第九十九章 半分の凭証
翌日。
安生は周長順の旧宅へは行かなかった。
向かったのは。
当時、廃棄する帳面や紙を保管していた場所だった。
旧帳房の裏に、小さな小屋がある。
以前は、使わなくなった帳面や紙を置いていた。
老梁が中へ案内した。
「何年も、誰も触っていない」
安生は頷いた。
「まず六月十二日前後のものを探そう」
二人で長い時間、紙をひっくり返した。
だが。
あの伝票のもう半分は見つからなかった。
安生は落胆しなかった。
もし簡単に見つかっていたら。
むしろ、そのほうがおかしい。
⸻
安生は、あの残された紙を取り出した。
もう一度、よく見る。
紙は中央から破られていた。
破れ方は不規則だった。
だが。
自然に傷んで破れたものではない。
老梁も一目見て言った。
「これは後から破ったものだ」
「なぜ?」
「紙の縁が新しい」
「どういう意味だ?」
「何年も置いて自然に破れたなら。」
「こんな縁にはならない」
安生はすぐには信じなかった。
「確かか?」
「完全には確かじゃない」
安生は頷いた。
「じゃあ、お前の判断として記録する」
「事実とは分ける」
老梁は笑った。
「お前、本当に面倒になったな」
「少し面倒なくらいでいい」
「後で間違いが少なくなる」
⸻
安生は紙を机の上に置いた。
「お前は昔、こういう凭証を見たことがあるか?」
「ある」
「誰が書く?」
「荷を運ぶ人間が一枚持つ」
「帳房にも一枚残す」
「時には、掌柜も一枚取っておく」
「つまり、一枚の凭証が何枚もあることも?」
「ああ」
安生が顔を上げる。
「じゃあ、これは誰のものだ?」
老梁は首を横に振った。
「分からない」
「なぜ?」
「印がない」
「名前もない」
「出庫の記録しかない」
安生が尋ねる。
「こういうものは正式なものなのか?」
「半分は正式だ」
「どういう意味だ?」
「倉から出すなら、必要になる」
「だが、正式な荷の帳面に入るとは限らない」
安生は黙った。
これなら。
一つの疑問が説明できる。
なぜ西倉三号から二包出たという記録があるのに。
許文成の正式な荷の帳面には入っていなかったのか。
⸻
「じゃあ、凭証は最後にどこへ行く?」
老梁が言う。
「荷を出した人間が一枚持つ」
「倉にも一枚残す」
「掌柜が一枚取っておくこともある」
「臨時の処理なら。」
「一枚しか残さないこともある」
「誰が持つ?」
「その時、誰が処理したかによる」
安生が尋ねた。
「六月十二日は、誰が処理した?」
老梁は答えなかった。
「分からないのか?」
「分からない」
「じゃあ、どうしてお前は西倉三号から二包出たことを知っている?」
「記録を見たからだ」
「誰が見せた?」
「老高だ」
安生の動きが止まった。
「老高が?」
「ああ」
「いつ?」
「その日だ」
「その凭証は?」
「見ていない」
⸻
安生は突然気づいた。
自分はずっと。
「第二の帳面」を探していた。
だが、この紙が示しているのは。
当時の碼頭では、すべての記録を第二の帳面にまとめていたわけではないということだった。
もう一つ。
別のものがあった。
臨時の凭証。
正式な帳面でもない。
私用の帳面でもない。
荷が一つの場所から別の場所へ移された時。
「確かに誰かが持ち出した」
ことを示すためのものだ。
もしそうなら。
最も重要な証拠は。
帳房にあるとは限らない。
当時、実際に荷を受け取った人間の手元に残っている可能性がある。
⸻
安生はまず馬成を訪ねた。
馬成は木工所で仕事をしていた。
六月十二日の話だと聞くと。
手を止めた。
「あの紙か?」
「お前は見たことがある」
「どの紙だ?」
「西倉三号から二包出た時の凭証だ」
馬成は長い間考えた。
「たぶん、見た」
「どこで?」
「老高から受け取った時だ」
「何を受け取った?」
「荷を二包」
「それと臨牌」
「紙はあったか?」
「あった。一枚」
安生はすぐに尋ねた。
「まだ持っているか?」
馬成は首を横に振った。
「とっくになくなった」
「どうした?」
「返した」
「誰に?」
「老高に」
「いつ?」
「荷を届けて戻った時だ」
安生が尋ねる。
「紙には何が書いてあった?」
「俺は字をあまり読めない」
「読めるものは?」
「南貨」
「それから『二』」
「ほかはよく分からない」
「『周掌柜』はあったか?」
馬成は首を横に振った。
「分からない」
「『沈』は?」
「覚えていない」
⸻
安生はさらに尋ねた。
「返した時。」
「老高は見たか?」
「見た」
「何と言った?」
「米の帳面はちゃんとついたか、と」
「お前は何と答えた?」
「王家がもう記した、と」
「それから?」
「紙を受け取った」
「どこにしまった?」
「懐だ」
安生が尋ねる。
「破ったか?」
馬成は首を横に振った。
「破っていない」
「確かか?」
「俺は見ていない」
安生は頷いた。
⸻
その時。
馬成がふと思い出したように言った。
「ただ、一つある」
「何だ?」
「あの日、戻ってきた時。」
「老高が一度、あの紙を取り出して見ていた」
「どこで?」
「倉の入口だ」
「なぜ?」
「分からない」
「どのくらい見ていた?」
「ほんの少しだ」
「それから?」
「破った」
安生が顔を上げた。
「破った?」
「確かじゃない」
「さっき、お前は見ていないと言っただろう」
「後から思い出した」
「たしか、紙を一度折った」
「それから、破ったように見えた」
