天使たちの襲来
投稿が遅れに遅れてますね、あはは…。
いやほんとすみません…。
うっすらと霧雨が舞う夜道を二人乗りの自転車がのんびりと駆ける。
熊の様な体格の男と、その背に張り付く可憐な少女という組み合わせ。
月明りもない陰鬱な天候の中、その二人から聞こえてくるのは楽し気な歌声。
「買~い物~する~ならいつ~だって♪
マイキ~・オル~テがお約~束♪
良いも~の安~くてあた~りっまえっ!
今夜も~贅沢できるかなぁ~?♪
Hey!Hey!Hey!マイッキ~!
マイキ~・オルッテ~!♪
激安当然!お得のちゃんぷる~♪」
「チャンプルぅ~!」(俺)
「Hey!Hey!Hey!マイッキ~!
マイキ~・オルッテ~!♪
来~る人誰でも笑顔のっお店~♪
マイッキ~・オルッテ~♪」
少女の歌声に合いの手を入れながら煩わしい霧雨の中を行く。
楽曲は我が職場「マイキー・オルテ」のテーマソング「Hey!マイキー」
店頭、店内問わず流れているオリジナルソングだ。
来店する若者や子供たちがよく口ずさんでいるのを見かけるたびに
絶対これって洗脳ソングだよな!と思う。
「ほのかはすっかりその歌覚えちゃったんだなぁ?」
「流石に毎日聞かされたら覚えちゃうよ。
妙にノリも良いし」
後ろで楽し気に歌うほのかの声は絶品だ。
カナリアのような声、などという比喩はどんな声なんだろうと
首を傾げたこともあったけれどほのかの歌を聞いて納得する。
なるほど確かにカナリアの様に澄んだ美しい歌声というのはあるのだ。
声楽なんかを勉強させたら大成しそうだよなぁ、と
その美声に聞き惚れながら考える。
むぅ、こういうのも親バカに入るんだろうか?
入らないと思いたい、実際素晴らしい歌声だし。
歌が「Hey!マイキー」なのがアレな感じだけどな!
「それにしても、ほのかはいい声だよな。
歌、そんなにうまいとは思わなかったよ」
素直に称賛すると、とんでもない返事が返ってくる。
「フェネクスって歌唱系の芸術にも卓越してるんだよ!
歌声に魅了された人を食べる、なんて伝説まで出来ちゃうくらい♪」
「マジか!?」
「うん、マジマジ」
「パパも魅了された?わ・た・しがぁ~♡食べちゃおっか?」などと
背後からぎゅっとしがみついてきてはクスクス囁く娘さま。
「魅了ねぇ。
歌聞いて感動した……というか、泣いたのは一度きりだなぁ。
セリ-ヌ・ディアンの『Because You Loved Me』を聞いた時だったかな」
昔の彼女に薦められて観たビデオで流れた曲を思い出す。
ちなみに聞いたその時は誰の歌か知らなかった。
無知って怖い。
「!?
パ、パパを泣かせた歌い手……!?
負けられない戦いがここにっ!」
「おいおい、相手は世界的大歌手だぞ…?」
「『歌姫王』に私はなるのっ!」
自転車が揺れて危ないんだが…
そんなことは構わずにどこかの麦わら海賊みたいなことを言うほのか。
セリーヌ・ディアンと並んで歌うほのかをちょっと夢想する。
ほのかが大きくなるころにはかの歌姫も初老のご婦人だろうしなぁ。
孫と歌うお婆ちゃんっぽいほのぼの感が溢れてそうだけども
ほのかはガチで勝負する気満々だろうな!
……声楽の件はちょっと考えた方が良いかもしれない。
仕事休み明けの初日、日曜日。
仕事を終えていつもの帰宅ルートを緊張感も無く走る俺達。
ここ最近ずっと続いていた『何者かの監視』にも慣れてしまい、
見られているだけならば放っておこうと放置していたが……
「相手」はようやく動きを起こす。
「襲撃」という形を取って。
◆
6月4日 0時20分
買い物などをせずにまっすぐ店を出て普通に家路に向かうと
ちょうどこのくらいの時間に梅見川神社脇のトンネル部に着く。
神社前の京成線の踏切が21分頃になると列車が来て閉まってしまうので
それを回避する事が出来るか否かがこのルートを取る際のポイントになる。
回避できなかった時はここで数分待たされるわけだが
その数分がなんか悔しい。
帰り道くらい、何の邪魔もなくストレートに家まで帰りたいじゃない?
