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『安らかに生きる』 ――原題:『安生』  作者: 亀


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第五十九章 米は誰のものだったのか

翌日。


安生は城西へ向かった。


そこには昔、米を扱う店が並ぶ通りがあった。


今では、数軒の店が残っているだけだった。


王福から聞いた名前を頼りに、


安生は陳という老人を訪ねた。


陳家も、昔は米を商っていた。


今はもう商売をしていない。


安生が来た理由を話すと、


老人はしばらく考えた。


「周長順?」


「はい」


「昔はよく米を買いに来ていた」


「ここで?」


「時々な」


「掛けで買うことも?」


老人は少し笑った。


「商売をしていて、掛けを作らない人間なんているか?」


安生は笑わなかった。


「二十三年前の六月のことを聞きたいんです」


老人が安生を見る。


「お前が調べているのは、あの件か?」


「どの件です?」


「埠頭の件だ」


安生は答えなかった。


老人は手を振った。


「そう身構えるな」


「俺が直接見たわけじゃない」


安生は腰を下ろした。


「では、何をご存じですか?」


老人はしばらく考えた。


「周長順は、あの月」


「確かに米を三石、借りていた」


安生が聞いた。


「いつです?」


「六月八日前後だった」


「なぜ借りたんです?」


「埠頭に荷が入ると言っていた」


「数日すれば、それで清算できるから」


「先に米を受け取ったんだ」


安生は尋ねた。


「何の荷だと言っていました?」


「南の荷だ」


安生の指が、机を軽く叩いた。


「自分の荷だと言っていましたか?」


老人は首を振った。


「いや」


「では、誰の荷だと?」


「こう言っていた」


老人は少し間を置いた。


「埠頭の誰かに、処理するよう言われた荷だ、と」


安生が顔を上げる。


「誰に?」


「そこまでは言わなかった」


「聞かなかったんですか?」


「聞いた」


「何と?」


老人は答えた。


「『俺の荷じゃない』」


安生は黙った。


この言葉は重要だった。


少なくとも当時、周長順自身は、


その荷を自分のものだとは言っていなかった。


⸻


「では、その三石の米は」


「その後、どうやって返したんです?」


老人が言った。


「一石は米だった」


「残り二石は?」


「米じゃない」


「何です?」


「布だ」


「どれくらい?」


「二回に分けてだ」


「いつ?」


「十二日に一度」


「十四日に一度」


安生はすぐに聞いた。


「十二日は?」


「三反」


「十四日は?」


「二反」


安生は何も言わなかった。


日付も数量も、


すべて合っていた。


だが、それでも自分から結論を口にしなかった。


ただ尋ねた。


「その布を持ってきたのは誰です?」


老人は首を振った。


「知らない」


「見たことは?」


「ある」


「誰が持ってきた?」


「若い男だった」


「いくつくらい?」


「二十代だろう」


「姓は?」


「聞いていない」


「どこから来たと言っていました?」


「埠頭だと言った」


安生は聞き返した。


「自分が埠頭の人間だと言ったんですか?」


「違う」


「何と言った?」


「『埠頭から届けるよう言われた』」


安生は黙った。


これは、これまでの記録にはなかった話だった。


埠頭の記録には、


南貨三包、出庫。


米商の帳面には、


南布三反、米一石と相殺。


そして今度は、


「埠頭から届けるよう言われた」


という証言が加わった。


だが、


誰がその男に届けるよう言ったのか。


そこまでは、まだ分からない。


⸻


「陳叔」


安生は聞いた。


「その男が布を持ってきた時」


「何か持っていましたか?」


老人はしばらく考えた。


「持っていた」


「何です?」


「木の札だ」


安生の心が動いた。


「どんな札です?」


「埠頭の札だ」


「何と書いてありました?」


「よく見えなかった」


「文字は?」


「あった」


「何の字です?」


「たしか……」


老人は考えた。


「『周』だったと思う」


安生は黙った。


周。


また、その字だった。


⸻


老人が安生を見る。


「もう周長順のことまで調べているのか?」


「帳面を調べているだけです」


「なら、忠告しておく」


「何でしょう?」


「結論を急ぐな」


安生はうなずいた。


「分かっています」


老人は笑った。


「若い連中はな」


「昔の帳面を調べると」


「いくつかの数字をつなげてしまう」


「それで、全部分かったような気になる」


安生も少し笑った。


「今、それを避けようとしているところです」


「それならいい」


⸻


陳家を出た安生は、


すぐには周明貴のところへ行かなかった。


先に王家へ戻った。


陳老人から聞いたことを王福に話す。


王福は長い間、黙っていた。


「ということは」


「親父の帳面にあるあの何件かは」


「本当に周長順のものだった可能性があるのか」


安生は言った。


「直接対応する可能性はある」


「ただ、まだ完全には確定できない」


王福はうなずいた。


「お前もずいぶん慎重になったな」


「昔なら、俺もすぐにそうだと言っていた」


「今は言えない」


「なぜだ?」


「証拠が一つ足りないだけで」