「でも、どちらの部分を捨てたのかは見ていない」
安生は何も言わなかった。
この話は重要だった。
だが。
それでも、確定した事実ではない。
⸻
安生が尋ねる。
「なぜ今まで言わなかった?」
馬成は俯いた。
「関係があるのか分からなかった」
安生は頷いた。
「今も確定はできない」
「だが、記録する価値はある」
⸻
午後。
安生は老梁を訪ねた。
馬成から聞いた話を伝える。
老梁はしばらく黙っていた。
「もし本当なら。」
「あの紙は、老高が持っていた一枚だった可能性がある」
「なぜ?」
「馬成が荷を受け取った」
「老高が荷を出した」
「最後に凭証が戻ったのも老高のところだ」
「流れとしては自然だ」
「だが、それでも証明にはならない」
安生が言う。
老梁は頷いた。
「ああ」
⸻
安生は旧帳房へ戻った。
もう一度、あの残紙を手に取る。
今度は。
表側を見なかった。
破れた縁を見る。
そして馬成が覚えていた紙の大きさを基準に。
二つを比べてみた。
完全には一致しない。
これだけでは、同じ紙だとは言えない。
安生は紙を机に戻した。
そして、ふっと笑った。
陸成安が尋ねる。
「何がおかしい?」
「昔は思っていた」
「一枚の紙さえ見つければ。」
「それですべて説明できると」
「今は?」
「今は分かった」
「一枚の紙が証明できるのは。」
「その紙に書かれていることだけだ」
陸成安も笑った。
「じゃあ、こんなに長く調べて。」
「結局、何が分かった?」
安生はすぐには答えなかった。
しばらくして。
言った。
「少なくとも、一つは分かった」
「何だ?」
「六月十二日。」
「誰かが確かに、周長順の指示に従って。」
「西倉三号から二包の荷を出した」
「そして、実際に王家へ届けた」
「王家も、南布三反を一石の米と相殺したと記録している」
「ここまでは、かなりはっきりしてきた」
陸成安は頷いた。
「じゃあ、何が足りない?」
安生は窓の外を見た。
「誰が決めたのか」
「なぜ決めたのか」
「それから。」
「沈川が、どこまで知っていたのか」
⸻
夕方。
安生は再び安順河を訪ねた。
「父さん」
「今度は何だ?」
「もし、あの時沈川が『先に処理する、全部は動かすな』とだけ言ったとして。」
「周長順が、そのうち二包を米と相殺するために王家へ持っていった」
「沈川は知っていたと思うか?」
安順河は答えなかった。
安生はすぐに言った。
「推測はしないでくれ」
安順河は安生を見る。
「じゃあ、分からん」
「分かった」
「ただ、一つだけ言える」
「沈川は後になって、確かにこう言った」
「『俺は、あれを米と相殺するために持っていけとは言っていない』」
「この言葉だけは覚えている」
安生は頷いた。
「それで十分だ」
「何が十分なんだ?」
「少なくとも。」
「今のこの件を。」
「単純に『沈家が同意した』という話では扱えなくなる」
⸻
夜。
安生はすべての証拠を。
最後の一枚の時系列にまとめた。
六月十一日。
一石の米。
半石の米。
飯場に記録。
東倉七号、換位して西倉三号へ。
六月十二日。
周長順が沈川と南貨について話す。
沈川は「先に処理する」「全部は動かすな」という趣旨の言葉を口にした可能性がある。
西倉三号から二包出る。
老高が荷を出す。
馬成が受け取る。
臨牌を使用。
二包の荷が王家へ渡る。
王家が荷を開く。
南布三反。
一石の米と相殺。
臨牌が返される。
老高が米の帳面について確認する。
許文成の正式な荷の帳面は空白。
六月十三日以降。
荷の帳面はそのまま続く。
六月十二日の分は補われていない。
⸻
安生は最後の一行を見つめた。
ふと。
もう決めなければならないところまで来た気がした。
誰が悪いのかを決めるのではない。
決めるのは。
何を最後の結論に書けるのか。
安生は新しい紙を取り出した。
そして書いた。
「六月十二日、周長順と沈川は南貨について話をした。沈川は一部を先に処理してよいという趣旨の発言をしたが、具体的な数量、用途、また王家との米との相殺まで許可したことを示す証拠は、現在のところ存在しない。」
続けて書く。
「同日、周長順側は老高、馬成らを通じ、西倉三号から南貨二包を取り出し、王家へ運んだ。王家はその二包に含まれていた南布三反を、一石の米と相殺したと記録している。」
さらに。
「この行為については、倉庫記録、王家の帳面、関係者の証言が相互に裏付け合っている。」
「ただし、この荷の最終的な処理について、沈川が明確に同意していたことは、現時点では証明できない。」
「周長順が『先に処理する』という言葉を誤って理解したのか、意味を広げて解釈したのか、あるいはまだ見つかっていない別の取り決めに基づいて実行したのかは、今のところ判断できない。」
安生は一度、読み返した。
そして。
書き直さなかった。
これが初めてだった。
この件について。
ここまでなら書ける。
そう思えた。
だが。
まだ終わりではない。
紙の最後には。
もう一つ、問題が残っている。
なぜ許文成は記録しなかったのか。
そして、この問題こそが。
この件が単に、完全な記録を残さないまま行われた一時的な取引だったのか。
それとも。
誰かが。
この荷を正式な帳面に入れるべきではないと知りながら。
それでも実行したのか。
その違いを左右するかもしれない。
安生は紙をしまった。
翌日。
最後に。
許文成が生前、最後に会っていた人物を訪ねる。




