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『安らかに生きる』 ――原題:『安生』  作者: 亀


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第六十二章 札を回収する人

翌日。


安生は、すぐに人を探しに行かなかった。


まず埠頭へ向かった。


趙徳全を訪ねるためだった。


「趙叔」


「また来たのか?」


「最後に一つだけ聞きたい」


趙徳全は笑った。


「お前は毎回、最後の一つと言うな」


安生も笑った。


「今度こそ本当です」


「何だ?」


「昔、出庫札を回収していたのは誰ですか?」


趙徳全は少し考えた。


「時期による」


「どういう意味です?」


「昼は人がいた」


「夜になると交代する」


「倉にも回収する人間がいた」


「帳場にも記録する人間がいた」


安生は尋ねた。


「じゃあ、結局誰が?」


趙徳全は安生を見た。


「最後のところを聞いているなら」


「帳場だ」


「札が戻ってきたら」


「帳場で一つ記録する」


安生はすぐに聞いた。


「許文成?」


「ああ」


「じゃあ、どうして許文成は『札、違う』と書いたんです?」


趙徳全はしばらく黙った。


「気づいたんだろう」


「何に?」


「札は戻ってきた」


「だが、帳面と合わなかった」


安生の胸が動いた。


「合わなかったって、どういうことです?」


「分からん」


「聞かなかったんですか?」


「あの頃、誰がそんなことを聞く」


趙徳全は、もう使われなくなった倉を見た。


「荷は出た」


「札は戻った」


「帳面にも記録した」


「物がなくなっていなければ」


「みんな問題ないと思った」


安生は頷いた。


その言葉にも、


もう慣れつつあった。


多くのことは、


誰かがわざと調べなかったのではない。


その時は、


調べるほどのことだと思われなかっただけなのだ。


⸻


許蘭の家。


あの木箱は、まだ机の上に置かれていた。


安生は中の木札を、もう一度一枚ずつ取り出した。


そこで、


ふと気づいた。


木札には、


すべて番号がついているわけではない。


日付だけのものもある。


一文字だけのものもある。


何も書かれていないものもあった。


許蘭が尋ねた。


「何か分かった?」


「これらは札そのものじゃない」


「じゃあ、何?」


「札を回収した後に残した記録だと思う」


「俺の推測だけど」


安生は、「十二」と刻まれた木札を机の上に置いた。


「これは、六月十二日のものかもしれない」


「どうして?」


「分からない」


許蘭を見る。


そして、すぐに付け加えた。


「ただの可能性だ」


「もし六月十二日のものなら」


「その日に十二番の周札が一枚、回収されたことになる」


「でも、もう一枚ある」


安生は、


番号のない木札を隣に置いた。


そこには、


「臨」


とだけ刻まれている。


許蘭は少し驚いた。


「臨時札?」


「可能性はある」


「じゃあ、六月十二日には二種類の札があった?」


「今のところは、そう見える」


⸻


その時、


許蘭が何かを思い出した。


「父には昔から癖があった」


「どんな?」


「札を記録するとき」


「誰が持っていったかは、ほとんど書かなかった」


「誰が返したかだけを書く」


安生は顔を上げた。


「どうして?」


「父が言っていた」


「札を持っていった人間が、そのまま荷を受け取った人間とは限らない」


「でも、札を返した人間は、必ず記録を残さなければならない」


安生は言葉を失った。


これは重要だった。


許文成が記録していたのは、


荷を出した人間ではない。


手続きが最後まで戻ってきたかどうかだった。


札が戻れば、


彼にとっては、


ひとまず手続きが終わったことになる。


その後、荷がどこへ行ったのか。


それは倉や貨行、あるいは管事の側にある、


別の記録に残されていたのかもしれない。


⸻


安生は尋ねた。


「お父さんは、札が戻ってこなかったことを話したことは?」


許蘭は首を振った。


「ない」


「じゃあ、一番変だと言っていたのは?」


許蘭は長いこと考えた。


「一度だけ、言っていた」


「誰かが札を持っていった」


「でも、戻ってくるのが遅すぎた」


「どのくらい?」


「父は」


「もう交代の時間を過ぎていた、と言っていた」


安生は眉を寄せた。


「何月何日?」


「覚えていない」


「六月十二日?」


「分からない」


安生は、それ以上聞かなかった。


やはり、


確かめられない。


⸻


午後。


安生は孫記へ向かった。


孫福は棚の商品を整理していた。


安生を見ると、


先に笑った。


「また昔の帳面か?」


「はい」


「今度は何だ?」


「札です」


孫福の手が止まった。


「どの札だ?」


「出庫札」


「周札か」


孫福はすぐには答えなかった。


少ししてから、


「昔はあった」


と言った。


「使ったことは?」


「ある」


「どうやって?」


「倉から荷を出す」


「札を持って行って荷を受け取る」


「荷が出る」


「札を返す」


「それだけだ」


安生は尋ねた。


