第八十四章 何を先に処理するのか
翌朝早く。
安生はまず沈家の旧宅へ向かった。
そこには、もう誰も住んでいない。
門には鍵がかかっていた。
沈砚が門の前に立っていた。
「何を探す?」
「お前の父親が昔つけていた帳簿。」
「帳簿?」
「碼頭の帳簿じゃない。」
「家の帳簿だ。」
沈砚は安生を見た。
「なぜ?」
「知りたい。」
「六月十二日より前に。」
「お前の父親が金に困っていたかどうか。」
沈砚は少し考えた。
「困っていなかった。」
「確かか?」
「分からない。」
「でも、子供の頃の記憶では。」
「あの頃、家に金が足りなかったことはない。」
安生はうなずいた。
「米代を滞納したことは?」
「覚えていない。」
「周家の米を掛けで買ったことは?」
「ない。」
「王家は?」
「それもない。」
安生は眉を寄せた。
「じゃあ、なぜお前の父親は南貨を処理する必要があった?」
沈砚は答えなかった。
⸻
二人は古い家の中へ入った。
沈砚はいくつかの木箱を引っ張り出した。
中には古いものばかりだった。
服。
薬瓶。
黄ばんだ紙。
安生は一枚ずつ確認していった。
そして一枚の米屋の領収書に目を止めた。
日付。
六月十日。
そこにはこう書かれていた。
米三石。
支払い済み。
安生はしばらく見つめた。
「これはどこの店だ?」
沈砚が見る。
「王家だ。」
「お前の父親が買った?」
「そうだ。」
「いつ払った?」
「六月十日。」
安生は眉を寄せた。
「六月十二日に、また貨物を米と交換する?」
沈砚も戸惑った。
「それは、同じ取引とは限らない。」
「そうだ。」
「だから、もっと探そう。」
⸻
しばらく探した後。
沈砚が箱の底から薄い冊子を取り出した。
「これは、前に見たことがない。」
安生が受け取った。
帳簿ではなかった。
いくつかの覚え書きが書かれている。
最初のページ。
「船着く。米、先に払う。」
二ページ目。
「南貨、急がず。」
三ページ目。
「周、米が足りないと言う。」
安生が顔を上げた。
「これはお前の父親が書いた?」
「たぶん。」
「日付は?」
「ない。」
安生はページをめくった。
中ほどに。
一行だけ書かれていた。
「先に処理する。ただし、全部は動かさない。」
安生の手が止まった。
沈砚もその言葉を見た。
「どういう意味だ?」
「まだ分からない。」
安生はさらに後ろをめくった。
説明はなかった。
⸻
碼頭へ戻った後。
安生はその言葉を持って趙徳全を訪ねた。
「趙叔。」
「昔、沈川が言ったのを聞いたことはある?」
「『先に処理する。ただし、全部は動かさない』。」
趙徳全は首を横に振った。
「ない。」
「じゃあ、碼頭で。」
「『南貨を処理する』というのは、どういう意味だ?」
趙徳全は少し考えた。
「売ることもある。」
「米と交換することもある。」
「倉を移すこともある。」
「送り返すこともある。」
「だから、『処理する』という言葉だけじゃ分からない。」
安生は聞いた。
「もし掌柜が。」
「『南貨を先に処理しろ』と言ったら。」
「普通は、誰がどう処理するかを決める?」
趙徳全は答えた。
「貨主だ。」
「貨主が来ていなかったら?」
「勝手には決められない。」
「掌柜なら決められる?」
「碼頭の掌柜は、貨物の手配はできる。」
「でも、貨主の代わりに値段を決めることはできない。」
安生はうなずいた。
「じゃあ、貨主が。」
「『先に処理してくれ』と言った場合。」
「掌柜が貨物を借金の返済に充てることは?」
趙徳全は首を横に振った。
「よほどはっきり言われない限り無理だ。」
「少なくとも。」
「誰に渡すのか。」
「どれだけか。」
「いくらで計算するのか。」
「誰が帳簿につけるのか。」
「そこまで分からないとな。」
安生が聞いた。
「それが全部なかったら?」
「一旦、預かっておくしかない。」
⸻
安生は戻ると。
