核武装放棄に向けて取り組んでいくことを宣言。

ニュースや新聞で大々的に発表されたそれが実際に効力を示すか否か?

きな臭かった極東情勢が今度こそ平和に向けて進展するか否か?

期待と不安で世界中が注目していた。


各地で頻発する災害、揺れる国際情勢。


だが、そんな社会の動きもその日暮らしで精いっぱいなただの警備員には

大して関係のない事で。


同様に、己の迂闊さで掘った墓穴を何とかしてリカバーしようと試みる

悪魔の少女にとってもどうでもいい事だったりする。




                    ◆


ここ数日、小雨が降ったりやんだりのぐずついた天気。


日に日に熱くなってきたかな?と思ったら急に寒くなったりで安定しない。

日本には四季というのがあって、季節はもうすぐ梅雨なんだってパパは言ってたけど

こんな感じの不安定な気候を梅雨っていうのかな?

今日はあったかいといいんだけどなぁ。

まだ朝早くだから晴れるかどうかは分かんない。

教えてくれるはずのパパも、おかしくなってしまって応えてくれないし。


その事を考えると胸がチクチク痛むけど…

正直、()()()()()で悩んでいる時間は無い。

早くパパを元のパパに戻さないと、「行政」とか「けーさつ」に

パパとの暮らしを邪魔されちゃうからだ。


「うーん…パパがわたしを認識することで

何らかの罪悪感を煽る術式なのは分かったのよね。

問題はそれがどんな罪悪感なのか。

殺人を犯したことに対する忌避感、ではないのは確実だけど

それ以外でパパがわたしに対して罪悪感を抱くだろう事が想像できない…。

そもそもパパはすっごくわたしを大事にしてくれてるわけだし、

無意識下でもわたしに対して間接的な援助をしてくれてるわけで……

わたしを放置してしまっていること?

でもそれじゃつじつまが合わないのよね。

呪いにかかったから放置しているわけで、

放置したから呪いで刺激を受けるわけじゃない。

う~~~~~~~~~ん…………」


呪いにかかって以降、お仕事から帰ってきたパパはお風呂に入った後

すぐに眠ってしまうようになった。

前は寝る前に次の日のご飯やお弁当の支度をしてから眠っていたのに

今はそういう事を一切しないですぐに寝ちゃう。

眠っていてもかなり酷い夢を見ているようで、日に日にやつれていく。

そして呪いを受けた胸元からはぼとぼとと瘴気が垂れ流される。

問題の親権の審査とかいうのがいつなのか分からないのがちょっと不安。

幸いお役所から連絡きてないみたいだから時間は……まだある、のかな。


でも、肝心の呪いの解除方がさっぱりなのよね……。


呪いをかけたからと言って意図的に狙った感情を押し付けられるわけじゃない。

適切なキーワードでかけなければ適切な効果が表れないのは呪いも同じ。


例えば美しさを自慢にする女性に絶望を与えるなら

「老い」「怪我」「病」による美貌の喪失を錯覚させることで大体いける。

でも同じ術式で後悔や罪悪心を与えるのはまず無理。

本人にとって後悔や罪悪感を抱かせる適切な楔、

例えば「略奪愛」なら自分の道徳心を刺激するなどしなければ

打ち込んでも弾かれたり狙った効果にならない。


パパの場合は罪悪感がそれこそ溢れかえるくらいに刺激されてる。


あの日のわたしが何を考えてパパに呪詛をかけたのか分からない。

分からないけどその時のわたしは恐らく気付いてしまったんだ。

パパに罪悪感を抱かせるだけの材料になる「何か」に。


「ああんっ!もうっ!