「誰が札を渡す?」


「倉だ」


「誰が回収する?」


「帳場だ」


「許文成?」


「ああ」


「札が戻らなかったら?」


孫福は首を振った。


「それじゃ、終わったことにならない」


安生は孫福を見た。


「本当に?」


孫福は笑った。


「規則の上ではな」


「そうだった」


安生はすぐに聞いた。


「実際は?」


孫福の笑みが消えた。


「実際は、違うこともあった」


⸻


しばらくして、


安生が尋ねた。


「六月十二日」


「覚えていますか?」


孫福は首を振った。


「昔のことだ」


「六月十二日に、誰かが札を持っていった」


「見たんですか?」


「はっきりとは言えない」


安生は追及しなかった。


すると、


孫福のほうから口を開いた。


「ただ、あの頃」


「一枚の札が」


「戻ってくるのが遅かった」


「どうして?」


「札を持ってきた男が言った」


「荷はもう届けたから」


「少しくらい遅くても問題ない、と」


安生は聞いた。


「誰です?」


「分からない」


「男ですか、女ですか?」


「男だ」


「年は?」


「若かった」


「周長順?」


孫福は首を振った。


「違う」


安生は尋ねた。


「確かですか?」


「確かだ」


「どうして?」


「周長順は、あの頃もう四十を過ぎていた」


「その男は、二十代そこそこだった」


安生は、その言葉を書き留めた。


それ以上、


誰かを当てようとはしなかった。


⸻


夜。


安生は、その日に分かったことを整理した。


今のところ、確かめられるのは、


一つ。


出庫札は倉から出される。


二つ。


荷が出たあと、


札は帳場へ返される。


三つ。


許文成が重点的に記録していたのは、


札が戻ってきたかどうかだった。


四つ。


六月十二日前後には、


少なくとも通常の札と臨時札、


二つの流れがあった可能性がある。


五つ。


交代時間を過ぎてから、


札が返されたことがある。


六つ。


その札を返した若い男は、


周長順ではない。


それ以上は、


分からない。


⸻


安生は、


紙に書かれた「若い男」を見つめた。


すぐに名前にはしなかった。


今では、


分からないことは、


分からないままにしておくようになった。


名前が一つ足りないからといって、


そこに誰かを当てはめるわけにはいかない。


ふと、


以前、陳二が言った言葉を思い出した。


「誰でも知ってる」


「みんなそうしてる」


昔の安生なら、


その言葉を聞けば、


それだけで納得していた。


だが今は、


その言葉こそ危ないと思う。


「みんなやっている」というのは、


時に、


誰もきちんと記録していないという意味でもある。


⸻


翌日。


安生は、もう一度古い帳場へ向かった。


六月十二日の記録を、


すべて机の上に広げた。


そして、


「札を回収する」


という三つの字を丸で囲んだ。


なぜ許文成は、


札の回収を記録したのか。


札が戻れば、


荷を出す手続きは終わったことになる。


だが、


札が戻ったあとも、


荷の数が合わないのなら。


問題は札ではない。


荷のほうにある。


安生は、そこで手を止めた。


もう一度、


あの紙を見た。


「東倉 三」


「西倉 二」


「札、違う」


この三つの短い言葉は、


もしかすると、


五包の荷について書いたものではない。


二つの倉。


二度の出庫。


二種類の札。


そして許文成は、


その二度の出庫で、


手続きそのものが違っていたことに気づいたのかもしれない。


安生は筆を取り、


紙にもう一行書いた。


「六月十二日、二つの出庫手続きが存在した可能性がある。」


書き終えて、


それ以上は続けなかった。


まだ推測だからだ。


だが、


もしこの推測が正しいなら、


次に探すべきものは明確だった。


札を持っていった人間ではない。


札を回収した人間でもない。


当時、


臨時札を記録していた人間だ。


その人間なら、


知っているかもしれない。


なぜ六月十二日に、


同じ日に、


二つの違う出庫方法が使われたのか。


安生は紙をしまった。


古い帳場を出るころには、


もう空が暗くなり始めていた。


街では店じまいが始まっている。


野菜を担ぐ人。


牛車を急がせる人。


道端で値段を交渉する人。


二十年以上前の古い木札のことなど、


誰も知らない。


その札が今、


一人の若者の手の中で、


散らばった古い帳面を、


少しずつつなぎ直していることも。


だが、安生にも分かっていた。


つなぎ直すことと、


真相を知ることは同じではない。


今の安生が一番恐れているのは、


調べても何も分からないことではなかった。


早く分かりすぎることだった。


一つの場所を間違えて埋めれば、


その後のすべてが、


同じように間違ってしまう。


昔の安生には、


それが分からなかった。


今は分かる。


調べるというのは、


空白をすべて埋めることではない。


どこを、


空白のまま残さなければならないかを、


知ることなのだ。

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