その為、絶対に引っかかるだろうなという時は
梅見川を越えるあたりで速度を落としてわざと通過時間を遅らせたり
ささやかな工夫をしたりもする。
今日はちょうど通過した後に「カンカンカンカン」と踏切の音が鳴り響き、
ほのかと二人「「せーふ!」」と笑い合った。
「んじゃパパ、踏切も無事越えたし今日も挑戦?」
「もちろん」
俺の返事に、背中に抱き着くほのかがその手を腰のベルトに回す。
振り落とされないようにしっかりと握りしめるのを確認して、
ゆっくりと加速を始める。
踏切を越えた先、梅見川神社横の隧道。
ここはちょっと短めの心臓破りの坂になっていて
電動自転車でもない人は大概が降りて押していく「激坂」だ。
ここを二人乗り、立ち漕ぎ無しで突破するというのが
帰り道恒例の「挑戦」となっている。
これがおっさんの身には中々厳しい挑戦で、
この半月で成功したのはまだ1回のみ。
安定して成功させられるように努力あるのみだ。
「しっかりつかまってろよ~?」「うんっ!」
坂の前の信号を越え、隧道わきの歩道に乗り入れる。
加速
ペダルを踏みしめる足に思いっきり力を込め、回す。
ハンドルをしっかりと握りしめ、力の伝達を意識しながら踏み込む。
緩やかな坂になっている入り口部分を抜けると、
40mほど平らな道が続きその先に80m程の急斜面が待ち構える。
加速できる平地をフルに利用して、勢いを殺さずにどこまで行けるかがコツだ。
「ふんっ………っ!?」
「!?」
加速し始めた自転車に、更なる加速をと踏み込んだその瞬間だった。
何か空気の壁の様なものを突き抜けた感覚。
隧道部分、線路脇の側道へと上がる階段を抜けた辺りで感じたそんな感覚。
唐突な違和感に慌ててブレーキをかけると
「パパ!これ天使の結界だよっ!」
腰のあたりにしがみついていた手の圧が消える。
たんっ!という音と共にほのかが自転車から飛び降りたのが分かった。
「この神聖結界に反応するとは、
やはり貴女は小さくても悪魔・・・と言う事ですか」
隧道に響く、低い落ち着いた声。
ざっ、ざっという足音と共に歩道脇、側道の階段から人が降りてくる。
真っ白なローブに身を包み、同じく白い三角頭巾で顔を隠した大人たち。
どこぞの白人至上主義結社が被っているような、
目のところにだけ穴が開いた不気味な頭巾。
銀色に輝く直剣を眼前に立てつつ両手で握りしめ、
彼らはゆっくりと俺達の前に立ちふさがる。
前方に二人、後方にも二人。
隧道の歩道、その出入口をふさがれたような形になる。
さっきの妙な感覚がこいつらの言う神聖結界に取り込まれた感覚なんだろう。
以前聞いたほのかの話だと天使の結界は特定の対象を位相の違う空間に落として隔離するのだという。
かいつまんで言うと少しずれた狭い世界に閉じ込める感じ?らしいが。
俺も自転車を降りて彼等を警戒する。
白頭巾の4人はその場を動かず、黙したままじっとこちらを見つめていた。
「こいつらが、天使……」
「いかにも」
身構える俺に出口方面にいるリーダーらしき男が答える。
低く、それでいてよく通る声は落ち着いていて、
どこか人を安心させるような響きがある。
演説などをするには良さそうな声だ。
「天使を名乗る変質者の間違いじゃ?」
彼等の怪しげな格好に対し、軽く挑発の言葉を投げる。
多少の自覚はあるのか、ぞわっと怒りの空気が伝わってくるがそれだけだ。
挑発には乗らずに、
「……ならば、これが証明になるでしょう」
そう言ってその背にバサリと広がる白き羽根と、頭上に浮かび上がる光の環。
リーダーっぽい男に続いて他の3人も翼を広げる。
蛍光灯の淡い光の中、純白の羽根が広がる様は幻想的だ。
人ならざるモノ、天の御使い。
己の実在をその異形は確かに知らしめる。
息を呑むこちらの雰囲気に満足したリーダーっぽい男は
その手の剣を真っ直ぐ俺に突き付けると、ゆっくりと語り掛けてくる。
「日崎実利、その娘を渡してください。
貴方はその悪魔に騙されているだけなのです」
「ふざけないでっ!何で私がパ」
「黙るがいい悪魔っ!」「幼い姿で庇護心を煽るなんてっ!」
「悪魔の言葉など聞く耳持たぬわっ!」
ほのかを渡せ、というその要求にほのかが激高した瞬間。
他の天使たちが一斉にほのかを威圧する。
いきなり怒鳴りつけられたことで恐らくは反射だろう、
ビクッと震えたほのかが俺の背にぎゅっとしがみつく。
背に伝わるかすかな震えは恐怖か羞恥か、はたまた怒りか。
ほのかの性格を考えるに、天使を前に怯えるとは考えにくい。
「子供」の身体が威圧に竦んだのは彼女にとっては不本意であったろう。
……きっとこの震えは怒り、だなぁ……。
彼女の羞恥の怒りを背に感じながら
「……ほのかを渡したとして、どうするつもりだ?」
答えが分かり切っていたとしても、一応尋ねる。
「無論、殺します」
ですよねぇ~…。
だけどそういう訳にもいかないだろう?
