第九十七章 ここには置けない
安生は、すぐには棚を探さなかった。
まず老梁に尋ねた。
「許文成があの帳面を持っているのを見たのは、いつだ?」
「六月十二日の昼だ。」
「具体的には?」
「飯の前後だった。」
「許文成はどこから戻ってきた?」
「東倉だ。」
「ずっと手に持っていた?」
「ああ。」
「どんな帳面だった?」
老梁は眉を寄せた。
「荷の帳面より小さい。」
「厚かった?」
「厚くない。」
「表紙は?」
「灰色の布だったような気がする。」
安生は書き留めた。
「何か文字はあった?」
「見ていない。」
「許文成は誰かと話していた?」
「いや。」
「帳面をどこに置いた?」
老梁は旧帳場を指した。
「中に入ってからは出てこなかった。」
安生は尋ねた。
「許文成が帳面をそこへ置くところを、自分の目で見た?」
「いや。」
「じゃあ、どうして持って出なかったと分かる?」
老梁は一瞬、言葉を失った。
「……分からない。」
安生は頷いた。
「なら、いったんここまでにしよう。」
⸻
安生は旧帳場へ入った。
最初に目に入ったのは机。
次に棚。
そして三つ目に目に入ったのは、隅に置かれた、すでに壊れかけた木箱だった。
安生はすぐには何も触らなかった。
先に尋ねる。
「ここには昔、誰が鍵を持っていた?」
老梁が答えた。
「許文成。」
「ほかには?」
「周掌柜も持っていた。」
「お前は?」
「持っていない。」
「陸成安は?」
「昔は持っていた。」
安生は陸成安を見る。
陸成安は頷いた。
「あとで返した。」
「いつ?」
「六月以降だ。」
「具体的には?」
「覚えていない。」
安生は追及しなかった。
⸻
棚を開ける。
中には古い紙が入っていた。
すでにカビているものもある。
半分しか残っていないものもある。
一番下には。
小さな木箱が一つあった。
錠は壊れている。
安生は開けなかった。
代わりに尋ねた。
「これは昔、何を入れていた?」
陸成安が近づいてきて、一目見た。
「覚えていない。」
「帳面を入れていたように見える?」
「その可能性はある。」
「誰が使っていた?」
「許文成だ。」
「確かか?」
「いや。」
安生は頷いた。
「やっぱり、確定できない。」
⸻
しばらく探した。
だが、灰色の布表紙の帳面は見つからなかった。
安生は逆に、そこで手を止めた。
「もう探さなくていい。」
老梁が戸惑う。
「探すんじゃなかったのか?」
「今は探さない。」
「なぜ?」
「もう一つ問題が出てきた。」
「何だ?」
「もし、その帳面が本当に存在したのなら。」
「なぜ許文成は『ここには置けない』と言った?」
誰も答えなかった。
⸻
午後。
安生は許蘭を訪ねた。
「お父さんに、灰色の布表紙の帳面はあった?」
許蘭は長いこと考えた。
「あった。」
安生が顔を上げた。
「見たことがある?」
「一度だけ。」
「いつ?」
「子供の頃。」
「覚えていることは?」
「小さかった。」
「普通の帳面より小さい。」
「表紙は灰色。」
「中には何が書いてあった?」
「分からない。」
「お父さんは普段、どこに置いていた?」
「触るなって言われていた。」
安生は尋ねた。
「その後は?」
「いつの間にかなくなった。」
「いつなくなった?」
「分からない。」
「お父さんは、その帳面について何か言っていた?」
許蘭は首を振った。
「何も。」
安生はしばらく黙った。
「灰色の布表紙だったことは確か?」
「確か。」
「なぜ?」
「子供の頃、すごく古いと思ったから。」
「父に聞いたことがある。」
「そしたら、これはお前が見るものじゃないって言われた。」
⸻
安生は許蘭の家を出た。
初めて。
少し具体的なものが見えてきた。
灰色の布表紙。
