第八十八章 あの三石の米
六月十一日。
今、安生が最もはっきりさせたいのは、この一日だった。
なぜなら、この日に、
三つのことが同時に起きている。
一つ目。
周長順の米の借りが、突然一石半増えた。
二つ目。
周長順が陸成安のところへ行き、
沈家の南貨を先に動かしていいかと聞いた。
三つ目。
沈川の手記に、
初めてこう書かれていた。
「周来,说南货可先处理。」
この三つは、
同じ出来事だったのか。
安生には分からない。
だから、
六月十一日という一日だけを、
先に取り出して調べることにした。
⸻
最初の場所。
王家の米屋。
王福は、古い帳簿をもう一度取り出した。
安生は六月十一日の記録を指差した。
「この一石半の米。」
「誰が取りに来た?」
「周長順本人じゃない。」
「誰だ?」
「若い男だった。」
「姓は?」
王福は長いこと考えた。
「たしか、梁だったと思う。」
安生が顔を上げた。
「梁?」
「そうだ。」
「梁成?」
「分からない。」
「梁二?」
「それも分からない。」
「どうして梁という姓を覚えている?」
「あとで親父が聞いたからだ。」
「その若い男は、」
「梁という姓だった、と。」
安生はすぐに書き留めた。
さらに聞く。
「その男は米を取りに来た時。」
「何と言った?」
「埠頭で急に必要になった、と。」
「誰に頼まれた?」
「周掌柜だ。」
「周長順の借りだとは言った?」
「言っていない。」
「あとで荷で返すとも?」
「言っていない。」
安生はうなずいた。
⸻
「その男は。」
「一石半を持っていった?」
「そうだ。」
「一度に?」
「二回だ。」
「一石?」
「半石。」
「いつ?」
「一石は午前。」
「半石は午後だ。」
安生の手が止まった。
「午後?」
「そうだ。」
「具体的には?」
「覚えていない。」
「周長順はいつ来た?」
「本人は来ていない。」
「それなのに、なぜ米を渡した?」
王福は答えた。
「埠頭の人間だったからだ。」
安生が聞く。
「札は?」
王福は首を振った。
「なかった。」
「書付は?」
「なかった。」
「それなのに、お父さんはなぜ渡した?」
王福は少し黙った。
「前から、そういうやり方だったからだ。」
安生はうなずいた。
そして聞いた。
「じゃあ、お父さんは。」
「それが周長順個人の米の借りだと知っていた?」
「知らなかった。」
⸻
米屋を出ると、
安生は紙に書いた。
六月十一日。
午前:梁姓の若い男が一石を受け取る。
午後:同じ男、または別の男が半石を受け取った。要確認。
書付なし。
臨時札なし。
理由:埠頭で急に必要になった。
そして最後の一行を見つめる。
一度線を引いた。
そして書き直した。
「王家の記憶によれば、周長順がその男に米を取りに行かせた。」
⸻
二番目の場所。
古い埠頭。
安生は老梁を見つけた。
「梁叔。」
「六月十一日。」
「埠頭では米が足りなかったのか?」
老梁はうなずいた。
「足りなかった。」
「なぜ?」
「船から来る米が遅れた。」
「どの船?」
「永順だ。」
安生はすぐに聞いた。
「永順はいつ着いた?」
「六月十日の夜だ。」
「荷下ろしはいつ終わった?」
「十一日の午前だ。」
「それなら、なぜ十一日にまだ米が足りない?」
老梁は少し笑った。
「荷下ろししたのは荷物だ。」
「米じゃない。」
安生は眉を寄せた。
「どういう意味だ?」
「永順は米を運んできた船じゃない。」
「じゃあ、さっき米が遅れたと言ったのは?」
「別の船の話だ。」
「どの船?」
老梁は長いこと考えた。
「覚えていない。」
安生は追及しなかった。
二十年以上も前のことだ。
こういう記憶を、
無理に一つにつなげることはできない。
⸻
安生は質問を変えた。
「六月十一日。」
「周長順は、特に忙しそうだったか?」
老梁は少し考えた。
「忙しかった。」
「何をしていた?」
「倉の荷だ。」
「どこの倉?」
「東倉だ。」
「なぜ?」
「荷を動かすと言っていた。」
「何を?」
「南貨だ。」
安生の胸が動いた。
「誰が手伝った?」
「分からない。」
「見たのか?」
「一部だけ。」
「どれくらい?」
「三包くらいだ。」
安生はすぐに聞いた。
「いつ?」
「午後だ。」
「六月十一日の午後?」
「そうだ。」
「確かか?」
「これはかなり確かだ。」
「なぜ?」
「その日の午後。」
「俺は東倉にいた。」
「周掌柜に、先に道を空けてくれと言われた。」
「それから誰かが三包の荷を運んだ。」
安生が聞く。
「誰が運んだ?」
「若い男だ。」
「姓は?」
「梁だ。」
安生の手が止まった。
また梁だった。
⸻
「三包で確かか?」
「だいたいな。」
「二包じゃない?」
「違う。」
「五包じゃない?」
「違う。」
「なぜ覚えている?」
「その時、俺が言ったんだ。」
「三包をどこへ置く、と。」