悪魔かもしれんけどうちの子だし。
なら、やることは一つか、そう身構えた時。
リーダーの男から予想外の問いが投げかけられた。
「……日崎実利、何故悪魔を庇うのですか?
君は日頃から真面目に働き、職場での評判も悪くないと聞きます。
悪魔を傍らに置きながらも親として真摯に接し、
我欲に走ることもなかったと監視の報告もあります。
その行いは正しく我ら十字教徒の模範ともいうべきもの。
そんな君が、何故悪魔を庇うのです?
もしや、その悪魔の更生を望んでいるのですか?」
「…………はぁ??」
言われていることが即座に理解できずに硬直する。
俺が十字教徒の模範?
ほのかの更生?
こいつは何を言っているんだ?
仕事を真面目にやっているのは手を抜けるほど器用じゃないだけだ。
もっと要領よく立ち回れるなら警備員なんて割の合わん仕事はしない。
それに更生も何も、ほのかに人間の生き方、常識を教えるのは親の務めだろう?
元が悪魔だろうが何だろうがまだ子供なんだし。
………えっと、なにか?
ここで「はいそうです」とでも言えば
無駄な争いは回避できるのかね?
流石にそんなうまい話はないだろうと思いながらも
返事をしないでいられるほど人間が腐ってもいないので
意図するところが分からないが返事はする。
「そうだ、と言ったら見逃してくれるのか?」
「その志は尊いものですが、無理です。
悪魔は存在そのものが邪悪。
故に更生など期待できず、するだけ時間の無駄です。
迅速な排除、処理、それこそが神の望み。
神の使徒たるものの責務です」
「あくまでもほのかは殺す、と?」
「その通りです。
その悪魔が大きな罪を犯す前に、貴方を邪悪に染めてしまう前に、
この世界から排除しなくてはなりません。
日崎実利よ、目を覚ましなさい。
今ならまだ間に合うはずです。
我らの同志として、人々を苦しめ、貶める…」
あぁ、なるほど。
結局こいつらはほのかを見逃す気はない、と。
そして何をどう勘違いしているのか、この俺を真面目人間だと思い込み
改心させて仲間に引き入れようと?
馬鹿か?馬鹿なのか?
人様の大事な相手を殺すとのたまわりつつ、仲間になれ?
そんな交渉で仲間になる馬鹿が居るなら見てみたいわ。
いやはや、ほのかの言う通り交渉の余地はなかったか。
それが十分に理解できた俺は覚悟を決める。
俺の背中にしがみついたままの姿勢で先ほどからほのかはずっと黙っている。
無論、怯えているわけでも何でもない。
背中にそっと送られる合図が「準備OK」と言っていた。
俺を説得しようと言葉を重ねるリーダーらしき男に向け割り込むように言い放つ。
左手で嘆くような素振りで顔を覆い、目を閉じ、俯き、ただ一言。
「交渉決裂」
「悪魔を……なに?」
背後のほのかが突き上げた右手が凄まじい閃光を放つ。
「ぐああああああっ!」「きゃああああ!?」「な、何事だっ!?」
「み、みえな……目、目があああああ!」
武器を構えたまま黙って俺とリーダー天使のやり取りを見守っていた取り巻きは
ほのかの動きに即座に構えはしたものの対処は完全に間に合わず。
目潰しによってほんの僅かの隙が生まれる。
悪魔が光を武器にするはずがないだろう、という思い込みを突いた不意打ち。
それは完璧な形で効果を発揮した。
◆
天使たちがパパを懐柔しようと言葉を重ねている。
そんな奴らにムカついて割り込もうとしたら、逆に怒鳴り返された。
身体が勝手に竦んで、胸の中に恐怖心が沸き上がってくる。
ナニコレ?
ナニコレナニコレナニコレナニコレ!?
このフェネクスが!
大悪魔にして侯爵が!
たかだか天使風情の威圧に竦んだ?
怒鳴られただけで恐怖を感じた?