それさえわかれば解けるのに~~~~~!!!」


未だにわたしはパパの心が、気持ちが理解できていないってことだよね…。

そのことに思い至るたび、胸の中がもやもやしてじくじくと痛む。

わたしは悪くない、って思考が溢れ出して冷静さを失ってしまう。

昂ぶった感情をどうにか抑えながら問題に向き合おうと思うんだけど、

一旦こういう気分になっちゃうとやる気が削がれちゃう……はぁ。


わざわざ朝早くに起きてこうして呪いを説こうと頑張っているんだけど

これっぽっちも成果が出ないことに正直イラついていた。


………わたしね、気が短い自覚はあるの。

それでも辛抱して、気持ちを押さえてるんだけどなぁ……


お布団で眠るパパは悪い夢でも見ているのか、

眉をしかめて苦しそうに魘されている。

胸元からどぷどぷと溢れる瘴気。

放置しておくと家の中が瘴気まみれになるので必死で吸うんだけど、

日に日に味が悪くなっていくような気がするの。

あんなに甘くて蕩けそうだったのが嘘みたいに正直今は吸うのが辛い。

でも瘴気を吸う事で魔力が上がっているのは確かだから

仕方なく吸ってる。


呪いで無理矢理搾り取ってるから瘴気の質が落ちたのかなぁ?


苦し気にうなされるパパの顔を見ていると、

何とも言えない気分にさせられちゃう。


パパを困らせるのは楽しかったけど……

こういうふうに困らせるのは、なんか嫌だ。


そんなことを思っていた時だった。



ピーンポーン



「ほぇ?……こんな朝早くに誰だろう?」



ピーンポーン



しつこくチャイムは鳴らされる。


早朝の、一人暮らしだった男の人の家を訪れる存在……。

普通に考えればすごく怪しいって分かったはずなのに。

この時のわたしはパパの事で頭がいっぱいで、完全に注意力を失っていた。


(朝早くにうるさいっ!

パパがせ~っかく寝てるのに起こしちゃうじゃない!)


こういうのを「ひじょ~しき」って言うんだろうなっ!って

そんなことを思いながら


「今開けます~!」


と、無警戒に玄関に向かい………扉を開けた。


かちゃりと開いた扉の向こうには知らないおじさん達の姿。

にこやかに笑う中年の男の人を先頭に白いローブの男の人が二人。

見ず知らずの大人の姿に一瞬呆けてしまったけれど

どこかで見たようなその格好の正体は、彼らの胸元に光る首飾りが教えてくれた。

銀の輝きを以て揺れる十字架の首飾り、それは十字教の聖印。


「え、て、天使っ!?」

「ほう、お目当ての悪魔がのこのこと。

これは幸先がいいですねぇ」

「オイオイ、暢気が過ぎるぜ!ハルディエルっ!『水霊の縛鎖』!」

「くっ!『水霊の縛鎖』っ!」


後ろにいた男の人二人が法術を放とうとする気配に

慌てて魔法を発動しようと手を突き付けたわたしに向けて

トプンッと身体が空気に沈み込むような感覚が走る。


「うっ!」「遅い」


この感覚は、結界!?


結界に取り込まれる時の独特の沈み込むような感覚に気を取られた一瞬で

正面の男と扉の間から夥しい量の水の鎖が襲ってきた!

突然の攻撃に躱す間もなく手足は縛り上げられ、

幾重にも絡みつく水鎖は瞬く間に身体の自由を奪い去る。


それだけじゃない。

解き放とうとしていた魔力は水鎖に絡まれた途端霧散して

どれだけ練り込もうとしても魔法は発動してくれない。


「な、なにするのよっ!

離せっ!離しなさいよっ!!」


いくらもがいても水で出来ているはずの鎖は緩みもせず、ギリギリと締め上げてくる。

まるで生き物のように蠢き、鋼の如き強度を誇る水の鎖で拘束されたわたしは

抗う間もなく外へと引きずり出されてしまった。


「まさかいきなり本命のガキが出てくるとは思わなかったが……

ま、結果オーライじゃね?」


放せ!と騒ぐわたしを感じの悪い男がニヤニヤしながら嘲笑う。


「こんな幼い少女の姿で人に取り入ろうなど…やはり悪魔は邪悪です」


生真面目そうな男が嫌悪感もあらわにわたしをなじる。


「しっかし、見た目に反して随分な魔力持ちだなぁ?

