刈り取った命の価値
ほのかでーす。
筆者があんまりにも私達と違う私達を書こうとしていたので、ダメ出ししました!
2章が全部書き直しになったせいで投稿がこんなに遅れています。
お馬鹿な筆者に代わってほのかがごめんなさいしますね?
ごめんなさい。
あ、続きは書き上がり次第になりまーす。
ずいぶん昔の話になる。
小学校4年生くらいの頃だったか?
俺が友人の家に遊びに行った際に起きた出来事だ。
俺の故郷は山間の小さな町だ。
すぐ傍に霊峰と名高い高い山がそびえる谷間の小さな寂れた町。
その頃…1980年代頃と言えば電話なんて黒電話。
テレビだってブラウン管だし、ゲーム機もファミコン全盛の時代だな。
ファミコンなんて言って今の若い子がどれだけわかるか知らんけど
まだたったの30年程度しか経ってないんだぜ?
ケータイやらインターネットなんてものは物語や空想の世界の産物で、
今じゃ当たり前に普及してるパソコンなんてまだまだ何に使うの?ってレベル。
遊びといえば外で暴れる、っと、暴れるは言いすぎか。
外で元気に遊ぶのが主流でさ。
ファミコン持ってる奴は学校でも人気者。
週末ともなればそんな奴らの家に大勢が集合し、
親に「外で遊べ」と怒鳴りつけられて追い出される……。
そんな事が、「普通」な時代だったんだ。
まぁ、そんな「普通」の週末の出来事だと思ってくれればいい。
友人宅でゲームでギャーギャー騒いでいた俺達は、友人の親御さんに
「天気もいいんだからゲームなんてしてんじゃねえ!」と外に追い出された。
逃げるように外に出た俺達は渋々外での遊びに興じることになったんだ。
サッカーしたりドッチボールしたりだった覚えがある。
そこに、一匹の蛇が現れた。
見つけた、というほうが正しかったかもしれない。
近くの石垣のそばをにょろりと滑る様に這い進む姿は子供心にも恐怖を煽る。
その蛇は「アオダイショウ」と呼ばれる類の、比較的害の無い蛇だった。
体長は1mほどだったかな。
「ヤマカガシ」「マムシ」などと違って毒を持たず、
やたらでかいだけでネズミなんかをよくを狙うせいかどちらかと言えば益獣の類。
人里でよく見かける、日本で見る蛇といえばコレ!てきな蛇だ(沖縄=ハブって例もあるが)。
だが、そんな話はここではどうでもいい事だ。
目の前に蛇。
気持ち悪い異物。
にょろっとしたその長い体躯、しっとり煌めく鱗。
見る人によっては美しいと感じるだろうその姿も、
感じる側に感じるに値する感性が備わってなければ意味がないわけでさ。
楽しいゲームを取り上げられ、鬱憤の溜まっていた子供の前に現れた「それ」は
まさしく格好の『八つ当たりの対象』だった。
一人が石を投げつけた。
別の一人も真似して投げる。
逃げる蛇を、逃がすかと物干し竿で逃げ道を突いて牽制する。
逃げ惑う蛇を、複数の石が襲う。
石が飛ぶ。
外れて悔しがる声と、それを笑う声。
更に石が飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ。
いくつかが直撃し、長いその身が跳ね、うねる。
無邪気に響く笑い声。
笑い声と共に、休むことなく石は飛ぶ。
逃げること叶わず、右往左往しながら傷ついていく蛇を
子供たちは無邪気に、ただ無邪気に痛めつけていく。
一撃で仕留めるわけでもなく、ただ気持ち悪いからというだけで
延々と蛇はいたぶられる。
明確な悪意などそこにはなく、いかに残忍に見えたとしても
当人たちにその自覚はない。
ただただ気持ち悪いものを排除しているだけなのだから。
少しづつ蛇の動きが鈍る。
緩慢な動きを擬態と捉え、容赦なく子供たちは石を投げ当てる。
完全に動かなくなった蛇。
満足し、勝ち鬨を上げる子供たち。
勝利した事で安易に蛇に近づこうとした子供を手で制し、
物干し竿を振るっていた子供が、その先で蛇の頭を一突きした。
頭蓋を割られ骸と化した蛇は、ビクビクと暫くの間震え、沈黙。
遺骸は、その身が引きちぎれ血と臓物を晒して