その言葉を書き留めた。
それから王福の米屋へ向かった。
「王叔。」
「六月十二日。」
「周長順は来たか?」
王福は少し考えた。
「来た。」
「何の話を?」
「米だ。」
「いくら借りていた?」
「三石と言っていた。」
安生は一瞬、止まった。
「その時、三石の借りがあった?」
「ああ。」
「帳簿にはどう書いてある?」
王福は古い帳簿を開いた。
六月十二日。
確かにこうあった。
周長順、米三石。
その下に一行。
南布三匹、米一石と相殺。
六月十四日。
南布二匹、米二石と相殺。
安生は聞いた。
「つまり六月十二日。」
「本当に三石の借りがあった。」
「そうだ。」
「そして三匹の南布で。」
「一石を相殺した?」
王福はうなずいた。
「帳簿にはそう書いてある。」
安生はさらに聞いた。
「この三匹の南布が誰のものか知っていた?」
王福は首を横に振った。
「その時は知らなかった。」
「じゃあ、なぜ受け取った?」
「周長順が持ってきた。」
「誰のものだと言った?」
「こう言った。」
「碼頭の貨物だ、と。」
「俺は、周長順のものかと聞いた。」
「すると?」
「先に自分の帳簿につけてくれ、と言った。」
安生は黙った。
「つまり、貨主を確認しなかった?」
「しなかった。」
「もし沈家の貨物だと知っていたら?」
王福はしばらく考えた。
「受け取らない。」
安生が聞いた。
「なぜ?」
「その頃。」
「沈家とも取引があった。」
「貨主が同意していないものなら。」
「誰が動かせる。」
⸻
安生はそれ以上聞かなかった。
今。
一つの具体的な事実が出てきた。
六月十二日。
周長順は王家に三石の米の借りがあった。
同じ日。
王家は三匹の南布を受け取り。
米一石と相殺した。
六月十四日。
さらに二匹を受け取り。
米二石と相殺した。
帳簿の上では。
周長順の三石の米の借りは。
五匹の南布によって、ちょうどなくなっている。
だが。
これで証明できるのは。
米の借りが実際にあったこと。
そして。
南布が米の返済に充てられたこと。
それだけだった。
その南布が。
沈家のものだったことは。
まだ証明できない。
⸻
午後。
安生は馬成を訪ねた。
「一つ聞きたい。」
「何だ?」
「六月十二日。」
「お前が見たあの紙。」
「『米と交換』と書いてあった?」
馬成は首を横に振った。
「ない。」
「確かか?」
「確かだ。」
「何が書いてあった?」
「覚えているのは。」
「南貨。」
「三。」
「それから、もう一文字。」
「たぶん『沈』。」
安生は聞いた。
「『米』は?」
「ない。」
「『相殺』は?」
「ない。」
「『周』は?」
「たぶん、ない。」
安生はうなずいた。
それから聞いた。
「梁成が貨物を持っていく時。」
「周長順自身の貨物だと言っていた?」
馬成は首を横に振った。
「言っていない。」
「じゃあ、何と言った?」
「こう言った。」
「周掌柜に持っていけと言われた。」
安生は一瞬、止まった。
「お前はその時。」
「貨物が周長順のものだと思った?」
馬成は首を横に振った。
「分からない。」
「なら、なぜ聞かなかった?」
馬成は少し笑った。
「そんなこと、あの頃は誰も聞かなかった。」
「碼頭の人間が持っていけと言う。」
「だから持っていく。」
「仕事が終われば、それでいい。」
「誰の貨物なのかなんて。」
「誰が気にする。」
安生は馬成を見た。
「それが問題なんだ。」
馬成は戸惑った。
「何が?」
「いや。」
⸻
夕方。
安生は梁成を訪ねた。
梁成は門の前で薪を割っていた。
安生を見ると。
手を止めた。
「また何かあるのか?」
「ある。」
「お前があの三包の貨物を持っていった時。」
「それを米と交換することは知っていた?」
梁成は少し考えた。
「知っていた。」
「誰から聞いた?」
「周長順。」
「いつ?」
「持ち出す前。」
「何と言った?」
「言った。」