「すると彼が言った。」
「先に西へ置け、と。」
安生が聞いた。
「倉から出したのか?」
老梁は首を振った。
「分からない。」
「東倉から荷が出ていくのを見たか?」
「見ていない。」
「つまり。」
「三包が動かされたことしか確認できない。」
「そうだ。」
安生はすぐに書き留めた。
「六月十一日午後、東倉の南貨約三包が移動。」
その下に、
「出庫したことは未確認」
と書いた。
⸻
三番目の場所。
安生は梁成を訪ねた。
六月十一日のことを聞いた途端、
梁成は明らかに表情を変えた。
「どうした?」
「六月十一日。」
「お前、東倉へ行ったか?」
梁成は黙った。
「行った。」
「いつ?」
「午後。」
「何をしに?」
「荷を動かした。」
「何の荷?」
「南貨。」
「何包?」
「覚えていない。」
「老梁が言っている。」
「三包くらいだったと。」
梁成はうつむいた。
「三包だったかもしれない。」
「誰に頼まれた?」
「周長順だ。」
「どこへ動かした?」
「西へ。」
「倉から出したか?」
「出していない。」
安生は梁成を見た。
「確かか?」
「確かだ。」
「じゃあ六月十二日。」
「お前が持っていった三包は。」
「この三包だったのか?」
梁成は首を振った。
「分からない。」
「翌日、また東倉から誰かが荷を持ち出すのを見たか?」
「見ていない。」
「じゃあ、なぜ言った?」
「六月十二日の三包は。」
「俺が持っていったものじゃない、と。」
梁成は安生を見た。
「前にも言った。」
「俺は持っていっていない。」
「ただ、運んだだけだ。」
安生は手を止めた。
「運んだ。」
「持っていった。」
「この二つは。」
「別のことだ。」
梁成はうなずいた。
「そうだ。」
⸻
安生は突然気づいた。
この言葉は、
この事件の中で、
最も見落とされやすい部分なのかもしれない。
梁成は以前から言っていた。
「あの三包の荷は、俺が持っていったんじゃない。」
誰もがそれを、
「一度も触っていない」
という意味に受け取っていた。
だが今、
梁成が言っているのは違う。
「俺は運んだ。でも、持って出てはいない。」
つまり、
彼は荷の移動には関わっていた。
しかし、
最終的な受取人ではなかった可能性がある。
これは、吴顺の記録にある、
「臨牌一」
とも、
必ずしも矛盾しない。
臨時札は、
荷の移動の途中で使われただけかもしれない。
それだけでは、
最終的な所有者や受取人を証明することはできない。
⸻
安生は聞いた。
「六月十一日。」
「なぜ、その三包を動かした?」
梁成は黙った。
「周長順が言った。」
「先に動かせ、と。」
「どこへ?」
「西へ。」
「なぜ?」
「東倉を空けるためだと言った。」
「信じた?」
「その時は信じた。」
「あとになって?」
「翌日。」
「誰かが俺に取りに行けと言った。」
「同じ三包か?」
「分からない。」
「それでも、なぜ行った?」
「こう言われた。」
「向こうはもう話がついている、と。」
安生が顔を上げた。
「誰が言った?」
「老高だ。」
⸻
安生は何も言わなかった。
また老高だ。
今では、
六月十一日の午後にも、
老高が現れている。
六月十二日にも、
老高が現れている。
しかも二日とも、
周長順が荷を動かす場面に関わっている。
だが、それでも確認できるのは、
彼が実行に関わっていたことだけだ。
荷主が誰だったのかを知っていたとは、
まだ言えない。
まして、
沈家が同意していたことを知っていたとは、
証明できない。
⸻
家に戻ると、
安生はもう一度、時間の流れを書き直した。
六月十一日。
午前。
梁姓の若い男が王家から一石の米を受け取る。
午後。
王家からさらに半石。
午後。
東倉の南貨約三包が動かされる。
梁成は、その運搬に関わったことを認めた。
だが、
出庫したことは証明されていない。
同じ日に、
周長順が陸成安に尋ねた。
「沈家の荷を先に動かしていいか。」
沈川の手記。
「周来,说南货可先处理。」
安生はこの一頁を見つめた。
今、
「六月十一日」
という一日が、
ようやく具体的な形を持ち始めた。
だが、
まだ一つ重要な点が欠けている。
周長順は、
なぜ南貨を東倉から西へ動かしたのか。
⸻
翌日。
安生は周長順の昔の仲間を訪ねた。
姓は趙。
もうかなりの年齢になっている。
安生は聞いた。
「六月十一日。」
「東倉を空ける必要があったのか?」
趙老人は長いこと考えた。
「なかった。」
安生は一瞬、固まった。
「なかった?」
「当時の東倉は、それほど混んでいなかった。」
「じゃあ、なぜ南貨を動かした?」
「分からない。」
「西倉を空けるためだと言っていなかったか?」
「言っていない。」
「じゃあ、何を覚えている?」
趙老人はゆっくり言った。
「その日、周掌柜が。」
「一度、こう聞いた。」
「東倉のあの三包。」
