第八十九章 米はどこへ行ったのか
翌朝。
安生はまた王家へ向かった。
今度は周長順のことも、
南貨のことも聞かなかった。
聞いたのは、米のことだけだった。
「王叔。」
「六月十一日のあの一石半の米。」
「どこへ送ったか、王家では記録していませんか」
王福は帳簿の後ろのほうをめくった。
「親父は、そこまで細かくは書いてない。」
「数量だけだ。」
「では、米を取りに来た人は?」
「それも書いてない。」
安生は眉を寄せた。
「では、どうして碼頭で急ぎ必要だったと分かったんです?」
王福は少し考えた。
「取りに来た人がそう言った。」
「誰です?」
「梁姓の人間だった。」
安生はすぐに聞いた。
「梁成だと確定できますか?」
「分からない。」
「梁成を見たことは?」
「ある。」
「その人ですか?」
王福は首を振った。
「年齢は似ていた。」
「だが、断定はできない。」
安生はそれ以上聞かなかった。
ただ、その言葉を記録した。
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「その米は、最後にどこへ行ったんです?」
王福は答えた。
「最初の一石は、碼頭だ。」
「残りの半石も?」
「それも碼頭だ。」
安生が顔を上げる。
「確かですか?」
「親父がそう言っていた。」
「東倉へ運んだ?」
「そこまでは分からない。」
「西倉?」
「分からない。」
「誰か受け取った記録は?」
「ない。」
「その場で計量した人は?」
「たぶん、いる。」
「誰です?」
「分からない。」
安生はしばらく黙った。
「つまり。」
「王家で分かっているのは、誰かが米を取りに来て。」
「碼頭で急ぎ必要だと言った。」
「それで渡した。」
王福が頷く。
「昔は、みんなそんなやり方だった。」
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安生はすぐには帰らなかった。
もう一つ聞いた。
「六月十二日以降。」
「周長順は、また来ましたか?」
「来ていない。」
「米を返しに来た人は?」
「いない。」
「では、六月十一日に増えた一石半は。」
「最後にはどうやって帳消しになったんです?」
王福は六月十二日と六月十四日の帳簿を開いた。
「これだ。」
「南布。」
「三反。」
「一石。」
「それから二反。」
「二石。」
安生は帳簿を見つめた。
「親父さんは、その時点でこれが周長順の米の借りだったと知っていた?」
「知っていた。」
「いつ知ったんです?」
王福は少し考えた。
「六月十二日以降だったと思う。」
「誰から?」
「周掌柜のところの人間だ。」
「誰です?」
「分からない。」
安生は帳簿を元の位置へ戻した。
少しずつ繋がり始めている。
だが、まだ一本の線にはなっていない。
⸻
王家を出たあと。
安生は梁成を探さなかった。
旧碼頭へ行き、
赵德全を訪ねた。
「赵叔。」
「六月十一日。」
「本当に碼頭は米が足りなかったんですか?」
赵德全は頷いた。
「足りなかった。」
「どのくらい?」
「そこまでは誰も数えていない。」
「一番必要としていたのは誰です?」
赵德全は少し笑った。
「そんなことを聞いてどうする?」
「周長順が、その日に一石半を借りているからです。」
赵德全は黙った。
「知っているんですか?」
「さっき調べた。」
「それなら周長順に聞けばいい。」
「今はいない。」
赵德全は安生を見た。
「お前、あの米が碼頭に入っていないと思っているのか?」
「今は何も確定できません。」
安生は言った。
「だから聞いているんです。」
⸻
赵德全は長いこと考えていた。
「六月十一日。」
「午前中に、確かに米を取りに来た人間がいた。」
「どれくらい?」
「一石くらいだ。」
「誰です?」
「若い男だ。」
「梁姓?」
「たぶん、そうだ。」
「どこへ持っていった?」
「東のほう。」