「最後のところが、まったく違ってくることがあるから」


王福は何も言わなかった。


ただ、自分の古い帳面をもう一度取り出した。


「これを見てくれ」


安生が受け取る。


王福は六月十六日の頁を開いた。


そこには、小さな記録が一つあった。


これまで誰も気に留めていなかったものだった。


「周勘定、清算済み」


その下に、一文字。


「陳」


安生が顔を上げた。


「これは?」


「親父の印だ」


「陳家の記号ではなく?」


「そうだ」


「どういう意味です?」


「陳家側で、勘定が清算されたことを確認したという意味だ」


安生は帳面を見下ろした。


そこで初めて気づいた。


自分たちはずっと、


誰が荷を持ち出したのか。


誰が出庫したのか。


誰が帳面を書いたのか。


そればかり探していた。


だが、


もっと単純な問いがあった。


誰が、その借りが返されたと確認したのか。


⸻


安生は再び陳家へ向かった。


老人はちょうど店を閉めようとしていた。


戻ってきた安生を見て、


少し驚いた顔をする。


「まだ何かあるのか?」


「あります」


安生は記録を見せた。


「六月十六日」


「『周勘定、清算済み』」


「この『陳』は、こちらの記号ですか?」


老人は一目見ると、


うなずいた。


「そうだ」


「あなたが確認したんですか?」


「いや」


「誰が?」


老人は少し黙った。


「弟だ」


「今は?」


「もう死んだ」


「当時は何をしていたんです?」


「帳面を見ていた」


「周長順と会ったことは?」


「ある」


「三反の布について聞いたことは?」


「聞いた」


老人は安生を見る。


「何と言っていた?」


「布は埠頭から来た、と」


安生は聞いた。


「それを信じた?」


「埠頭の札があった」


「だから信じたんだ」


安生は黙った。


そして聞く。


「二反のほうは?」


「それも同じだ」


「それも埠頭から?」


「ああ」


「同じ人が持ってきた?」


「違う」


安生が顔を上げた。


「違う人?」


「最初の一回は」


「若い男だった」


「二回目は」


「中年の男だった」


「二人とも」


「埠頭から届けるよう言われた、と言った」


安生は黙った。


話が少し変わってきた。


もし二度とも別の人間が布を運んでいたのなら、


一人の人間が勝手に荷を持ち出したという話とは、


少なくとも単純には考えられない。


当時、


誰かが継続してそれを手配していた可能性がある。


⸻


「陳叔」


安生は聞いた。


「その二人のこと」


「まだ覚えていますか?」


老人は首を振った。


「もう昔のことだ」


「だが」


「弟が紙を一枚残していた」


安生はすぐに聞いた。


「どこにあります?」


「たぶん、まだある」


老人は奥へ入っていった。


しばらくして、


古い木箱を持って戻ってきた。


中には数枚の紙しか入っていなかった。


老人は何度か探し、


ようやく一枚を取り出した。


そこには、


「六月十二日、南布三反」


「届け人:不明」


「埠頭の周札による」


と書かれていた。


安生の目が、


最後の一行で止まった。


さらに下を見る。


もう一行あった。


「周勘定、記入済み」


名前はない。


署名もない。


それ以上の説明もない。


安生は紙を机の上に置いた。


すぐには持っていかなかった。


「陳叔」


「ん?」


「この『周札』というのは」


「何のことです?」


老人は首を振った。


「埠頭の人間が、そう呼んでいた」


「周という姓ではない?」


「違う」


安生は一瞬、言葉を失った。


「どういう意味です?」


「昔の札の一種だ」


「管事が出すことができた」


「その札を持っていれば」


「倉では、だいたい荷を出してくれた」


安生は黙った。


そういうことだったのか。


自分たちはずっと、


あの「周」を一人の人間の名前だと思っていた。


だが、


それは名前ではない可能性がある。


⸻


帰る途中、


安生は一言も話さなかった。


河辺まで来て、


ようやく足を止めた。


そして、今日分かったことを一つずつ整理した。


六月十二日。


南貨三包。


倉庫の記録には、


「周」。


米商の記録には、


南布三反。


届け出の記録には、


「埠頭の周札による」。


そして、その「周札」は、


埠頭で使われていた出庫の証票だった可能性がある。


つまり、


少なくとも今の段階では、


六月十二日の「周」が、


周長順本人だったとは証明できない。


まして、


周長順が自分で三包の荷を持ち出したとも言えない。


安生は河辺に立ったまま、


少し笑った。


これまで長い間、


自分たちは一つの字さえ、


読み違えていたのかもしれない。


「……やっぱり、急いじゃいけないな」


そう呟いた。


そして、


ふと思った。


もし「周札」が出庫の証票なら、


それは一枚だけではないはずだ。


一枚ごとに、


何らかの番号が付いている可能性もある。


もし当時の札が残っていれば、


六月十二日に、


誰がその札を出したのか。


そこまで分かるかもしれない。


安生は振り返った。


そして再び、


埠頭へ向かって歩き始めた。


今度、探すものは、


一人の人間ではない。


一枚の札だった。

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