第五十七章 父親が調べていたところ
安生は家に戻ってからも、
すぐには食事をしなかった。
父親の部屋へ向かった。
安順河は薬草を整理していた。
安生が入ってくると、
顔を上げた。
「どうした?」
「今日、陸成安さんに会った。」
父親の手が、一瞬止まった。
「何と言っていた?」
「父さんが昔、六月十五日まで調べていたって。」
安順河は何も言わなかった。
安生は腰を下ろした。
「見せてほしい。」
「父さんが当時、残したものを。」
父親は安生を見る。
「あんなもの、たいしたものじゃない。」
「自分で見たい。」
部屋がしばらく静かになった。
安順河は立ち上がった。
寝台のところまで行き、
その下から古い木箱を引き出した。
箱はかなり古い。
表面には、いくつか水に濡れた跡も残っている。
安生には見覚えがあった。
家に何年も置かれていた箱だった。
それまで、一度も尋ねたことはなかった。
父親が鍵を開ける。
中に金銀はなかった。
古い衣服が何枚か。
薬の処方箋。
それから、麻紐で束ねられた紙が一つ。
安順河は紙の束を取り出した。
「これだ。」
安生が受け取る。
一枚目。
六月三日。
二枚目。
六月六日。
三枚目。
六月七日。
その先には、
六月九日。
六月十二日。
六月十五日。
安生はゆっくりと紙をめくっていった。
そして、ふと手を止めた。
六月十二日の紙には、
数文字しか書かれていなかった。
「南貨三包。」
その下に、
「米一石。」
さらにその下には、
一本の横線だけが引かれている。
結果は書かれていない。
安生は顔を上げた。
「これ、父さんが書いたの?」
「ああ。」
「どうして、その先を書かなかった?」
「そのときは、何を書けばいいのか分からなかった。」
安生はさらにめくる。
六月十五日。
そこには、
「九包。」
その横に、
「数量相合」
と書かれていた。
安生は眉を寄せた。
「『数量相合』。」
「同じ荷だと確定したわけじゃない?」
父親はうなずいた。
「違う。」
「じゃあ、どうして『相合』と書いたの?」
「十二から三を引けば。」
「九になる。」
「ただ、それだけだ。」
「数が合うというだけだ。」
安生は父親を見る。
そして、ふっと笑った。
「父さんも、昔から同じことを書いてたんだ。」
安順河は安生を見る。
「何が?」
「数は合っている。」
「でも、それだけでは同じ荷とは限らない。」
父親は黙った。
「今になって分かった。」
⸻
安生はさらに紙をめくった。
六月十五日より後にも、
一枚残っていた。
日付ははっきりしない。
そこには、
「米、受け取り済み。」
その下に、
「布、全数未納。」
と書かれている。
安生は勢いよく顔を上げた。
「これは?」
「俺が書いた。」
「どういう意味?」
「あとで米屋へ行って聞いた。」
「米は、もう受け取ったと言っていた。」
「ただ、抵帳に使った布は。」
「三反しか記録されていなかった。」
「三包じゃない。」
安生はすぐに尋ねた。
「じゃあ、父さんは当時から知っていたんだ。」
「米屋が受け取ったのは、布三反だけだと?」
「ああ。」
「じゃあ、残りの二包は?」
「分からない。」
「聞いた?」
「聞いた。」
「誰に?」
「周長順だ。」
父親はしばらく黙った。
「何と言っていた?」
「倉の荷は。」
「全部が同じ荷主のものとは限らない。」
安生は眉を寄せた。
「どういう意味?」
「その三包の中には。」
「沈記の荷もあった。」
「別の人間の荷もあった。」
「ただ、どれも南貨だったから。」
「当時は一緒に処理した、と。」
安生は言葉を失った。
「つまり。」
「父さんは当時から。」
「あの三包が、全部同じ荷だとは限らないと知っていた?」
「ああ。」
「じゃあ、どうして六月六日の十二包を調べたの?」
「その中に沈記の荷が含まれているんじゃないかと思った。」
「九包は?」
「沈記の荷かもしれない。」
「そうじゃないかもしれない。」
「だから、父さんはここまで調べた?」
「ああ。」
安生は目を伏せた。
ようやく分かった。
父親の当時の記録が、
いつも少しだけ足りないように見えた理由が。
調べ方が分からなかったからではない。
一つ前提を確かめるたびに、
その前提自体が崩れていったのだ。
⸻
安生はさらにめくった。
最後の紙に、
一つの文章があった。
ほかよりも強い筆圧で書かれている。
書いたとき、
かなり力を込めたようだった。
「荷だけを調べてはいけない。」
その下に、もう一行。
「誰に荷を処理する権限があったのかを調べる。」
安生は手を止めた。
「これは、いつ書いたの?」
「六月十五日より後だ。」
「誰かに教えてもらった?」
「誰にも。」
「自分で考えた?」
「ああ。」
安生はその二行を見つめた。
そして尋ねた。
「そのあと、調べた?」
安順河は答えなかった。
「調べた。」
「誰まで?」
「周長順。」
「ほかには?」
「陸成安。」
「ほかには?」
「荷主だ。」
「誰?」
父親は黙った。
「沈記。」
安生が顔を上げる。
「沈記の人間?」
「ああ。」
「探した?」
「探した。」
「見つかった?」
「見つからなかった。」
「なぜ?」
「もう移っていた。」
「どこへ?」
「分からない。」
安生は黙った。
「沈記の帳面は調べた?」
「調べられなかった。」
「どうして?」
「地元の人間じゃなかった。」