言い知れない怒りが、恐怖に震える心をあっさりと飲み込んであふれ出す。
ごぽごぽと煮えたぎる怒りが、竦んで反射的に掴んだパパのシャツに…
(いいかい、ほのか)
パパの背中。
なぜか安心する大きな背中。
熊みたいに大きくて、ちょっと脂肪が多めのぽよぽよした、
だけどとてもおっきな背中。
怒りに震える心は、目の前の大きな背中を見た瞬間に何故だかすぅっと静まり。
身体は震えたままだったけど、どうしてか頭の中が冷静さを取り戻す。
どっしりしたパパの後ろ姿がくれる、奇妙な安心感。
脳裏に浮かぶのはパパに「監視者」の存在を相談した時に言われたこと。
(いいかい、ほのか。
対人戦闘を行う際にはいくつかのセオリーがある。
不意打ちだろうが何だろうが、押さえるところを押さえれば
多少の力量差はどうにかできるもんだ)
そうだ、パパはきちんと事前に作戦を用意してくれたじゃない!
ほのかが怯えてパパの足を引っ張ってたら恥かしいよ!
パパは言っていた。
まずは落ち着いて。
敵の意図を探って。
確実に隙を突くこと。
今、パパは何をしている?
天使と話しをして「交渉」している。
きっと交渉は「決裂」するはずだよね?
だったら、私がすることは………!
わたしにはパパがいる。
とっても美味しい餌で、色んな事を教えてくれる素敵な旦那さま。
パパの立ててくれた作戦は「敵はとにかく燃やせばいい」とばかり思っていた私には
目から鱗が落ちるような、合理的な方法だったんだ。
策もなく、力任せに相手を倒そうとするやり方を「のーきん」っていうそうだけど
今までの私は間違いなくその「のーきん」だった。
だけど、もう違う!
パパから色んな作戦を教わって、色んなお勉強をして、
ほのかはパワーアップしたのです!
パパに「準備OK」の合図を送って、昂ぶる気持ちを一生懸命抑える。
こんな天使なんて、一瞬で焼き尽くしてやろう。
パパの考えた作戦で、スマートに、エレガントに、
その白い羽ごとまるっと焼き鳥にしてやるんだから!
パパの最中にしがみつきながら、じっとその時を待つ。
天使がパパを懐柔しようと説得らしき事をしている最中に
奴らの言葉に割り込むようにパパから合図が飛ぶ。
「交渉決裂」
来たっ!
わたしは即座に右手を上げ、練り上げていた魔力を解き放つ!
炎の生み出す光のみを圧縮、解放したその魔法は、
天使たちが使う「光」の理力とほぼ同質のもの。
眩い閃光は周囲を白く染め上げ、悪魔からの「光による攻撃」に
天使たちの反応は致命的に遅れる。
機先を奪い、五感を奪い、攻撃手段か移動手段を奪う。
パパから教わった対人戦のセオリー。
閃光は天使の視界を奪い、確かな隙を生じさせた。
戦闘における数秒の隙。
それは致命的な隙となる。
「はああああああああっ!」
目潰しを受け、苦悶の叫びをあげる天使たちに向け
わたしは即座に炎を放つ。
撃ち放たれた炎はわたしの正面にいる二人組の白い覆面を一瞬で焼き払い、
正確にその叫び声をあげる口の中へと吸い込まれていき……
「「!!!!!!!」」
真紅に輝く炎の奔流はまるで性命ある蛇のようにうねりながら
口を、喉を、腹を容赦なく焼き焦がしていく!
あっという間に2人の天使を物言わぬ炭の塊に変えながら
「パパっ!!」
振り返った私が見たものは………
あっさりとリーダーらしき天使ともう一人を屠り、
うんざりしたような顔でため息をつくパパの姿。
…………あ、あれぇ?
パパってば何で魔法で私が天使を焼き殺すのと同じくらい
あっさりと天使を皆殺しにしちゃってるの?
おかしくない?おかしくない?ねぇ!?
ちなみにパパは事前の打ち合わせ通り、閃光が放たれた瞬間自転車を投げつけ、
転ばせた相手の首を狙ってジャンプして踏みつけ、へし折ったみたいだった。
あらぬ方向へ首を向けた死体が二つ出来上がっている。
パパの体重(120kg)で首にストンプされたら……そりゃ折れるよねぇ?
「……うわぁ、パパ、思ったより躊躇いなくやっちゃったんだねぇ?」
呆れ半分、驚き半分でそんな呟きをこぼすわたしに
「…お前をあくまでも殺すと言い張る以上、やられる前にやるしかないだろうに」
と、ちょっと嬉しくなるようなことを言ってくれる。
わたしを護るために人殺しも辞さない覚悟!