一人じゃちとまずかったかもしんねぇわ」


「確かに……思ったより大物みたいですね。

未知の相手であっても限られた情報を正確に分析して

弱点を確実に突くことで被害を押さえる、

流石はハルディエル先輩の手配です。

いつ何時も適切な采配、勉強になります」


「おいおいオッキー、ハルをヨイショするのもいいけどよ?

実際この小悪魔封じてるのは俺様なんだぜ?

もーちょいケーイってもん示してくれてもいいんじゃね?」


「はぁ、そう言うところが尊敬できないんですよワカニエルさん。

それに一人じゃキツイって自分で言ってて敬意も何も無いんじゃありません?

あと僕の名前はオクナエルです」


「っかー!こまけえなっ!」

「あなたが大雑把すぎるんですっ!」

「どうでもいいから放せええええ!」「「やかましいっ!!」」


いくら暴れても騒いでも拘束は緩むことなく、

仲間の天使らしき男たちは余裕綽綽と言った様子。

挙句に「放せ」って怒鳴ったら怒鳴り返された…。

うぐぐぐぐ、天使たちは主として炎を扱うわたしの特性を見越して、

水の拘束法術の扱いが得意な天使を招聘したみたい。

わたしも力をつけた筈なのに、二人がかりで完全に力を封殺されちゃってる。

たかが下級天使ごときに相性差があったとしてもわたしを抑えられるとは思えない。

まさかこいつら、中級か上級天使!?

背筋をたらりと嫌な汗が流れる。

不味いよっ…!

この間の雑魚天使とは、こいつら明らかに格が違うっ!


今更になってわたしは自分が置かれている状況に気づく。

実はわたし、すっごくピンチじゃん!!

そんなわたしの内心の焦りを知ってか知らずか、リーダーらしき中年の男は


「ワカニエル、オクナエル、わたしは被害者を見てきます。

見た目に騙されることはないと思いますが注意してください」


とわたしを拘束する二人の天使に声をかけ、お家に入ろうとした。

家の中ではパパが寝ている!

こいつら、寝てるパパに何をする気!?

てか、それよりも今のパパを見られるのはヤバいんじゃない!?


「勝手にお家に入るなっ!

パパに何かしたら許さないんだからっ!」

「黙りなさい」「あぐっ!!」


中年の男が突き出した手から、石の礫が乱れ飛びわたしを打ち据えた。

水鎖で縛られたせいでバシバシと全身を打つ礫を躱すこともできなくて。


「はぅっ……うぅ……」


水鎖で縛られてるせいなのか、再生の力が上手く働かない?

打たれた場所が激しく痛んで、熱を持つような感じがする。

普段感じる事の無い苦痛に呻くわたしを天使たちが嘲笑う。


「はっ、無様だなァ?」「泣き真似だけは一流なのですね」


投げかけられる侮蔑の声、視線。

生き物のように蠢く水鎖は痛みに呻くわたしを宙に吊り上げ、磔にする。

まるで十字架に磔刑にされる罪人のように。


「……この家から流れ出る瘴気……、

余程見られたくない邪悪な行為でもしていたのでしょう。

一体どのような仕打ちをすればここまでの瘴気があふれ出るのやら。

全くもって汚らわしい悪魔ですね」


侮蔑と嫌悪の表情を浮かべ中年の男がお家に入っていく。


「うぅ…パパ……見るな、見るなぁ……!」



足掻いてももがいても、拘束は緩むことなく手足を締め上げる。

まさに、手も足も出ない。



悔しくて、悔しくて、悔しくて、悔しくて、

煮えたぎるような怒りが渦巻いて、目の前が真っ白になるくらいに

荒れ狂う感情がわたしを焼き焦がす。


でも、


どれだけ抗おうとも拘束は解けない。


















どこまでも、わたしは無力だった。






実利「なぁなぁ、いい加減俺の出番まだ?」

筆者「……(あんたらがダメだしするから投稿遅れてるんじゃん!)」

ほのか「だいじょーぶだよ、きっとパパが隠された力に目覚めてバッタバッタと天使を皆殺しにする展開が待ってるよ!楽しみー♪」

実利・筆者「……」

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