第六十八章 彼は知っていたのか
翌日。
安生は朝早く沈家へ向かった。
沈砚はすでに、
父親が残したものをもう一度整理していた。
「昨日言っていたな。」
「父が六月十一日と十二日に、何を知っていたのか調べたいって。」
「ああ。」
沈砚は一つの木箱を机の上に置いた。
「これは全部、昔、父が使っていたものだ。」
「仕事のものもある。」
「私物もある。」
「自分で見てくれ。」
安生はすぐには箱を開けなかった。
「中に何があるか、分かっている?」
「一部はな。」
「じゃあ、どうして今まで見なかった?」
沈砚は少し笑った。
「昔はただ知りたかったんだ。」
「誰が父を殺したのか。」
安生が顔を上げる。
沈砚は続けた。
「今は、それより。」
「父があのとき、実際に何をしたのかを知りたい。」
安生は頷いた。
それ以上、何も言わなかった。
⸻
木箱の中には、
古い冊子が何冊か入っていた。
一冊目。
沈川が普段、荷物について記録していたものだった。
六月六日。
南貨十二包。
六月七日。
河辺で事故。
六月八日。
記録なし。
六月九日。
南貨三包、倉を移す。
六月十日。
記録なし。
六月十一日。
そこには二文字だけあった。
「要確認。」
安生の手が止まった。
「要確認?」
沈砚が頷く。
「父の字だ。」
「どういう意味?」
「分からない。」
安生はそのまま先を読んだ。
六月十二日。
空白。
六月十三日。
空白。
六月十四日。
空白。
六月十五日。
一行だけ。
「九包、数量要確認。」
安生はしばらく見ていた。
それから聞いた。
「この冊子。」
「毎日書いていたわけじゃない?」
「違う。」
「どんな時に?」
「荷物があった時。」
「それか、何かあった時だ。」
「じゃあ、六月十二日はどうして何もない?」
沈砚は首を横に振った。
「分からない。」
⸻
安生は二冊目を手に取った。
こちらは沈川個人の雑記だった。
帳簿というより、
日記に近い。
六月十日。
「足の傷、まだ治らず。」
六月十一日。
「周が来て、南貨は先に処理してよいと言った。」
安生の手が止まった。
沈砚も言葉を失った。
「父が、本当に書いたのか?」
「そうだ。」
安生は先を読んだ。
その下には、
一行だけあった。
「不明。」
それ以上はない。
六月十二日。
記録なし。
六月十三日。
記録なし。
六月十四日。
記録なし。
六月十五日。
「九包、原票を見ていない。」
安生が顔を上げた。
「これはどういう意味?」
沈砚は首を横に振った。
「分からない。」
安生は二つの記録を並べた。
六月十一日。
「周が来て、南貨は先に処理してよいと言った。」
「不明。」
六月十五日。
「九包、原票を見ていない。」
今度は、
初めて沈川自身の記録が出てきた。
だが、それでも直接の証明にはならない。
沈川が六月十二日の米との相殺に同意した、
とは書かれていない。
むしろ、
「先に処理してよい」と、
「米と相殺してよい」では、
意味が違う。
⸻
安生が聞いた。
「お父さんは当時、足を怪我していた?」
「ああ。」
「六月十日にも、まだ足の傷が治っていないと書いている。」
「ずっと碼頭にいたわけじゃない?」
「たぶんな。」
「じゃあ六月十一日に周長順が来た時。」
「家にいた?」
沈砚は頷いた。
「たぶん家だった。」
安生が聞いた。
「周長順とは書いていない?」
「『周』としか書いていない。」
「これだけで周長順だと確定できる?」
「できない。」
安生は頷いた。
「そうだな。」
⸻
二人はさらに紙を調べた。
三冊目の途中に、
薄い紙が一枚挟まっていた。
そこにも沈川の字があった。
だが、半分しか残っていない。
「南貨三、もし本当に沈記のものなら……」
その先は破れていた。
安生はその一文を見つめた。
「これはいつのもの?」
沈砚が紙を見る。
「日付がない。」
「六月ごろ?」
「可能性はある。」
安生はそれ以上推測しなかった。
もしこれが六月十二日前後に書かれたものなら。
少なくとも一つ分かる。
沈川自身も、
その三包の荷物が沈記のものなのか、
確信していなかった。
⸻
そのとき、
沈砚が突然言った。
「待て。」
「どうした?」
「父には、もう一冊小さい帳面があった。」
「どこに?」
「たぶん棚の中だ。」
沈砚は立ち上がって探した。
しばらくして、
破れかけた小さな冊子を取り出した。
最初のページを開く。
そこには荷物ではなく、
何人かの名前が書かれていた。
安生は一ページずつめくった。
周長順。
許文成。
馬徳順。
陸成安。
それから、
知らない名前がいくつか。
その中の一つに、
線が引かれていた。
梁成。
安生の手が止まった。
「この人。」
「知っている?」
沈砚は首を横に振った。
「覚えがない。」
「父はどうして、この人の名前を書いた?」
「分からない。」
安生はさらに見た。
名前の横には、
短い言葉が添えられている。
周長順。
「管事。」
許文成。
「帳。」
馬徳順。
「倉。」
陸成安。
「貨行。」
梁成。
「代領?」
安生はその二文字を見つめた。
その後ろには、
小さな疑問符がある。
⸻
沈砚が聞いた。
「じゃあ、梁成という人間は本当にいたんだな?」
「少なくとも。」
「父がその名前を記録している。」