「東倉ですか?」
「違う。」
赵德全は首を振った。
「碼頭の東側にある飯場だ。」
安生は驚いた。
「飯場?」
「そうだ。」
「船員たちが食うところだ。」
「では、残りの半石は?」
「午後にもう一度来た。」
「同じ人間ですか?」
「分からない。」
「どこへ運んだ?」
「やはり飯場だ。」
安生は何も言わなかった。
もし赵德全の話が正しければ。
この米の少なくとも一部は、
確かに碼頭の日常の食事に使われた可能性がある。
王家から直接、
どこかへ転売されたわけではない。
⸻
「飯場を管理していたのは誰です?」
「老孫だ。」
「孫福?」
「そうだ。」
安生はすぐに聞いた。
「孫福は帳簿をつけていませんでしたか?」
赵德全は首を振った。
「早くに死んだ。」
「だが、あいつには一つ癖があった。」
「何です?」
「毎日、何升の米を受け取ったか。」
「壁に書いていた。」
安生は聞いた。
「その壁は残っていますか?」
「建物ごとなくなった。」
「では、記録は?」
赵德全は安生を見た。
「残っているかもしれない。」
「どこに?」
「孫家だ。」
⸻
安生はすぐに孫家へ向かった。
孫福は何年も前に亡くなっている。
今そこに住んでいるのは息子だった。
昔の帳簿を見たいと言うと、
息子は箱の中から黄ばんだ紙を何枚か取り出した。
「親父が残したものだ。」
「役に立つかは分からない。」
安生は受け取った。
一枚目。
六月十日。
米三石。
二枚目。
六月十一日。
米一石。
三枚目。
同じく六月十一日。
米半石。
安生の手が止まった。
顔を上げる。
「これは、父親が書いたんですか?」
「そうだ。」
「この米は、どこから来た?」
「分からない。」
「父親は何か書いていませんか?」
「下のほうに何かある。」
安生はさらに見た。
その下には、数文字だけが残っていた。
「王家来。」
安生は一瞬、動かなかった。
もう一度見る。
「梁」ではない。
「周」でもない。
そこにあるのは、
「王家来。」
⸻
「どういう意味です?」
孫福の息子は首を振った。
「分からない。」
「父親は何か言っていませんでしたか?」
「何も。」
安生はさらに下を見た。
六月十二日。
「南貨三。」
六月十四日。
「南貨二。」
六月十五日。
記録なし。
安生は紙を机の上に置いた。
「これは米の記録ですか?」
「たぶん。」
「それなのに、どうして南貨まで書いてある?」
「分からない。」
安生は頷いた。
「俺にも分からない。」
紙に書かれていることを、
一つずつ写し取った。
そして聞く。
「この紙、持って帰ってもいいですか?」
孫福の息子は首を振った。
「駄目だ。」
「じゃあ、写すだけでいい。」
「それならいい。」
⸻
孫家を出たあと。
安生は道端に座り込み、
長いこと動かなかった。
六月十一日。
新しい証拠が一つ出てきた。
王家の帳簿。
一石。
半石。
そして孫福の飯場の記録。
一石。
半石。
日付も数量も一致している。
つまり。
六月十一日に王家から出た一石半の米が、
実際に碼頭の飯場へ運ばれた可能性は高くなった。
少なくとも、
それを示す別の記録が一つ見つかった。
だが。
まだ一つ問題が残っている。
「王家来。」
これは何を意味するのか。
⸻
沈砚は写しを見終えると、
最初にこう言った。
「先に意味を決めるな。」
安生は頷いた。
「俺もそう思っている。」
沈砚は三文字を指した。
「王家の人間が来た可能性もある。」
「王家の米が来たという意味かもしれない。」
「あるいは、記録した人間が自分用につけた目印かもしれない。」
「誰が米を受け取ったかを示すものとは限らない。」
安生は言った。
「だが、一石半と半石は。」
「王家の帳簿と日付も数量も一致している。」
「だから、今のところ少なくとも一つは言える。」
「六月十一日の一石半の米は。」
「何もないところから突然出てきたわけじゃない。」
