悪魔の父娘に迫る影
第1章ラストです
プルルルル…プルルルル…ガチャ
『はい、さるびあ警備幕曳本社、高丘です』
「あ、高丘さんっすか、お疲れ様です日崎です」
『あ~、おつかれです、出発報告ですか?』
「えぇ、それとちょっと娘の事で…」
『え、娘さん風邪ひいたとかですか?
流石にそこの詰め所で看病ってわけにもいかないですもんねぇ。
代わりの人いたかな……』
「え?あ、違います違います!
娘は元気ですけども!
いや、何て言いますか、マイキさんからクレームとか
入ってないかなー、って心配で」
『あ~、そっちですかびっくりした。
その辺は大丈夫じゃないですか?
何かあれば営業の…担当は上町さんでしたっけ?
そっちに行くと思いますし。
……それとも、またなんかやらかしました?』
「また、って失礼な。
いつも言ってんでしょ?
俺は何もしてねーですよ、トラブルが勝手に起きるだけです」
『あはは…まぁ何のクレームも上がってないですんで、
いつも通りお願いしますね。
また上番の時に』
「了解です、じゃあまた後程」
ブツッ……ツーッ、ツーッ
◆
「うーむ、これやっぱりうちの会社の詰め所みたいだね」
「じゃあ、パパここ使ってお仕事してたことになってるんだ?」
「そうなるねぇ」
「激安の殿堂マイキー・オルテ幕曳店」駐車場入口ゲート横。
これまでなら自転車のお客様の駐輪場と化していた空きスペース。
そこに鎮座するのは約2畳ほどの小さな単棟ハウス(エアコン付き)。
国道側の壁面には大きく「安全・安心のさるびあ警備保障」の看板が。
室内の様子はカーテンに遮られ見えないが、
外観からして既に数年は経っていると思われる。
以前この場所には焼き鳥屋のテナントがあったと聞いているんだが
それが一体全体どうしてウチの会社の詰め所に。
炎天下の中でも、嵐の中でも、荷物は3階の店舗事務所に置くしかなく
警備用品も物資も手持ちで何とかするしかなく
休憩もわざわざ3階まで上がって取っていた日々が……もう来ない!
入退店の報告はしないといけないのでどの道3階には上がるのだけど
それでも格段に仕事はし易くなる!
着替えや軽食の類を置いておけるのもありがたい!
「悪魔パワーバンザイ!」
「パパが金塊よりも喜んでるっ!?」
ほのかが若干ショックを受けているけれどそれはそれ。
「ここでほのかが待機できるってだけでも、
俺の心労が凄まじく軽減されるからな。
仕事する上でも色々利便性が上がるし、短期的にも長期的にも
これはありがたい事なのだよ。
何でこんな改変がかかったのかはいまいち分からんが、
このご都合展開はありがたく活かさせてもらうっ!」
「パ、パパが喜んでるならよかった…のかなぁ??」
元はお前の魔力だからな!
素晴らしくありがたい贈り物だぞぅ!
そんなやり取りの間にも時間は過ぎ、お客さんはたくさん現れる。
今日は日曜だしね!
ではさっさと仕事の準備をするとしよう。
「じゃあちょっと出勤の挨拶してくるから待っててな」
「わかった~」
ほのかを残して搬入口から裏手に回り、3階の詰め所へ上がる。
本当は店内のエレベーターで上がってもいいよと言われてるのだけど
嵐でもない限りは裏手の階段から上がる様にしている。
あくまでも僕等は外部協力者なので、その辺の遠慮は忘れないようにしたい。
調子に乗ると絶対ろくなことが無いので。
「しつれいします~、さるびあ警備です!
本日もよろしくお願いします」
「は~い、よろしく~」
事務所の人に挨拶すると事務員のおばちゃんから挨拶が返ってくる。
奥の店長さんがチラリとこちらを見て
笑いながら会釈をくれるまでがワンセットだ。
店長さんの顔に笑顔が無い時はお店が大変な時と判断して
慎重に仕事するようにしている。
「えっとすみません、詰所のカギを……」
恐らく事務所で毎回借りてる形だろうと判断して事務員さんに尋ねると
案の定「あ、ハイハイちょっと待ってね~」と壁面から
「警備詰め所」とタグのついた鍵を渡してくれる。
「いい加減警備さんも長いから鍵渡しても良いと思うんだけどねぇ」
そんな風に言ってくれる事務員さんにありがたいぜと思いつつも、
「いやぁ、その辺はぶれるとろくな事ないですし
なにより!絶対に無くす自信がありますからっ!」
と殊更おちゃらけた感じでお断りする。
「絶対に無くす自信って何よ~」と笑う事務員さんから鍵を受け取る。
事務員さんは笑っているが俺は何故か肝心な時に
有り得ないくらいに致命的なミスをよくするからな。
鍵なんて預かったら、ガンガン積み上げた信頼が下がる自信しかない。
ただでさえ子連れ勤務という不義理をしているのだから
こういう配慮はしてしかるべき。
事務所を出て階段を降りつつ会社に上番の連絡を入れ詰め所に戻る。
「パパおかえり!
