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『安らかに生きる』 ――原題:『安生』  作者: 亀


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第七十九章 馬四

安生は二日かけて探した。


ようやく馬四を見つけた。


北のほうではなかった。


城西の、ある木工店だった。


今はもう、馬四とは名乗っていない。


木工店の主人は、彼を馬成と呼んでいた。


安生は店の入口に立ち、しばらくその男を見ていた。


それから、口を開いた。


「馬四?」


鉋をかけていた男の手が止まった。


顔を上げて、安生を見る。


「誰だ?」


「二十三年前。」


「碼頭で仕事をしていた。」


男の手が止まった。


「お前は誰だ?」


「安生。」


馬成は安生を見た。


「安順河の息子か?」


安生は少し驚いた。


「父を知っている?」


「会ったことがある。」


「いつ?」


「ずっと昔だ。」


馬成は鉋を置いた。


「俺を探して、何の用だ?」


「六月十二日のこと。」


馬成の顔色が、わずかに変わった。


ほんの少しだった。


だが、安生には分かった。


「覚えている?」


「二十年以上前だ。」


「細かいことまでは覚えていない。」


安生は無理に迫らなかった。


ただ聞いた。


「あの日。」


「碼頭へ行った?」


馬成は黙った。


「行った。」


「誰に会いに?」


「人を探しに。」


「誰?」


「梁成だ。」


安生はすぐには何も言わなかった。


ようやく、一つ確認できた。


少なくとも。


茶屋の主人の記憶は、完全に間違っていたわけではない。


⸻


「梁成に何の用だった?」


「奴が俺のものを持っていた。」


「何を?」


「金だ。」


「いくら?」


「忘れた。」


「そのあと、一緒に茶屋へ行った?」


馬成が顔を上げた。


「どうして知っている?」


「見た人がいる。」


「誰だ?」


「茶を売っていた人だ。」


馬成はそれ以上聞かなかった。


ただ言った。


「一杯、茶を飲んだ。」


「そのあと?」


「周長順を探した。」


「なぜ周長順を?」


「梁成が言った。」


「もう話はついている、と。」


安生はすぐに聞いた。


「何の話が?」


「知らない。」


「知らない?」


「奴が知っていると言った。」


「じゃあ、なぜついて行った?」


馬成は少し笑った。


「若い頃は。」


「誰かが知っていると言えば。」


「ついて行くものだった。」


「今は?」


「今なら、そんなことはしない。」


⸻


安生は続けた。


「あの紙を持っていた?」


馬成は安生を見た。


答えなかった。


安生も急かさなかった。


しばらくして。


馬成が聞いた。


「誰から聞いた?」


「見た人がいる。」


「俺の紙じゃない。」


「誰の?」


「梁成のだ。」


「見たことはある?」


「ある。」


「何が書いてあった?」


馬成は眉を寄せた。


「いくつか字があった。」


「何と?」


「南貨。」


安生の心が動いた。


「ほかには?」


「それと『三』。」


「その後は?」


「覚えていない。」


「『沈』という字はあった?」


馬成はしばらく考えた。


「たぶん、あった。」


「確か?」


「確かじゃない。」


安生はうなずいた。


「じゃあ、確かじゃないと記録する。」


馬成は安生を見た。


「今は、そんなふうに調べているのか?」


「そうだ。」


「なぜ?」


「二十三年前のことだから。」


「一人が一つの字を間違えて覚えれば。」


「まったく違う話になってしまう。」


馬成は黙った。


⸻


安生は聞いた。


「あの紙は最後に誰へ渡した?」


「梁成。」


「奴が持っていた?」


「ああ。」


「その後、誰に渡した?」


「知らない。」


「本当に?」


「本当だ。」


「じゃあ、どうして。」


「紙が自分のものじゃないと分かった?」


「梁成が見せてきたからだ。」


「いつ?」


「茶屋で。」


「なぜ?」


「奴が言った。」


「もし周掌柜に聞かれたら。」


「話はもうついていると言え、と。」


安生の手が止まった。


「誰と話がついた?」


馬成は答えなかった。


「分からない?」


「俺が知っているのは、その言葉だけだ。」


