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『安らかに生きる』 ――原題:『安生』  作者: 亀


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第七十五章 紙に残った名前

翌日。


安生はまず、碼頭へ向かった。


梁成を探したわけではない。


梁成が今どこにいるのか、まだ分からないからだ。


先に探したのは、


昔、梁成と一緒に働いていた人間だった。


六月十二日、


梁成はいったい誰に会っていたのか。


それを聞くためだった。


――


最初の一人。


何という姓の、年老いた荷運び人だった。


今では六十を過ぎている。


梁成の名前を聞くと、


しばらく考えてから言った。


「この男か」


「覚えている」


「あの頃は若かった」


「力もあった」


「頭もよく回る男だった」


安生は聞いた。


「六月十二日」


「梁成を見ましたか?」


「見た」


「いつ頃です?」


「午前だ」


「どこで?」


「東倉」


「何をしていました?」


「荷を運んでいた」


「そのあと?」


「誰かに呼ばれた」


「誰に?」


「分からない」


「どこへ行った?」


「たしか、周長順のところへ向かった」


安生は聞いた。


「あなた自身が見たんですか?」


「ああ」


「周長順が呼んだんですか?」


「それは分からない」


安生はうなずいた。


さらに聞く。


「何か持っていましたか?」


何老はしばらく考えた。


「紙を一枚持っていた」


安生はすぐに尋ねた。


「どんな紙です?」


「分からない」


「大きさは?」


「このくらいだ」


何老が手で示す。


「掌くらいだ」


「白い紙ですか?」


「黄色かった?」


「覚えていない」


「文字はありましたか?」


「たぶんな」


「見えましたか?」


「はっきりとは見ていない」


安生はそれ以上、聞かなかった。


ただ記録した。


梁成は午前中、


紙を一枚持っていた可能性がある。


――


二人目。


以前、倉庫で雑用をしていた男だった。


姓は高という。


安生が訪ねた時、


男は庭で穀物を干していた。


梁成の名前を出すと、


最初にこう言った。


「どうしてあいつを調べている?」


「六月十二日」


「梁成を見ましたか?」


「見た」


「いつです?」


「午後だ」


「どこで?」


「西倉」


「何をしていました?」


「荷を運んでいた」


「何の荷です?」


「分からない」


「何人でした?」


「二人だ」


安生が顔を上げた。


「もう一人は?」


「よく見ていない」


「年齢は?」


「梁成より上だった」


「服装は?」


「濃い色の服だった」


安生は聞いた。


「紙を持っていましたか?」


高姓の男はしばらく考えた。


「持っていた」


「誰が?」


「もう一人の男だ」


安生は一瞬、黙った。


「確かですか?」


「俺はそう覚えている」


「どうして?」


「ずっと手に持っていたからだ」


「梁成は?」


「手ぶらだった」


安生はうなずいた。


二人の証言。


初めて、一つの共通した細部が出てきた。


紙が一枚あった。


だが同時に、


記憶には食い違いもある。


何老は、


梁成が紙を持っていたかもしれないと言った。


高姓の男は、


紙を持っていたのは別の男だと言った。


安生はどちらかを選ばなかった。


ただ、


「紙が存在した可能性が高まった」


と書いた。


――


「その男は」


安生は続けた。


「以前から見たことがありますか?」


高姓の男は首を振った。


「知らない」


「梁成は知っているようでしたか?」


「そう見えた」


「なぜ?」


「二人で話していたからだ」


「何を話していた?」


「分からない」


「一言でも聞こえませんでしたか?」


「一つだけ」


安生はすぐに紙を取り出した。


「何と言いました?」


高姓の男は長いこと考えた。


「梁成が聞いた」


「『もう話はついているのか』」


安生の筆が止まった。


「もう一人は何と答えました?」


「分からない」


「沈家という言葉は?」


「聞いていない」


「周長順という名前は?」


「たぶん、聞いていない」


「では、梁成がそう聞いたあと」


「二人はどこへ?」


「西倉だ」


――


安生はすぐには立ち去らなかった。


「どうして、その言葉を覚えているんです?」


高姓の男は少し笑った。


「俺にも意味が分からなかったからな」


「そのあと、何がありました?」


「午後、誰かが荷を取りに来た」


「俺はもう関わらなかった」


「誰が取りに来たか分かりますか?」


「分からない」


「では、なぜ聞かなかった?」


「碼頭なんて、毎日そんなものだった」


「誰かが来て荷を取る」


「誰かが書く」


「誰かが札を持っている」


「俺たちは働くだけだ」


「そんなことまで誰が気にする?」


安生はしばらく黙っていた。


それから言った。


「ありがとうございます」


――


その場を離れたあと、


安生は道端で足を止めた。


そして、もう一度整理した。


今のところ、四つの細部がある。


一つ。


梁成は午前中、周長順を訪ねた可能性がある。


二つ。


梁成は午後、西倉にも現れている。


三つ。


梁成は、年上らしい男と一緒に動いていた可能性がある。


四つ。


誰かが梁成の口から、


「もう話はついているのか」


という言葉を聞いている。


この言葉は、


「沈家は同意した」


という言葉より重要かもしれない。


少なくとも、その時点で梁成自身が、


すべてが決まっていると知っていたとは言えない。


彼は確認していた。


すでに決まった事実を、