「貨行も、ただ代わりに手続きをしていただけだ。」
「完全な帳簿は残っていなかった。」
安生はゆっくり腰を下ろした。
そのとき、
木箱の中にもう一枚の紙があることに気づいた。
一番下に押し込まれている。
半分しかない。
安生は取り上げた。
そこには、
「六月十二日、沈記……」
と書かれている。
その先は、
破り取られていた。
安生の息が一瞬止まった。
「父さん。」
「これは見たことある?」
安順河が見る。
その顔色が変わった。
「その紙。」
「どこで見つけた?」
「ここにあった。」
父親は黙った。
安生は急かさなかった。
長い沈黙のあと、
安順河がようやく口を開いた。
「もうなくなったと思っていた。」
「これが何か、知ってる?」
「知ってる。」
「誰が書いた?」
「周長順だ。」
安生は顔を上げた。
「確か?」
「確かだ。」
「元は何と書いてあった?」
「分からない。」
「全部書かれているところを見たことは?」
「ある。」
「いつ?」
「あの夜だ。」
「六月十二日?」
「ああ。」
「何と言っていた?」
安順河は目を閉じた。
記憶をたどるように、
しばらく黙った。
「こう言っていた。」
「沈記の荷。」
「三包に問題が出た。」
安生が尋ねる。
「どんな問題?」
父親は首を振った。
「分からない。」
「ただ。」
「一包は米の清算に使った。」
「残りの二包は……」
そこで言葉が止まる。
「残りの二包は?」
安生は待った。
長い沈黙のあと、
父親が言った。
「誰かが持っていった、と。」
部屋の中が静かになった。
安生は、それ以上尋ねなかった。
その言葉によって、
二十三年前のあの二包には、
初めてはっきりした状態が与えられたからだ。
何もないところから消えたわけではない。
誰かが持っていった。
だが、
そこから別の問題が生まれる。
誰が持っていったのか。
何の権限で持っていったのか。
誰が許可したのか。
何に使ったのか。
周長順は知っていた。
安順河も知っていた。
陸成安も一部を知っている。
許文成も知っていた。
それでも、
今に至るまで、
誰一人としてすべてを説明できない。
⸻
安生は、その半分の紙を持ち上げた。
「どうして、破られたの?」
安順河は首を振った。
「分からない。」
「父さんは、どうして残しておかなかったの?」
「残していた。」
「じゃあ、どうして半分しかない?」
「分からない。」
安生は父親を見た。
それ以上は聞かなかった。
ふと、一つのことに気づいたからだ。
もし父親が本当に隠そうとしていたのなら、
こんなものを今まで残しておく必要はなかった。
もし本当に最後まで調べ上げようとしていたのなら、
六月十五日以降で止まることもなかった。
父親が選んだのは、
そのどちらでもなかった。
自分が知っていることを残す。
そして、
それ以上は追わない。
⸻
翌日。
安生は趙徳全のところへ向かった。
「趙叔。」
「何だ?」
「昔の沈記の荷。」
「知ってる?」
趙徳全は眉を寄せた。
「どの荷だ?」
「六月六日。」
「十二包。」
「六月十二日。」
「三包。」
趙徳全はしばらく黙った。
「そこまで調べたか。」
「うん。」
「なら、もう分かっているはずだ。」
「何を?」
「あの三包の荷。」
「一人が持っていったんじゃない。」
安生は驚いた。
「どういう意味?」
「俺が当時聞いた話では。」
「一包は。」
「米の清算に使った。」
「残りの二包は。」
「別の勘定の支払いに使った。」
「何の勘定?」
「個人的な勘定だ。」
「誰の?」
「分からない。」
安生は尋ねた。
「誰が許可した?」
趙徳全は首を振った。
「分からない。」
「周長順?」
「たぶんな。」
「なぜ、たぶん?」
「当時は。」
「そういうことなら。」
「管事が一言言えば。」
「それで動いた。」
安生はうなずいた。
そして、もう一つ尋ねた。
「あの二包には、誰か署名した?」
趙徳全は長い間考えた。
「ない。」
「確か?」
「もしあったなら。」
「俺が見ているはずだ。」
安生は尋ねた。
「じゃあ、誰が運び出した?」
趙徳全は安生を見る。
「波止場の人間だ。」
「誰?」
「覚えてない。」
「姓は?」
「梁だった。」
安生は一瞬、動きを止めた。
「老梁?」
「たぶんな。」
「今も生きてる?」
「死んだ。」
安生は黙った。
また、線が途切れた。
それでも今回は、
失望しなかった。
少なくとも、
少しずつ見えてきたものがある。
六月十二日。
三包の荷が倉から出た。
一包は米の清算。
二包は別の個人的な勘定の処理。
そして、この三包の荷が、
すべて同じ荷主のものだったとは限らない。
本当に問うべきことも、
すでに変わっていた。
「誰が八十両を盗んだのか。」
ではない。
「誰に、波止場が預かっていた荷を使って、個人的な勘定を処理する権限があったのか。」
安生は波止場のそばに立った。
川の水を見つめる。
ふと、父親の言葉を思い出した。
――「荷だけを調べてはいけない。」
安生はうつむいた。
あの半分の紙を、もう一度きれいに折る。
そして懐にしまった。
今回は、
すぐに周長順の遺族を探すことはしなかった。
先に一つ、
確かめなければならないことがある。
あの二包の荷は、
いったい誰の借金を返すために使われたのか。
その借金を負っていた人間を見つけられれば、
いくつもの線が、
ようやく一本につながるかもしれない。