「誰が梁成にそう言った?」


「知らない。」


安生はさらに聞いた。


「梁成が。」


「『沈家は同意した』と言ったのを聞いた?」


「ない。」


「『沈家がうなずいた』とは?」


「ない。」


「『沈家は知っている』とは?」


馬成は首を横に振った。


「それもない。」


安生はゆっくりとうなずいた。


ここまでのところ。


馬四は、完全な答えを出したわけではない。


だが少なくとも。


一つの重要な事実を裏づけた。


六月十二日に、あの紙は確かに存在していた。


そして。


そこにはおそらく。


「南貨」。


「三」。


そう書かれていた。


さらに、「沈」という字があった可能性もある。


だが。


それだけでは、まだ許可があったとは証明できない。


⸻


安生が聞いた。


「どうして、そんなにはっきり覚えている?」


馬成は少し笑った。


「その後、問題が起きたからだ。」


「何が起きた?」


「誰かが言った。」


「あの三包の貨物は。」


「沈家のものだと。」


安生が聞く。


「誰が言った?」


「周長順。」


「いつ?」


「午後だ。」


「その場にいた?」


「いた。」


「何と言った?」


馬成はしばらく考えた。


「こう言った。」


「沈家はもう知っている、と。」


安生は眉を寄せた。


「同意した、じゃない?」


「違う。」


「うなずいた、でもない?」


「違う。」


「知っている?」


「そうだ。」


安生は何も言わなかった。


また一つ。


新しい言い方が出てきた。


沈家は知っている。


それは。


沈家は同意した。


という意味ではない。


⸻


「その後は?」


「周長順が、人に貨物を処理させた。」


「見た?」


「一部だけ。」


「誰が受け取った?」


「梁成。」


安生は聞いた。


「梁成一人で?」


「違う。」


「ほかに誰がいた?」


「倉の人間だ。」


「名前は?」


「忘れた。」


「二枚の臨時札を見た?」


馬成はうなずいた。


「見た。」


「誰が持っていた?」


「梁成が一枚。」


「もう一枚は?」


「別の人間だ。」


「誰?」


「知らない。」


安生が聞いた。


「梁成がそのうち一枚を持っていたのは確か?」


「確かだ。」


「その札は後で戻った?」


「戻った。」


「誰が返した?」


「知らない。」


⸻


安生はそれ以上聞かなかった。


これだけでも。


六月十二日の流れは、少し変わった。


これまで分かっていたのは。


東倉三包。


西倉二包。


二枚の臨時札。


そこへ今。


馬四から、新しい可能性が加わった。


梁成は、少なくともそのうち一つの貨物の受け取りに関わっていた。


だが。


梁成が受け取ったのが、三包だったのか。


それとも別の貨物だったのか。


まだ分からない。


それが沈家のものだったのかも。


分からない。


誰が梁成に受け取らせたのかも。


分からない。


⸻


帰ろうとした時。


馬成が突然、安生を呼び止めた。


「安生。」


「まだ一つある。」


「何?」


「あの日。」


「梁成は、実は俺に一つ聞いた。」


「何を?」


「『もし沈家のものじゃなかったら?』」


安生の足が止まった。


「お前は何と答えた?」


「俺は言った。」


「それなら、持っていくな、と。」


安生は馬成を見た。


「梁成は?」


馬成は少し笑った。


「こう言った。」


「周掌柜が問題ないと言っている。」


「そのあと?」


「それで行った。」


安生はその場に立ったまま。


何も言わなかった。


⸻


戻ると。


安生は今日の内容を、最初から書き直した。


その中で最も重要だったのは。


「沈家」でも。


「三包」でもない。


二つの言葉だった。


一つ目。


梁成。


「もし沈家のものじゃなかったら?」


二つ目。


馬成。


「それなら、持っていくな。」


そして梁成の答え。


「周掌柜が問題ないと言っている。」


安生は、その言葉を長いこと見つめた。


少なくとも梁成自身は。


貨物の所有者について、確認できていなかったように見える。


彼が頼りにしていたのは。


周長順が「問題ない」と言ったことだった。


では。


周長順の言う「問題ない」は。


どこから来たのか。


安生は陸成安が以前言っていた言葉を思い出した。


午前。


「沈家のほうから、もう話が来ている。」