子供たちが「きたねぇ!」と逃げ去るまで
ぼろ縄の様に振り回され、弄ばれることとなった。
◆
山間の町の日暮れは早い。
夕方の3~4時くらいになるとどの季節でも太陽が山間に隠れてしまい
一気に暗くなり始めてしまう。
子供が人気の少ない暗い道を一人帰るのは中々に勇気がいる事だ。
故に遊び疲れた子供たちは一人、また一人と家路に向かう。
俺も日暮れを前に友人宅を後にした。
どうせうちに帰っても一人なのだから遅くまで居座っても良かったのだが
友人の家族の団欒を見るのが、何か見せつけられているようで嫌だったのもあり
素直に帰宅する。
あぁ、そう、そうだった。
ちょうどこの頃だったな。
俺の家族が壊れたのは。
腎臓を病んでいた弟が臓器移植に失敗して死に。
臓器提供者だった母が発狂し、父は笑わなくなった。
幼心に移植が怖くて臓器提供を断った俺が、暗に責められた。
お前が臓器を提供していれば、弟は死なずに済んだのに、と。
母は狂わず、皆が幸せだったのに、と。
誰も口には出さないけどそんな空気が家の中に蔓延していて、
なんで俺がそんな風に責められなきゃならんのだと不快だったけど…
その辺はまた別の話だな。
そんな感じで家に帰る、というか父親と会うのが嫌だったが、
帰らないわけにもいかなかったので帰宅したんだ。
珍しく、その日は既に父が帰宅していた。
母がおかしくなってから笑わなくなった父。
酒も煙草も賭け事もせず、女遊びもゲームもしない超堅物。
趣味はモトクロスや山歩きで休日に家でのんびりするなどという事は
雨でも降らない限りあり得ない野生児の様な人でね。
曲がったことが嫌いで、家族思いの、でも怒ると怖い、
普段は厳めしいけど無邪気な笑顔を見せる、俺の尊敬する父「だった」。
普段なら互いに勝手に夕飯を作り、勝手に食べ、会話もせずに眠るのだが
この日の俺は、友人達と「蛇討伐」という「武勲」を立てた、と
子供心に一人で無邪気に興奮していた。
そして、その日は何をトチ狂ったのか…
「武勲」を褒めてもらいたくて、父に報告したんだわ。
いかに自分が勇敢に戦ったか、蛇がどれほど素早く、強敵で、
そんな強敵に最後に見事にとどめを刺したのは自分なのだと、
誇らしげに父に語って見せたわけ。
黙って聞いていた父は、俺が語り終えると深くため息をつき。
「ゴスッ」「……え?」
その後、何故か自分の身体が吹き飛んで、壁に叩き付けられ、
凄まじい痛みと眩暈に襲われ、呆然としたのを今でもよく覚えている。
額に走る痛みが、父が俺の額目がけて拳を振るった為だと理解できるまで
結構な時間がかかった。
理解するよりも前に、俺の頭はいつの間にか立ち上がっていた父に踏まれていたから。
「自分がした事がいかに残忍なのか、お前は理解できないのか?」
淡々と父はそう言い、頭を踏みつける足は更に力を増す。
痛い痛いと泣き叫ぶ俺の声に、
「お前たちに嬲り殺された蛇は、今のお前と同じように感じていたんじゃないのか?」
静かに、抑揚のない声でそう答えると、父は転がったままの俺を何度も蹴りつけた。
何度も、何度も、何度も、何度も。
今のご時世なら立派なDV案件として父は逮捕されていたかもしれないが
当時はこの程度の体罰はしつけの許容範囲内。
日常茶飯事とは言わないが、普通にどこの家庭でも見られていたように思う。
ただ、この件、この場面においてはしつけというよりはDVだった気もする。
なぜなら……。
「……お前なんて、産まなきゃよかったよ。
お前みたいなのが自分の子供だなんて考えただけで寒気がする」
そう言い放って自室へと戻っていったから。
蛇ほどではないにしろボコボコにされて床に転がる俺に、見向きもせずにね。
理不尽に振るわれた暴力は、父の言葉を借りるなら「俺達が蛇に行った行為」。
その事は何となく理解できたものの最後にかけられた言葉が、俺の胸を抉っていた。
『……お前なんて、産まなきゃよかったよ。
お前みたいなのが自分の子供だなんて考えただけで寒気がする』
俺は生まれない方がよかったのか?