ウフフ、嬉しいなぁ♪
これが愛されてる実感ってやつなのかな?
よくわかんないけど胸がポカポカするねっ!
パパの魂は天使を殺したことで、『業』がさらに色濃くなっている。
まるで黒い真珠みたいに、綺麗に澱んでる。
あぁ、あの魂を嘗め回したらどれだけ甘い味がするのかな?
考えただけでもぞくぞくしてくるんだけど、
パパは天使を殺したことにろくに罪悪感もない様子だ。
普通、人間って生き物を殺すと大なり小なり罪悪感があるっていうけど?
そもそも、「殺し」に対する忌避感ってものがあると思うんだけど。
「んも~、パパってばこんなにあっさり天使撃退しちゃうんだもん!
ほのかが2人焼き払うのとほとんど変わらない時間とか、おかしくない!?
普通もっと葛藤があったりとかするでしょ!?」
「なんで怒ってるのかよくわからんのだが……?」
困惑した様子のパパを見て、わたしはあることに思い至る。
思い至ってしまった。
目の前にある美味しそうなパパの『業』を見て
つい自制が利かなくなってしまったのもあったのかもしれない。
後になって思い返すとわたしって馬鹿だぁっ!って自分を殴りたくなるけど、
やってしまったものは仕方がない。
どうしてもパパの罪悪感を煽りたくて、
パパからあふれ出す極上の瘴気を貪りたくて、
わたしはパパの想いを貶める。
「……ねぇ、パパ?
初めて『人』を殺して………、今どんな気分?
……ふふっ♪」
「……何?」
一瞬だけ、パパの表情が揺らぐ。
「殺し」の覚悟はあったのかもしれない。
でも、それが「人間」であるとまでは考えていなかったのかな?
付け入る隙を見出して、わたしの中の悪魔は付け込んでいく。
「ねぇ、ねぇ、パパ?
もしかして気付いてなかったのぉ~?
わたしが『悪魔』だけど『人間』なのと同じでぇ~、
『天使』だって身体は『人間』だよぉ?」
わざと、パパの犯した「罪」を強調するように私は囁く。
「それ、は……」
「うん、わたしを護ってくれるために、
パパは人殺しになってくれたんでしょ?
ほのか、すっごく嬉しいなぁ♪」
パパの顔が、歪む。
怒りか、悲しみか、困惑か。
色んな感情が渦巻いてるみたいだったけど、
ジワリと罪悪感が瘴気となってあふれ出す。
ほんの少しだけ舐め取った瘴気。
あたまの中が真っ白になるくらいの刺激が、快感を伴って脳内を駆け巡る。
蕩けるような甘いその味わいにわたしの自制は一気に押し流され、
ただただパパから溢れるその甘い蜜の様な瘴気を貪る事しか考えられなくなる。
この時のわたしにとって、既にパパはただの「餌」でしかなくて。
悪魔としての本能が、パパの魂をしゃぶりつくそうと暴れ出す。
「ふふふふふ……あははははははは♪
ねぇ、パパ、パパ♪
人殺しって、悪い事なんでしょ?
そんな悪いパパがほのかのパパなんだよねぇ~?」
「うぅ……あ………」
「ね、そんなパパが、悪魔のわたしに人間の在り方を説いてくれるの?
それって、パパの言う『親として』、どうなのぉ?
ウフフフフ…アハハハハハハ!!!」
「あぁぁ……あああああああああああああ!!!!」
『親失格』…それが、パパの心をへし折るキーワード。
『家族』を欲したパパにとって、自身がそれを持つに相応しくないと
断じられることこそが恐怖であり絶望。
悪魔としてのわたしは、それを容易く見抜き、抉る。
でも、まだ足りない。
わたしは、パパの罪悪感を更に抉り出そうと言葉を重ねる。
「パパ?
パパは別に親である必要なんてないんだよぉ♪
だって、パパはほのかの旦那様でぇ………美味しい、ただの餌なんだから♪」
「え………さ……………?」
「うん♪ え・さ ♡ 」
「…………………」
「ほのかを護る為」という大義名分で殺人という罪から守られていたパパの心は
「ほのか」に『親として認識されていなかった』ことで寄る辺を失う。
無言のまま、ひざを折ったパパから怒涛のように瘴気があふれ出る。
その甘く蕩けるような瘴気を、わたしはただただ夢中で貪る。
自分が何をしたのかを自覚することもなく。
ただ、夢中に。
なるべく早く修正が終わるように頑張ります…。