「それに、『代領?』と書いてある。」
安生は頷いた。
「そう。」
「でも、この疑問符が重要だ。」
沈砚が安生を見る。
「どうして?」
「父自身も確信していなかったからだ。」
「梁成が荷物を代わりに受け取った可能性を疑っていた。」
「でも、確認したわけじゃない。」
沈砚は頷いた。
⸻
安生はさらに一ページめくった。
六月十二日の横。
そこには一行だけあった。
「梁成、札返却済み。」
安生は勢いよく手を止めた。
沈砚もそれを見た。
二人とも黙った。
今まで見つかった中で、
最も直接的な記録だった。
六月十二日。
梁成。
札は返された。
安生が聞いた。
「ここでいう札は。」
「臨時札?」
沈砚は首を横に振った。
「分からない。」
「確定できない?」
「できない。」
安生はさらに読み進めた。
次の行。
「荷物不明。」
たった三文字だった。
安生はゆっくり椅子に座った。
もしこの数行が、
本当に同じ日の記録なら。
少なくとも分かることがある。
六月十二日。
梁成が一枚の札に関わっていた。
札は返された。
しかし沈川は、
その荷物が具体的に何だったのか、
分かっていなかった。
これは、
これまでに得た情報ともつながる。
⸻
沈砚が聞いた。
「じゃあ、これは。」
「梁成が沈家の荷物を持っていったってことか?」
安生は首を横に振った。
「違う。」
「どうして?」
「ここには、そんなことは書いていない。」
「『札返却済み』としかない。」
「それに、『荷物不明』だ。」
「そもそも。」
「その札が、どの荷物に対応していたのかさえ確定できない。」
沈砚はしばらく黙った。
「お前、ずいぶん慎重になったな。」
安生は笑った。
「一度間違えて推測すると。」
「後で全部、もう一度調べ直すことになるからな。」
⸻
安生は何枚かの紙を並べた。
六月十一日。
周が来て、
「南貨は先に処理してよい」と言った。
不明。
六月十二日。
梁成。
札は返却済み。
荷物不明。
六月十五日。
九包。
原票を見ていない。
この三つの記録によって、
初めて六月十一日から十五日までが、
一つの時間の流れとして見えてきた。
だが、
それは完全な答えにはならなかった。
むしろ、
新しい空白が増えた。
六月十一日。
周が沈川を訪ねた。
南貨を先に処理していいと言った。
沈川は、
「不明」と記録した。
六月十二日。
梁成が現れた。
札は返却された。
荷物は不明。
六月十五日。
九包。
原票が見つからない。
安生は突然聞いた。
「お父さんは六月十二日。」
「梁成に会った?」
沈砚は首を横に振った。
「この帳面には書いていない。」
「なら、確定できない。」
「そうだ。」
⸻
安生は立ち上がった。
数枚の紙を、
もう一度机の上に戻した。
「一つ分かった。」
沈砚が見る。
「何だ?」
「お父さんは、米との相殺に明確に同意してはいない。」
「少なくとも、今のところ見つかっていない。」
「でも。」
「誰かが南貨を処理しようとしていたことは知っていた。」
「それをすぐに止めてもいない。」
沈砚は黙った。
安生は続けた。
「何も知らなかったのとも違う。」
「もし、あのとき単純に状況を把握できていなかっただけなら。」
「判断を誤った可能性がある。」
「もし、沈記の荷物ではないと明確に知っていて。」
「それでも荷物を出したのなら。」
「それはまた別の話になる。」
沈砚は答えなかった。
ただ、
父親の字を見つめていた。
⸻
安生が帰ろうとしたとき。
沈砚が突然聞いた。
「もし最後に調べて。」
「父にも責任があったと分かったら?」
安生は足を止めた。
「そのときは。」
「書き残す。」
「父を庇わないのか?」
「庇わない。」
「どうして?」
安生は沈砚を見る。
「もし父が間違えたのなら。」
「俺が代わりに説明してしまったら。」
「それはもう、父自身の人生じゃなくなる。」
沈砚は長い間黙っていた。
やがて頷いた。
「分かった。」
⸻
沈家を出たあと。
安生はすぐに家へ戻らなかった。
碼頭へ向かった。
河辺に立つ。
河の流れは、
二十三年前とはもう違っている。
あの十二包の南貨が、
当時どんな経緯をたどったのか。
知っている者は、
もうほとんど残っていない。
だが今、
少なくともいくつかのことは、
分けて考えられるようになった。
六月六日の十二包。
六月十一日、
誰かが南貨を先に処理していいと言った。
六月十二日、
梁成、札返却済み。
六月十二日、
荷物不明。
六月十五日、
九包、原票を見ていない。
安生は、
それらを一つの物語にはしなかった。
ただ五つの出来事として、
紙に書いた。
最後に、
一行だけ加える。
「これらは関係している可能性がある。」
「しかし、まだすべては証明できない。」
日が暮れ始めていた。
安生は紙を折った。
そしてふと思った。
自分はもう、
以前のように、
急いで一人の名前を見つけて、
誰かに、
「犯人はこの人だ」
と言いたいとは思わなくなっていた。
今は、
一人一人が何を知っていたのか。
何をしたのか。
そして、
何を知らなかったのか。
そのほうを知りたい。
それで初めて、
最後にたどり着く答えが、
二十年以上前のあの日に属するものになる。
今の自分が、
答えを急いで作ったものではなく。