望まれない子供なのか?
弟を助けなかったからか?
弟が死んだのは俺のせいなのか?
答えの出ない問いがぐるぐると頭を巡る。
まだ10歳やそこらのガキに人生なんてものが語れるはずもなく。
生きる意味やら生死に関して十分な理解があるわけもなく。
ただ、認めてもらえなかったこと、自分が不要なのだと悟ったこと、
それらがひたすらに悲しくて一晩中泣いて過ごしたよ。
この一件があって、俺の中で何かが変わったように思う。
「血の繋がりは水より濃い」なんて言葉は戯言にしか聞こえなくなり、
「仲良し家族」なんてものは空想、幻想の中の産物になった。
人は生まれたらその時点で一人であり、孤独であり、
その辛さを埋め合わせるために寄り添うのだ、
愛し合うという行為はその代償行為なのだと認識した。
そして何より、この頃から「生死」に関していろいろ思い悩むようになった。
学校の図書室に籠って色んな本やら何やらを読み漁って、
法律やら戦史やら偉人伝やら思想やら、とにかく理解できないまでも読みまくった。
親に疎まれる俺が生きる意味。
俺達に嬲り殺されて死んだ蛇の生きた意味。
戦争で人が殺し合う意味。
殺人という犯罪と、その犯罪者が法に守られ生を永らえる意味。
戦争と犯罪の違い。
色々調べ、考えたけれど納得のいく答えは出ない。
大切なものを奪われたなら報復の権利はあるはずで。
弱者を護るためにあるという「法」は報復を権利として認めない。
それはある一面で一方的に奪ったものが有利なルールで。
(もちろん純粋に弱者の為の法もあることは理解している)
例えばAさんがBさんを殺す。
Bさんの恋人のCさんがAさんを報復で殺そうとしても、
AさんがBさんを殺したという証拠や証明するものが無ければ
Aさんは裁かれないし無実として扱われる。
無実のAさんを害そうとするCさんこそが犯罪者だと扱われるかもしれない。
例えば戦場で1000人の兵隊を一人で討ち果たした兵士。
街中で同じことをすればただの大量犯罪者だけど、戦場という空間では違う。
多くの兵を殺して、国家の、軍の武威を示した英雄扱いだ。
ただの人殺しなのに。
例えば政治家Aが汚職を秘書に擦り付ける。
「私はまだこの国に必要な人材なのだ!この告発で捕まれば、国が倒れてしまう。
秘書君、代わりに罪をかぶってくれまいか?
君を拾ってやった恩をここで返してくれたまえ」
涙ながらの三文芝居の末に秘書君は罪を全て被って自殺。
政治家Aは涙ながらにこう語る。
「監督不行き届きでした、今後はこのようなことが無いように…」
そうして悪が生き残る。
調べれば調べるほどに世の中は理不尽に満ちていて
生きる意味、命の意味をと問うても満足のいく答えなどなくて。
意味が無いなら価値も無いのだろうか、と無気力感が沸き上がる。
ひたすらに命の意味を問うた先、俺は一つのルールに行き当たる。
『食物連鎖』
全ての生き物は、他の生物の命を喰らう事で命を繋ぎ、
その循環は「生命」であるならば決して逃れ得ぬ絶対法則。
この世界の、自然界の、ルール。
失われた命は繋いだ命を繋ぐ意味しか持たず。
繋がれた命も途絶えてしまえば別の形で他を生かす以外に意味を持ちえない。
あらゆる生物は、他者の屍の上にその命を維持している。
如何なる聖者とて、生き物である以上はこの循環からは逃れ得ず、
奪われた命にどれだけ感謝しようともそれは生きている側の都合。
捕食者の傲慢であり、単なるエゴ。
奪われる命には循環の為の歯車という意味しかなく、
人間はその一部でありながら無為な消費で不要な命を奪っていても、
それを罪とすら認識しない。
食事を残し、不要、過剰に生産し腐らせ、
それだけでもどれだけの動植物の命を無にしたかを
どれほどの人間が意識するだろうか。
「もったいない」で終わりではなかろうか?