「王家へ運べ。」
「王家?」
「そうだ。」
「米と交換すると言った?」
「こう言った。」
「持っていけばいい。」
安生は眉を寄せた。
「沈家の貨物だとは言った?」
梁成は首を横に振った。
「言っていない。」
「沈家が同意したとは?」
「言っていない。」
「沈家が知っているとは?」
「持ち出す前には、言っていない。」
安生は聞いた。
「じゃあ、どうして後になって沈家の貨物だと知った?」
梁成は安生を見た。
「午後だ。」
「周長順が言った。」
「何と言った?」
「沈家は知っている、と。」
「その時、信じた?」
梁成は黙った。
「信じた。」
「なぜ?」
「掌柜だったからだ。」
「それに。」
「もう貨物は運び出していた。」
安生は彼を見た。
「つまり。」
「先にやった。」
「理由を知ったのは、その後だった。」
梁成は何も言わなかった。
⸻
夜。
安生は机の前に座った。
もう一度、整理する。
六月十二日。
周長順は王家に三石の米の借りがあった。
彼が手配した。
三匹の南布で一石。
二匹の南布で二石。
合計五匹。
帳簿上では、ちょうど合っている。
だが。
問題は。
この五匹の布がどこから来たのか。
六月六日。
沈家の記録。
南貨十二包。
六月十五日。
碼頭の記録。
南貨九包。
もし。
この十二包と十五日の九包が同じ貨物なら。
三包がなくなっている。
だが。
今のところ。
「十二包」と「九包」が同じ一批の貨物だという証明はない。
安生はそこを丸で囲んだ。
その下に書く。
「数量が一致することを、貨物が同一であることの証明にしてはならない。」
しばらく考えて。
さらに書いた。
「ただし、三包という数量は、引き続き確認する価値がある。」
⸻
夜。
沈砚がやって来た。
安生は米屋の帳簿について話した。
沈砚は読み終えると聞いた。
「つまり。」
「父の貨物が。」
「本当に米と交換された可能性がある?」
安生は答えた。
「可能性はある。」
「ただ、今分かるのは。」
「誰かが南布を使って、周長順の米の借りを返したこと。」
「それだけだ。」
「その南布が、お前の父親の貨物だったとは。」
「まだ証明できない。」
沈砚は黙った。
「じゃあ、父の言った『先に処理する』。」
「どういう意味だったんだろう?」
安生は首を横に振った。
「今は二つ考えられる。」
「一つ目。」
「南貨の一部を先に処理していい、と言った。」
「二つ目。」
「倉の仕事を先に片付けろ、と言った。」
「そして周長順が。」
「それを『貨物を借金の返済に使っていい』と理解した。」
沈砚は眉を寄せた。
「三つ目は?」
安生は彼を見た。
「ある。」
「何?」
「沈川が本当に同意していた。」
「ただ。」
「その範囲が。」
「俺たちが今考えているほど広くなかった。」
沈砚は黙った。
安生は続けた。
「だから。」
「周長順が必ず誤解したとも証明できない。」
「自分に許可がないと分かっていながらやったとも証明できない。」
「沈川が完全に反対していたとも証明できない。」
「今は、まだ調べるしかない。」
沈砚はうなずいた。
「何を?」
安生は薄い冊子を見た。
「一つ。」
「何?」
「当時の布の値段だ。」
沈砚は一瞬、驚いた。
安生は続けた。
「もし五匹の南布が。」
「本当に三石の米の返済に使われたなら。」
「そこには必ず値段がある。」
「当時の値段が。」
「沈家の貨物の値段とまったく合わなければ。」
「この相殺が普通の売買ではなかった可能性が出てくる。」
「逆に、値段が合うなら。」
「少なくとも。」
「周長順が当時どう計算したのか分かる。」
沈砚は安生を見た。
「つまり。」
「次は金を調べる?」
安生は首を横に振った。
「先に布。」
「それから米。」
「最後に帳簿だ。」
安生は紙を折った。
「帳簿は人間が書く。」
「布と米は。」
「自分から嘘はつかない。」