午後。


「沈家はもう同意した。」


その間に。


馬成が聞いた。


「沈家はもう知っている。」


安生は三つの言葉を並べて書いた。


それから。


余計な説明は加えなかった。


ただ、その横に。


「時間順要確認」


と書いた。


⸻


夜。


沈砚がやって来た。


安生は馬成の証言を伝えた。


沈砚が聞き終えて。


最初に言った。


「じゃあ、父は本当に知っていたのかもしれない。」


安生はうなずいた。


「可能性はある。」


「少なくとも。」


「今は、『沈家は知っている』という言葉が、いくつも出てきている。」


沈砚はさらに聞いた。


「じゃあ。」


「父は反対しなかったということ?」


安生は首を横に振った。


「そこまでは言えない。」


「なぜ?」


「知っていることと。」


「同意することは。」


「同じじゃない。」


「誰かが、お前のところに貨物があると知っていることと。」


「お前が、その人間に持っていっていいと言うことは。」


「まったく別の話だ。」


沈砚は黙った。


安生は続けた。


「それに。」


「今はまだ分からない。」


「馬成が聞いた『沈家は知っている』が。」


「いつの言葉だったのか。」


「もし貨物が出た後だったなら。」


「それは後から付け足された説明だった可能性もある。」


沈砚はうなずいた。


「だから、時間を調べる必要がある。」


「そうだ。」


⸻


安生は帳面を閉じた。


「少なくとも、一つ分かった。」


「何?」


「梁成は決める側の人間じゃない。」


「どちらかといえば、実行する側だった。」


「馬四は?」


「それも分からない。」


「じゃあ、決めたのは誰?」


安生は首を横に振った。


「まだ分からない。」


沈砚は安生を見た。


「じゃあ、また最初に戻ったのか?」


安生は少し笑った。


「違う。」


「少なくとも今は。」


「誰を、勝手に決める側の人間にしてはいけないのか。」


「それが分かってきた。」


「それも進展だ。」


⸻


翌日。


安生は再び呉平を訪ねた。


「六月十二日。」


「梁成は臨時札を持っていた?」


呉平は父親の残した記録を見た。


しばらく黙った。


「可能性はある。」


「なぜ?」


「ここに印がある。」


「何?」


「『臨二』。」


「その横に、小さく『梁』と書いてある。」


安生は思わず立ち上がった。


「どうして前に言わなかった?」


「この『梁』が誰なのか分からなかったからだ。」


「今は?」


「今なら少なくとも、梁成という人間がいる。」


「それでも確定はできない?」


「できない。」


安生はうなずいた。


「じゃあ、こう書く。」


「可能性あり。」


呉平は笑った。


「今のお前は、自分の記録まで信用しないんだな。」


安生は紙をしまった。


「信用しないんじゃない。」


「可能性を、確定に変えてはいけないだけだ。」


⸻


その夜。


安生はようやく六月十二日の人間関係を書き出した。


周長順。


梁成。


馬四。


身元不明の年長の男。


身元不明の若い馬姓の男。


陸成安。


呉順。


馬徳順。


沈川。


この日。


彼らは皆、どこかで姿を見せている。


誰かは話した。


誰かは札を持った。


誰かは貨物を見た。


誰かは一つの言葉を聞いた。


それでも。


全体を証明できる人間は、一人もいなかった。


安生は、その図を見つめた。


ふと気づいた。


本当に危険なのは。


一人の人間が嘘をついたことではないのかもしれない。


むしろ。


一人ひとりが。


ほんの一部分しか知らなかったことだ。


そして。


自分が見ていない部分について。


それぞれが判断を始めた。


安生は紙の一番下に、一行書いた。


「人は、すべてを知っているから決めるわけではない。」


「多くの場合、人は少ししか知らない。」


「それでも、もう動き始めてしまう。」


書き終えると。


安生は筆を置いた。


六月十二日。


本当の答えに。


また一歩近づいた。


だが。


その答えは。


単純な一つの名前ではないのかもしれない。


同じ一日の中で。


何人もの人間が。


それぞれ少しずつ何かを知り。


そして。


そのことによって。


物事を先へ進めてしまった。

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