あまたの屍の上にその存在を保つ生き物が、
どうして「命の価値」を声高に語れる?
なんという傲慢、何という厚顔!
そう、そうだ。
そうした循環、法則に支配された「生死」という概念に
「意味」など持ち込むのは「感情、思考に縛られた」人間故の傲慢だ。
同時にそうした人間の行う「命」の意味付けにおいて
「命の価値」は自分ではなく「常識」という大多数の他人の認識が
時代の都合でその都度勝手に決め、周囲に押し付けるモノでしかない。
だからこそ戦時下において戦闘行為による殺人は英雄視され、
だからこそ偏見による冤罪で人を死に追いやってもすぐに忘れ去られ、
だからこそ身勝手な論理で無差別テロを起こす馬鹿は消えず
だからこそ一部の特権階級は人の命を玩具にできるわけだ。
ここに至って、俺は俺なりの答えを得た事に気づく。
なるほど確かに俺の命に価値はない。
俺の命に意味はない。
意味も価値も求めること自体が意味がない事なんだなぁ、と。
ここで得た前述の答えのせいで後日俺は「自殺」という形で自身の命を
一度は躊躇いなく放棄することになる。
結果的にその時の自殺行為は完全に想定外の形で失敗、
その際に体感した迫りくる「死」の圧倒的なまでに純粋な恐怖と苦しみから
俺の抱えた生死観は(自身の命に関しては)価値があろうがなかろうが
「どんな形であれ『死ぬ』のは御免だ」という方向に意識転換。
今日まで生き恥をさらす事になるわけだが…
だからといって未だに俺は、命に『価値』があるとは想えずにいる。
「家族」という枠組みや「親子」という繋がりに憧れを抱いてしまうのは
これらの諦観や悲観的思考の裏返し……なのかもしれない。
◆
2018年6月4日 0時37分
千場市梅見川区 梅見川神社脇隧道にて
「……うわぁ、パパ、思ったより躊躇いなくやっちゃったんだねぇ?」
俺の足元で血の泡を吹きながら倒れる男女の死体を、呆れた様子のほのかが眺める。
中年の男と初老の女性。
二人は背中から真っ白で大きな翼を生やし、白いローブに身を包んでいる。
首はあらぬ方向へとねじ曲がっており、男はあおむけに、老女はうつぶせに、
重なる様に倒れ伏していた。
なお、ほのかの背後…隧道の出口付近には真っ白になった灰の山が二つほどある。
離れているのにそこからジリジリと伝わる微かな熱が、
ほのかが放ったという『魔法』の威力を間接的に俺に伝えてくる。
彼等は、「天使」である。
「…お前をあくまでも殺すと言い張る以上、やられる前にやるしかないだろうに」
ため息交じりでほのかにそう答えると、
俺は彼らがいまだ握りしめている得物を軽く蹴り飛ばす。
カララン、と乾いた響きを立てて転がる白刃。
出来れば戦いは避けたかったけれど、彼等「天使」は引いてはくれず。
結果的に倒さないわけにはいかなかった。
殺すという行為に躊躇いはあれど、罪悪感はない。
もちろん殺しを嗜むような趣向はない。
あくまで平和的にという姿勢は示したし、その上で向かってくるというなら
そのように対処するだけだし、実際そのようにした結果がコレだ。
人様の家族を身勝手な理由で奪おうとして、
反撃がないとこいつらは思っていたのだろうか?
そしてその、肝心の「俺の家族」はと言えば。
「んも~、パパってばこんなにあっさり天使撃退しちゃうんだもん!
ほのかが2人焼き払うのとほとんど変わらない時間とか、おかしくない!?
普通もっと葛藤があったりとかするでしょ!?」
とよくわからない理由で腹を立てていた。
「なんで怒ってるのかよくわからんのだが」
素直にそう問いかけた俺に対して「むぅ」と呻いたほのかは
少しだけ思案した様子を見せると……
最高に意地の悪い、どこまでも邪な笑みを浮かべてこう言った。
「……ねぇ、パパ?
初めて『人』を殺して………、今どんな気分?
……ふふっ♪」
すみません、2章全部書き直してます。
納得がいくまで載せるのは控えてました。
つ、続きもがんばります、ええ…。