「実際に碼頭へ入った可能性が高い。」
沈砚は頷いた。
「では、周長順が王家から借りた米も。」
「実際に存在した。」
「そうだ。」
「なら、問題は変わったな。」
安生は沈砚を見る。
「『周長順は米を取ったのか』から。」
「『なぜ周長順は、王家からその一石半を必要としたのか』へ。」
⸻
沈砚はもう一度、
孫福の記録を見た。
「それと、これだ。」
「六月十二日。」
「南貨三。」
「六月十四日。」
「南貨二。」
安生は頷いた。
「俺も気になっている。」
「飯場が受け取ったものかもしれない。」
「だが、違うかもしれない。」
「孫福は飯場を担当していた。」
「だから、これは補強材料にはなる。」
「だが、三反の布があの一石の米と引き換えだったとは、まだ証明できない。」
沈砚は少し笑った。
「少なくとも、お前はもう『証明できない』と書くことに慣れたな。」
安生は笑わなかった。
「昔は。」
「事件を調べるって、答えを見つけることだと思っていた。」
「今になって分かった。」
「多くの場合。」
「事件を調べるっていうのは。」
「間違った答えを、一つずつ外していくことなんだ。」
⸻
二人が安生の家へ戻る。
安生はすべての紙を、
もう一度机の上に並べた。
六月十一日。
一石の米。
半石の米。
東倉。
三包の南貨。
周長順が沈家の南貨を動かせるか尋ねた。
沈川の記録。
「周来、南貨可先処理と話す。」
そして。
六月十二日。
三反の南布。
米一石と相殺。
梁成が三包を運んだ。
馬成が二包を運んだ。
その二つの経路の間に、
老高がいる。
安生は記録を見つめていた。
ふいに言った。
「沈砚。」
「何だ?」
「お前の父親は六月十一日。」
「どうして『周来』と書いた?」
「どういう意味だ?」
「もし、ただ南貨を先に処理できるか聞かれただけなら。」
「どうしてわざわざ書き残した?」
沈砚は黙った。
安生は続ける。
「もしかすると。」
「その日に周長順が出してきた要求そのものが。」
「それまでとは違っていたんじゃないか?」
沈砚は答えなかった。
今のところ、
それを裏付ける証拠はない。
だが。
この問いは、
まだ追う価値がある。
⸻
その時。
外から扉を叩く音がした。
安生が扉を開ける。
赵德全だった。
手には、古びた紙が一枚ある。
「さっき思い出した。」
「これだ。」
「六月十一日と関係があるかもしれん。」
安生は受け取った。
紙には一行だけ書かれていた。
「周掌柜、米一石半を借りる。飯場に記す。」
その下に。
もう一つ名前がある。
周長順でもない。
梁成でもない。
そこに書かれていたのは。
「老高。」
安生はその二文字を見つめた。
長いこと、何も言わなかった。
赵德全が言う。
「この紙を。」
「誰が書いたのかは知らん。」
「だが、覚えている。」
「六月十一日。」
「米を取りに来たのは老高だった。」
安生は顔を上げた。
そして、
手の中の紙を強く握った。
六月十一日の一石半の米。
ここで初めて。
二つの記録が、
同じ一人を指す可能性が出てきた。
老高。
だが、新しい問題も同時に現れた。
もし米を取りに来たのが老高なら。
六月十二日も。
貨物を動かしていたのは老高だった。
彼は本当に、
ただの周長順の使い走りだったのか。
それとも。
もっと多くのことを知っていたのか。
安生は急いで結論を出さなかった。
ただ、その紙を一番下に置いた。
そして書いた。
「六月十一日:老高、米一石半を受け取る――要確認。」
「確認事項:誰が書いたのか。なぜ書いたのか。老高本人が受け取ったのか。」
少し考えてから。
もう一行を加えた。
「現時点では、米と南貨の関係は証明できない。」
窓の外は、すでに暗くなっていた。
だが六月十一日は。
ようやく、ただの日付ではなくなった。
そこに人が現れた。
そして、
具体的な動きも現れ始めた。
次に調べるべき人間も。
もうはっきりしている。
老高。