小さい。
古い。
許文成が持っていた。
そして六月十二日。
誰かが、彼が似たようなものを持っているところを見ている。
だが、それでも証明できるのは。
こういう帳面が存在した、ということだけだ。
六月十二日に許文成が持っていたものが。
それと同じだったとは、まだ言えない。
⸻
夕方。
陸成安が安生を訪ねてきた。
「一つ、思い出した。」
「何?」
「前に、六月十二日に許文成がどこへ行ったか聞いただろ。」
「ああ。」
「実は、その日の朝。」
「あいつは俺のところへ来た。」
「いつ?」
「かなり早い時間だ。」
「何を言った?」
陸成安は少し間を置いた。
「こう言った。」
「六月十二日の帳面について誰かに聞かれたら。」
「俺は、いなかったと言ってくれ。」
安生は何も言わなかった。
「お前は何と答えた?」
「なぜだと聞いた。」
「理由は?」
「言わなかった。」
「お前は承知したのか?」
陸成安は首を振った。
「分からない、と答えた。」
「その後は?」
「そのまま帰った。」
安生が尋ねた。
「どうして今まで言わなかった?」
陸成安は俯いた。
「ずっと思っていたんだ。」
「ただ面倒事に巻き込まれたくなかっただけかもしれないって。」
「この話が何かの役に立つのかも分からなかった。」
安生は陸成安を見た。
「役に立つ。」
「少なくとも。」
「六月十二日より前に、許文成がその日の帳面について誰かに聞かれる可能性を考えていたことは分かる。」
陸成安はすぐに首を振った。
「そこまでは言うな。」
「なぜ?」
「なぜそう言ったのか、俺には分からない。」
安生は少し間を置いた。
それから言い直した。
「少なくとも。」
「誰かに聞かれる可能性を、本人が予想していた。」
陸成安は頷いた。
「それなら言える。」
⸻
安生が戻ると。
「何か問題があった」という言葉は書かなかった。
ただ、こう記した。
六月十二日以前、許文成は陸成安にこう言った。
『もし六月十二日の帳面について誰かに聞かれたら、俺はいなかったと言ってくれ』。
理由は不明。
その下に、もう一行。
南貨との関係を証明することはできない。
⸻
夜が深くなってから。
安生は、ふと一人の男を思い出した。
吴平。
翌日。
安生はもう一度、吴平を訪ねた。
「お前の父親は、許文成の灰色の帳面を見たことがある?」
吴平は首を振った。
「分からない。」
「じゃあ、許文成には別の帳面があったと言っていた?」
「言っていた。」
安生は一瞬、動きを止めた。
「いつ?」
「ずっと昔だ。」
「何と言っていた?」
「許文成は、ときどき『小帳』をつけるって。」
「小帳って何だ?」
「大きな帳面に入れないものだ。」
「例えば?」
「分からない。」
「臨時の荷について言っていた?」
「たぶん。」
「米は?」
「それもあったかもしれない。」
安生が尋ねた。
「確かか?」
吴平は少し笑った。
「お前、今の俺に何を聞いてる?」
「俺のどの言葉が確かなんだ?」
安生も笑った。
「じゃあ、全部不確定として記録する。」
⸻
吴平はしばらく考えた。
そして、ふいに言った。
「ただ、親父が一つ言っていた。」
「何?」
「許文成は、帳面をかなり細かくつける人だった。」
「でも、いくつかの帳面は、わざと一緒にしなかった。」
安生が尋ねた。
「なぜ?」
吴平は首を振った。
「分からない。」
「父親は理由を説明しなかった?」
「していない。」
⸻
帰り道。
安生はその言葉をずっと考えていた。
いくつかの帳面は、わざと一緒にしなかった。
これは。
たとえ灰色の帳面が存在したとしても。
何かを隠すためだったとは限らない。
当時から、用途の違う帳面が存在していた可能性もある。
荷の帳面。