誰かに伝えていたわけではない。


――


午後。


安生は陸成安を訪ねた。


「六月十二日」


「梁成はここへ来ましたか?」


陸成安はしばらく考えた。


「来たような気がする」


「いつ頃です?」


「午後だ」


「一人でしたか?」


「違った」


「他に誰が?」


「そこまでは気にしていなかった」


「彼はあなたに聞きましたか?」


「荷はもう話がついているのか、と」


陸成安は少し驚いた。


「どうしてそれを知っている?」


安生は答えなかった。


ただ続けて聞いた。


「聞いたことはありますか?」


「ああ」


「何と言っていました?」


「たしか、取ってもいいのか、と」


「私は言った」


「周長順から、もう話はついている、と」


安生は顔を上げた。


「あなたが言ったのは、その言葉ですか?」


「ああ」


「沈家が同意した、とは?」


「言っていない」


「周長順は?」


「それは覚えていない」


安生は黙った。


すると陸成安が、ふいに眉を寄せた。


「そういえば」


「何です?」


「思い出した」


「何を?」


「あの男、紙を持っていた」


安生は聞いた。


「誰が?」


「梁成と一緒にいた男だ」


「どんな紙です?」


「分からない」


「あなたに見せましたか?」


「見せてはいない」


「では、なぜ持っていた?」


「それは分からない」


――


安生はそれ以上、聞かなかった。


今、


三人の記憶の中に、


一つの共通点が現れ始めている。


六月十二日。


正体の分からない男が一人、


紙を持っていた。


だが、


その紙が何だったのかは、


まだ分からない。


――


夜。


安生は沈家へ向かった。


その日のことを沈砚に話す。


話を聞き終えると、


沈砚が尋ねた。


「沈家の荷札ではないか?」


「可能性はあります」


「もしそうなら?」


「それでも、権限の証明にはなりません」


「なぜ?」


「荷札と、荷を処理していいという許可は別だからです」


「荷札は荷について書いたものです」


「そこに許可の内容まで書いていなければ」


「それだけでは分かりません」


沈砚はうなずいた。


「では、三包の南貨と書いてあったとしても?」


「それだけでは、米との清算に使っていいとは言えません」


「沈家の印があったら?」


「その場合は意味が出てきます」


「なければ?」


「それでも、何も証明できないわけではありません」


「ただ、証明できる範囲が違います」


沈砚は安生を見た。


「お前は、だんだん父親に似てきたな」


安生は少し笑った。


「どうして?」


「何でも分けて考える」


「昔は」


「一つのことは、一つのことだと思っていた」


「今になって分かった」


「同じ一つの出来事の中に」


「いくつもの別の問題がある」


――


沈砚は突然、木箱を開けた。


「待ってくれ」


中から一枚の紙を取り出す。


紙は古びていた。


残っているのは、ほんの一角だけだった。


安生は受け取った。


そこには、


「南貨三……」


とだけ書かれている。


その下は何もない。


沈砚が言った。


「前に見せたものだ」


「六月十一日前後に残されたものらしい」


安生はしばらく見つめた。


「気づきませんか?」


「何に?」


「この紙」


「あの人たちが言っている紙とは」


「同じものではないかもしれない」


沈砚は戸惑った。


「なぜ?」


「これは破られている」


「それに、紙の端に沈家の古い帳面と同じ書式が残っている」


「もし六月十二日にあの男が持っていたのが、碼頭の普通の荷札だったなら」


「これは別の紙です」


沈砚はうなずいた。


「つまり」


「少なくとも、紙は二枚ある」


安生は言った。


「一枚は」


「沈家自身の荷についての記録」


「もう一枚は」


「六月十二日に誰かが持っていた紙」


「それが何なのかは」


「まだ分からない」


――


安生は二枚の紙を並べた。


重ねなかった。


紙質も、完全には同じに見えない。


安生はふと思った。


「あなたの父親は、六月十一日に『待定』と書いていた」


「もしかすると」


「そのあと、この紙を誰かに渡したのでは?」


沈砚は首を振った。


「分からない」


安生はうなずいた。


「では、調べます」


「何を?」


「この紙を」


「どこから来たのか」


「どこへ行ったのか」


「誰が持ったのか」


「誰が見たのか」


――


夜更け。


安生はもう一度、その日の記録を整理した。


最後に、


「梁成は重要人物だ」


とは書かなかった。


代わりに、


「梁成は、ただの仲介役だった可能性がある」


と書いた。


その下に、


「本当に調べるべきなのは、梁成と一緒に行動し、紙を持っていた人物」


と続ける。


しばらく筆を止め、


さらに一行を加えた。


「現在も、この人物の名前は分からない」


書き終えると、


安生は筆を置いた。


窓の外は、


もう静かだった。


二十三年前のこの古い事件で、


初めて、


一つの具体的なものが現れた。


金でもない。


荷でもない。


札でもない。


一枚の紙だった。


何人かの手を渡ったのかもしれない。


ただの荷札だったのかもしれない。


あるいは、


「沈家が同意した」という話とは、


まったく関係のない紙なのかもしれない。


安生は、


そこに残された数文字を見つめた。


ふと思った。


彼らが本当に失っていたのは、


「悪い人間」ではなかったのかもしれない。


当時は誰も重要だと思わなかった、


ほんの小さな一つの細部だった。


その紙には、


いったい何が書かれていたのか。

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