悪魔の娘が見た景色
短めです。
なんか一週間が早い気がする。
「あ、ほのか、今日から俺仕事あるからお家で留守番よろしくな?」
「うん、絶対に嫌よ♪(にっこり)」
「え、ええっと?」
「絶対に私もついていくよ?(にっこり)」
そろそろコインランドリーが開くので
洗濯物を洗いに行こうと準備していたのだけど
思い出したようにほのかに今日の予定を告げたら
全力で否決された。
えっと、あのね?仕事に子連れって、基本的に無理だと思うの。
その辺をなんと言ったらいいものかと悩んでいると
「パパ、大丈夫よ?
わたし姿消す魔法くらい使えるし」
「え、何その魔法、凄いじゃん」
「すごいでしょ!」
防寒ポンチョを羽織ったままえっへんとない胸を張る娘さま。
姿を隠せるというのは確かにすごい。
だがその格好で偉ぶっても可愛らしさが先に立って微笑ましいだけだぞ。
あ、ほのかの下着セットは3セット程発掘できた(2セットは洗い物)。
ただ、普段着は最初に着ていた1着のみ。
洗わないと替えが無い。
だから早めに洗いに行きたいのだけども
話題を出すタイミングをミスったな。
「うーん、だけど休憩する場所とか、ないぞ?
ベンチはあるけどお客様の喫煙所だからタバコ臭いだろうし」
「椅子くらい買うからいいよ。
わたしもお金くらい持ってきてるんだよ?」
そう言ってビシッとほのかが指さしたのは、
部屋の隅にずずんと置かれたでかいジェラルミンケース。
何が入ってるのか分からないから怖くて開けなかったんだけど
どうやらほのかの所持金が入っているらしい。
「えっと、開けていいのか?」
「うん!」
「んじゃあ失礼して………って、うおっ!?なんじゃこりゃああ!!」
バラバラザラザラバラ・・・・・・・・・!
キンキンッチンッドスン!
ほのかに促され、開けたケースの中から出てきたのは
大量の「金のインゴット」と宝石の山。
「おま、こ、これって…」
「どう?これくらいあれば椅子いくつも買えるでしょ?
あ、それ以前にパパお仕事行かなくても生きていけるよね?
ねぇ、お仕事なんて辞めちゃって、のんびり暮らそう?
お金ならいくらでも出してあげるよ?」
ニコニコしながら黄金と宝石の山の前で手を広げ
「全部あげる」とほのかは言う。
眩い輝きが、その黄金のきらめきが、心を揺さぶ……ることはなかった。
「いやな予感が当たったあああああああああああああ!」
「え?……えええええ!?」
頭を抱える俺の反応に、ほのかが動揺しているようだが
悪い、それどころではない。
ケースの中身の予測はいくつかあった。
大量の資金、なんか危険な武器、見てはいけない生モノ系、など。
どれも厄介度では大差ないが…よりにもよって、「インゴット」。
「現金」ならまだ、まだ許容範囲だったのだが…!
「パ、パパ?
え、なんでそんなに頭抱えてるの?
お金、迷惑だった?
人間って、普通お金沢山あると喜ぶんじゃないの……?」
ほのかが困ったように問いかけてくるが。
ほのかの言葉は正しい。
お金は、ありがたい。
お金があれば大抵の幸せは買えるしな?
嬉しいよ?
嬉しいけど、な?
何で「今」なんだっ!!
「これだけの『インゴット』と『生の宝石』、
どこで『換金』しろと……。
こんなもん、下手に資金源にしたら間違いなく足がつくじゃんか」
「換金?
………あ」
一瞬悩んだほのかも、言わんとするところを理解したようで。
「これだけのお金、換金したら悪い人達にも天使たちにも
絶対に目をつけられちゃう……よね?」
「あぁ、ついでにいうと、凄まじい額の税金を納めないといけないから
国にも目をつけられる。
出所不明の無印の金塊に、鑑定書無しの宝石の山だぞ?
『他にも隠してるんじゃないか』って絶対疑われる。
ついでに、ほのかが拉致誘拐される可能性が一気に跳ね上がる。
だから、こんなにあっても『欠片も』使えない………」
目の前に凄まじい大金がある。
普通のアパートに、ドカッと無防備に。
セキュリティさんお仕事ォ!!!と意味不明な叫びをあげたいくらい
パンピーの胃に負担がかかるレベルで不安になる代物だ。
結論
「うん、これは見なかった」
「そ、そんな対応でいいの!?」
困惑しるしかできない様子のほのかを前に、
俺はにこやかにこう答える。
「いいかいほのか、世の中にはな?