米の帳面。
臨時の帳面。
飯場の帳面。
主人の雑帳。
帳面を分けていたこと自体は。
何もおかしくない。
本当に奇妙なのは。
六月十二日。
これらの帳面の間に。
完全には対応しない部分が、いくつも現れていることだった。
⸻
安生は住まいへ戻った。
紙を三つの欄に分けた。
左。
確定していること。
中央。
互いに裏付けられること。
右。
確定できないこと。
最初の欄には、数行しかなかった。
六月十二日、西倉三号から二包が出た。
馬成が二包の荷を王家へ運んだ。
王家は南布三反を米一石と相殺したと記録した。
臨牌は二枚あり、同じ一件ではなかった。
二つ目の欄。
六月十一日、米一石半。
六月十二日、南貨三。
老高が米の帳面がきちんと記録されたかを確認した。
六月十二日、許文成は荷の帳面を完全には記録していない。
三つ目の欄には。
もっと多くの項目が並んだ。
三反の南布が、西倉の二包と同じものなのか。
西倉の二包が、沈家の荷だったのか。
沈川は具体的な数量を知っていたのか。
周長順は明確な許可を得ていたのか。
誰が荷を米と相殺すると決めたのか。
灰色の帳面が、六月十二日に許文成が持っていた帳面なのか。
安生は長いこと、その紙を見つめた。
ふと気づいた。
事件は。
複雑になっているわけではない。
むしろ。
少しずつ小さくなっている。
最初。
皆が言っていたのは。
八十両。
それが後になって。
三包の荷。
そして今。
本当に残っているのは。
一つの問いだけなのかもしれない。
六月十二日、その二包の荷は、なぜ王家へ運ばれ、米と相殺されたのか。
⸻
翌朝。
安生は周長順の旧宅へ向かった。
そこには、もう誰も住んでいない。
だが、門番だけは残っていた。
安生は尋ねた。
「昔、周掌柜は自分の帳面を持っていた?」
門番は少し考えた。
「ああ。」
「どんなもの?」
「灰色の表紙だった。」
安生の胸がわずかに動いた。
「大きさは?」
「これくらいだ。」
門番が手で示した。
許蘭の話と、ほぼ同じ大きさだった。
安生が尋ねる。
「その後、どうなった?」
門番は首を振った。
「周掌柜が去るとき、持っていった。」
「いつ?」
「分からない。」
「ほかに見た人は?」
「老高だ。」
安生が止まった。
「老高が見た?」
「ああ。」
「いつ?」
「六月十二日より前だ。」
「具体的には?」
門番は首を振った。
「覚えていない。」
安生はそれ以上聞かなかった。
振り返って、その場を離れる。
門のところまで来たとき。
門番がまた呼び止めた。
「そうだ。」
「何?」
「あの帳面は灰色じゃない。」
「あとで周掌柜が表紙を替えた。」
安生が振り返る。
「いつ?」
「六月十二日以降だ。」
「なぜ?」
門番は首を振った。
「分からない。」
⸻
安生は門の外に立った。
すぐには立ち去らなかった。
紙に最後の一行を書いた。
周長順は灰色の表紙の小さな帳面を持っていた。六月十二日以降、その表紙は替えられた可能性がある。
その下に、もう一行。
許文成の帳面との関係は、まだ証明できない。
安生は帳面を閉じた。
今度は。
灰色の表紙を追い続けなかった。
すべての灰色の帳面を同じ一冊だと考えてしまえば。
調査はまた、推測に戻ってしまう。
今、安生に必要なのは。
見た目のきれいな答えではない。
誰かがもう一度調べ直しても耐えられる。
一本の証拠だった。
安生は顔を上げた。
遠くの碼頭を見る。
六月十二日。
あの日から、もう何年も経っている。
それでも。
あの日に残されたものは。
少しずつ、再び姿を現し始めている。
ただ。
今の安生には、まだ分からない。
本当に失われたあの一頁を。
いったい誰が持ち去ったのか。