パパが戻ってくるまでに5人も声かけられちゃった♪」
戻るそうそうほのかがニコニコとそんな怖いことを言う。
声かけられたって、こんな幼女をナンパか?人さらい?
「ほのか、その変態野郎はまだこの辺にいるかな?
俺が生きているのが不思議なくらいまで追いつめて
頭の髪の残り本数を数えさせてるような余生を送らせてやろう」
「ぷっ、パパったら♪
お爺ちゃんとかお婆ちゃんが声かけてくれただけだよ?」
「…………」
コロコロと笑いながらそんなことを言うほのかに小悪魔めっ!と思いつつ
あ、そう言えばホントに悪魔だったと思い出し苦笑い。
軽く頭を小突くと詰め所を開けた。
中からむわっと熱気が流れ出す。
「おお……詰め所だ……これで勝つる!」
「パパ、何と戦ってるの?」
色んな何かと毎日戦ってるんだよ?
詰め所の壁面には予備の着替えや雨具、備品類が
掛かっていたり立てかけられていたり。
奥に大きめの机と椅子が2脚。
書類ケースやポット、お茶の道具なども置かれていた。
使われた形跡がしっかり残っていることから、
配属当初からここにありましたと自己主張している。
ずっと欲しかった矢印版なども備品として設置されていて
なんて気が利くんだ!と嬉しく思う。
椅子も普通のパイプ椅子と、子供が座りやすい椅子と置いてあり、
立てかけられたマットは明らかにほのかの「仮眠用」だろうと思われた。
確実に俺の「あれ欲しいこれ欲しい」が反映された詰め所だった。
「……パパ、やっぱり金塊より嬉しそう」
「え、これでほのかを連れてきてても
仕事問題なさそうだって安心してただけなのに!?」
「パパったら金塊よりもほのかが欲しいだなんて…♪
こんな所じゃお客さんに見られちゃうよ?」
「そんな恐ろしい発言さらっとするんじゃないのっ!
ここお巡りさん良く巡回するんだから!
本気で洒落にならないから!」
「きゃん♪」
「詰め所に」ヤキモチを焼いたかと思うと
妙な事まで口走り始めるほのかを再度軽くチョップで黙らせつつ
「んじゃ、仕事始めますか」
と表に出る。
「パパ、頑張ってね!」
そう言ってほのかが窓から小さな手を振ってエールをくれる。
「おう」
あぁ、こうして家族のために頑張るぞって感覚……。
俺は、ずっとこれが欲しかったんだ。
◆
実利達の暮らす梅見川区の隣、千場市稲気区某所。
法華経系列の宗教法人「挿花学府」が運営する文化会館傍に、
「十字教・旧派聖典公主会」の教会がある。
小さな教会ながら千場東部の十字教拠点の中枢であり、
平日でも神父が常駐し悩める者達からの懺悔を受け付けていたりする。
そんな教会の聖堂で、一人の男が跪き神に祈りを捧げていた。
美しいステンドグラスから午後の暖かく柔らかな陽光が差し込み
祈る男を静かに包み込む。
男が祈りを捧げ始めてからどれだけの時間が経っただろうか?
静謐は、突然の音楽によって破られる。
『הללויה!!הללויה!!הללויה!הללויה!הללויה~!!』
「……ハレルヤ、全能者にして主なるわれらの神は、
王なる支配者であられる」
鳴り響く曲はヘンデルの「メサイア」
神への祈りを静かに捧げた男はその音源、携帯電話を取り出す。
「はい、ええ、……そうですか。
この神の庭で、また新たな害虫が……ええ、分かりました。
………そうですね、それでは何時もの様に。
報告はこちらで上げておきましょう。
相手は偉大なる神への反逆者、ゆめゆめ油断なさらぬよう……
そうですね、では使徒クラフィエル、
あなたに神の恩寵が降り注ぎますように」
携帯をしまった男は、ため息をついて静かに立ち上がる。
「ここ最近『オセ』が近隣に出没しているとの報告がありましたが、
やはり『種まき』でしたか……。
全く、いつの時代も悪魔というものは度し難い」
ばさっ……
男の背に、白く美しい2枚の羽根が広がり、
頭上に光の輪が浮かび上がる。
「הללויה、偉大なる神の楽園をこの地に!
その為にも……害虫にはさっさと消えてもらいましょうか」
天使の目は、既に実利達を捕らえていたのだ。
争いの火はすぐ足元まで迫っていた。
この後「断章」という形で日常編が何編か?入ります。
断章は短めの単発の話です。
ほのかの日記形式だったり、二人の会話だったり、登場人物の誰かの話だったりと言った
本編の補足、複線、その他です。
本作はメインである「グリモワール」と「断章」をワンセットとした形で構成していきますので
今後とも楽しんでいただけたらなぁ、と思います。
「グリモワール」は比較的シリアス路線になると思われますので
「断章」はお気楽にいきます。
かなりネタにも走りますがフィクションですので、ええ。
断章の更新は次章の進み具合を見ながらの更新になりますので、
一旦毎日更新が途切れることをご了承くださいませ。