「先に動かしてもいいか、と。」
安生が聞いた。
「なぜだと言った?」
「こう言った。」
「西側で誰かが見ることになっている、と。」
「誰が?」
「分からない。」
「いつ?」
「午後だ。」
「その場には誰がいた?」
「俺。」
「周長順。」
「それから、若い男が一人。」
「姓は?」
趙老人は首を振った。
「分からない。」
安生が聞いた。
「梁成か?」
「違う。」
「馬成?」
「分からない。」
「今なら見れば分かるか?」
「もう分からない。」
安生はうなずいた。
⸻
家に戻ってから。
安生は、その若い男が誰なのかを推測しなかった。
ただ一言を書いた。
「西側で誰かが見る。」
そして、その横に書いた。
「『見る』は、『持っていく』こととは違う。」
さらに、
「これだけでは、六月十一日に出庫したとは証明できない。」
と書き足した。
⸻
夜。
沈砚がやって来た。
安生は六月十一日のことを話した。
沈砚は長いこと黙っていた。
「つまり。」
「あの三包は。」
「六月十一日には、もう動かされていた?」
「可能性はある。」
「でも六月十一日に出庫したことは証明されていない。」
「そうだ。」
「六月十二日に梁成が持っていった三包も。」
「同じ三包だったとは限らない。」
「そうだ。」
沈砚が聞いた。
「じゃあ六月六日の十二包。」
「今、何包残っている?」
安生は首を振った。
「数えられない。」
「なぜ?」
「六月十一日と十二日。」
「どの包みがどの包みだったのか。」
「そこまで証明できていない。」
「数字は手掛かりにはなる。」
「でも、荷物の同一性の代わりにはできない。」
沈砚はうなずいた。
「じゃあ、今一番重要なのは誰だ?」
安生は長いこと考えた。
「梁成じゃない。」
「馬成でもない。」
「老高だ。」
「なぜ?」
「少なくとも二日続けて。」
「周長順が荷を動かす現場にいた。」
「それに。」
「六月十一日に動かされた荷が。」
「六月十二日のものと同じだったのか。」
「それを知っている可能性がある。」
沈砚が聞いた。
「どこにいるか分かるか?」
安生は首を振った。
「分からない。」
「じゃあ、どうやって探す?」
安生は机の上の紙を見た。
「まず、名前を探す。」
「名前すら分からないなら。」
「また一人ずつ聞いていくしかない。」
⸻
夜が深くなってから。
安生は、吴顺が残した臨時札の記録をもう一度見直した。
そこで突然気づいた。
「臨一」と「臨二」。
これは必ずしも、
六月十二日にだけ対応しているとは限らない。
六月十一日にも、
誰かが臨時札を使っていた可能性がある。
ただ、
吴顺は日付をはっきり書いていなかった。
安生はすぐに書き留めた。
「臨時札の番号が毎日振り直されるのか、要確認。」
もし臨時札が毎日番号を振り直されるものなら、
「臨一」「臨二」
という記録だけでは、
六月十一日と六月十二日を直接つなぐことはできない。
もし番号が長期間固定されていたなら、
話はまた変わってくる。
これは、
吴平に聞かなければならない。
⸻
翌朝早く。
安生は再び吴平を訪ねた。
口を開く前に、
吴平が言った。
「臨時札のことを聞きに来たんだろう?」
安生は一瞬、驚いた。
「どうして分かった?」
吴平は笑った。
「親父の記録を見ているからな。」
「そこまで調べてきたんだろう。」
安生が聞いた。
「臨一、臨二。」
「毎日、番号を振り直すのか?」
吴平は首を振った。
「違う。」
「じゃあ、どうする?」
「臨時札だから。」
「誰かが受け取る。」
「その日のうちに返す。」
「翌日は別の人間に渡すこともある。」
安生が聞いた。
「つまり。」
「六月十一日の臨一と。」
「六月十二日の臨一は。」
「同じ札とは限らない?」
「そうだ。」
安生はすぐに書き留めた。
そして、
そこで手を止めた。
もしそうなら、
これまでの、
「梁成が臨一を持った。」
「別の人間が臨二を持った。」
という話から分かるのは、
六月十二日に二枚の臨時札が使われた、
ということだけだ。
その二枚が、
それ以前には誰にも使われていなかったとは証明できない。
そして、
六月十一日に荷を動かした人間が、
同じ札を使ったとも証明できない。
安生は紙を見つめた。
そして小さく言った。
「この事件。」
「だんだん一冊の帳簿みたいになってきた。」
「でも、どの一行も。」
「最初から確認し直さなきゃならない。」
吴平が聞いた。
「最後まで調べたら。」
「全部、分かると思うか?」
安生は答えなかった。
ただ紙をしまった。
「分かるところまで。」
「分かったことを書く。」
「分からないところは。」
「分からないと書く。」
窓の外では、
川がゆっくり流れていた。
六月十一日の出来事に、
ようやくもう一つの層が現れた。
だが、
答えまでの距離は、
まだ遠かった。