知らなければ幸せな事ってい~~~っぱいあるんだぞぅ?」
「そ、そうなんだ……?」
こうして危険物はしばらくの間封印された。
◆
「で、ほのかが仕事についていきたいって話が
まだ決着ついてなかったな。
どうしても来るのか?」
ほのかの所持金と言う名の爆弾に関しては見なかったことにして、
少しメンタルが回復したので再度問い直す。
流石に仕事に子供を連れて行くのはどうかと思うんだよ。
託児所って年でもないし、学童保育頼むにも時間外だろうし。
かといって一人で留守番任せるのも不安なんだけどさ?
「パパは、ほのかが邪魔?」
「OKほのか会社の方は何とかするわ」
あかんかった!
ガチな気しそうな顔で、「邪魔?」とか聞かれたら無理だ!
姿を消すでも何でも連れて行くしかない、それに。
「ほのかに留守番させるのも不安だから、連れてった方がまだ安全か。
会社がなんていうか分からないけども、最悪誤魔化そう」
その時は振り込まれる慰謝料さんに頼るしかあるまいなぁ。
それよりも、ちょっと落ち込んでるほのかを何とかしないと。
自分が迷惑な存在なんだろうかって悩んでる顔だ、これは。
「よーし、ほのか?
俺の前に座るんだ、後ろ向いてな?」
「??」
不思議そうに、無言でぺたんと座るほのかの髪を
首の後ろ辺りで三又に分けて編み込んでいく。
簡単なただの三つ編みだが。
ゴムの代わりにバンダナを使ってリボンのように縛る。
コインランドリーに行った帰りにでも髪ゴム買って来よう。
「え?パパ、何したの!?」
「ん?ほのかの髪が綺麗だから弄りたくなってな?
三つ編みにしたんだけど、嫌だったか?」
ささっと髪形を変えられて驚いた様子のほのかが食い気味に振り向き、
自分の髪をペタペタ触る。
この反応、もしや。
「普段髪型とか弄らないのか?」
「うん……ねぇ、パパ?
私の髪、触りたかったんだ?
この髪、似合う?」
ちょっと上目遣いで、若干潤んだ目を向ける三つ編み銀髪少女。
ホント俺に似なくて良かったわ!
超可愛い。
世の中のお父さんが娘自慢するのが分かる気がする。
うちの子が一番可愛いぜ!って、
やっぱ思っちゃうよなこういう気の置けない姿見ると。
「うんうん超可愛いぞ。
色んな髪型試したくなるな!」
「……そっか、良かった」
どことなくほっとした様な安心した様な娘の様子に俺もほっと一息。
これでコインランドリーにも行けるというものだ。
「ちょっと洗濯物洗いに行ってくるから待っててな、すぐ戻る。
10時になったらほのかの服を買いに行こう」
「一緒に行きたいけど、服それしかないもんね」
「そういう事。
ま、今度連れてってあげるから。
さて、時間までに洗い物乾燥機で乾くかな」
「………焙る?」「止めなさいって」
速攻で阻止したよ。
◆
結局洗濯物が乾いたのは10時を少し過ぎてから。
どうせ一緒に仕事に出かけるんだし、職場の近くでもいいか!と
「ムトー・セイカドー幕曳店」に向かう。
新梅見川駅前の「東友」でもいいと言えばいいんだが、
あそこにほのかに着せたい子供服があるとは思えない。
子供服なら「ファッションセンターしまうら」という選択肢もあったのだが
生憎と職場とは逆方向。
しかも山あり谷あり立地の先にある。
仕事前に行くのは勘弁してほしい、マジで。
愛用のクロスバイクにハブステップをつけてほのかが乗れるようにする。
お巡りさんに見つかると怒られそうだが仕方ない。
ほのかが興味深げに作業を眺める。
例によって深紅のワンピースに先日買ってあげたポーチ。
今日は三つ編みになっているので少し新鮮だ。
……明日はポニテにするか。
「これが自転車?」
「そうそう。
電車とか車と違って、完全人力。
危ないから、しっかりつかまるんだぞ?
足はここのバーに乗せてくれ」
仕事用リュックを前抱きに背負い、先に自転車にまたがる。
恐る恐るほのかがステップに足をかけ、背中にしがみつく。
「つかまったか~?」
「うん!」
んじゃあいくぞ、と走り出す。
ゆっくりと回るペダル。
ぶれる車体も、加速と共に少しづつ安定していく。
なるべく人や車の少ない場所を選びながら、
移り変わる景色と風を楽しみながら、走る。
「……風と踊ってるみたい」
肩の辺りの服をきゅっと掴みながら聞こえてくる呟き。
初夏の日差しの中、少女にはどんな景色が見えているのだろうか。
かつてあの蒼い空を自由に舞っていた鳳凰は、人の身を得て大地に立つ。
蒼天から堕ちたと捉えるか、今なお自由な翼をその背に宿すと見るか?
出来れば心は常に自由であれ、と
流れる雲に、そう願った。




