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『安らかに生きる』 ――原題:『安生』  作者: 亀


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第四十九章 荷物はどこへ行ったのか

翌朝。


安生は朝早くから波止場へ向かった。


老梁のところへは行かなかった。


先に西倉へ向かった。


今の西倉には、もう布は置かれていない。


積まれているのは、米や木材だった。


安生は入口に立った。


塗り直された壁を見つめる。


もし趙徳全から聞いていなければ、ここが昔、倉庫だったことさえ思いつかなかっただろう。


まして二十三年前。


ここに、検品の終わっていなかった二包の布が置かれていたなどとは。


趙徳全が後ろからやって来た。


「見つかったか?」


「まだです」


「じゃあ、ここへ何をしに来た?」


「昔の置き場所を見に来ました」


趙徳全は笑った。


「今度は倉庫まで見るのか」


「帳面に書かれているものなら」


「どこかに置かれていたはずだから」


趙徳全は何も言わなかった。


ただ、安生を中へ連れていった。


一番奥まで行くと、黒ずんだ木の柱を指した。


「昔、ここに札が掛かってた」


「何の札です?」


「南貨」


「南から来た荷は、全部ここに置いたんですか?」


「そうじゃない」


「一時置きの荷だ」


安生は柱を見た。


「一時置きの荷って?」


「もう届いている」


「でも、まだ全部は調べ終わっていない」


「あるいは、次の便と一緒に処理するまで置いておく」


安生は頷いた。


「じゃあ、誰かが受け取りに来たら?」


「渡すことはできる」


「誰が決めるんです?」


「責任者だ」


「帳場には?」


「記録する」


「もし帳場の者が知らなかったら?」


「帳面から漏れる」


安生は、それ以上聞かなかった。


ふと分かった気がした。


「一時置き」というもの自体が、問題の起こりやすい場所なのだ。


荷物はすでに倉庫の中にある。


けれど、まだ正式な帳面の流れには入っていない。


その途中で何かが起きれば。


そこには、簡単に空白が残る。


⸻


趙徳全が、ふいに言った。


「そういえば、昔はここに壁があった」


「壁?」


「壁いっぱいに印が書いてあった」


「どんな印です?」


「どの荷が来たか」


「どの荷が出たか」


「誰が持っていったか」


「時には木炭で直接書いてた」


安生は壁を見る。


今は何もない。


「その後は?」


「塗り潰した」


「誰が?」


「知らん」


安生が振り返った。


「いつです?」


「騒ぎのあとだ」


「どの騒ぎです?」


趙徳全はしばらく黙った。


「お前が川に落ちた、あの時だ」


安生は、それ以上聞かなかった。


趙徳全が話せることは、もう十分に話してくれたのだと分かった。


⸻


昼。


安生は古い帳場へ戻った。


昨日見つけた木箱は、まだそこにあった。


六月六日から十五日までの記録をすべて広げる。


それから一枚の白紙を取り出した。


もう一度、書き直す。


六月六日――十二包。


六月九日――西倉へ二包を移す。


六月十二日――西倉、六包。


六月十三日――西倉、四包。


六月十五日――西倉、三包。


安生は、その数字を見つめた。


十二。


二。


六。


四。


三。


合計すれば、十五包になる。


明らかに、すべてが同じ荷ではない。


六月十二日の横に、


「六月六日との関係は証明できない」


と書いた。


六月十三日の横にも、


「六月九日との関係は証明できない」


と書く。


そして六月九日の記録を見る。


書かれているのは、ただ「移倉」の二文字だけ。


受け取った人の名前もない。


どこへ運んだのかという詳しい記録もない。


その後どうなったのかも分からない。


安生は眉を寄せた。


そこで、ふと一つのことに気づいた。


六月九日が本当に二包だけだったのなら。


六月十二日の六包も。


六月十三日の四包も。


六月十五日の三包も。


無理にそこへ結びつける必要はない。


本当に調べなければならないのは。


やはり、あの二包だった。


⸻


午後。


安生は馬成林を訪ねた。


今度は、馬成林も座れとは言わなかった。


「また来たのか?」


「はい」


「まだ何かあるのか?」


「お父さんが昔、話していなかったかと思って」


「六月九日」


「二包の布です」


馬成林は眉をひそめた。


「聞いてない」


「六月十日は?」


「ない」


「十一日は?」


「それもない」


安生は頷いた。


「じゃあ、お父さんが昔、どうして調べられたのかは知っていますか?」


馬成林は黙った。


「それを聞いて、どうする?」


「当時、父親が倉庫を管理していたことが分かったので」


「それに、二包の荷が西倉へ移された時期は、父親が倉庫を見ていた時期と重なります」


馬成林は安生を見た。


「親父を疑っているのか?」


「今のところ、誰かを疑うだけの証拠はありません」


「じゃあ、何のために聞く?」


「事実を知りたいからです」


馬成林はしばらく黙っていた。


やがて家の中へ入っていった。


しばらくして戻ってくると、古びた布包みを持っていた。


「親父が残したものだ」


安生は、すぐには受け取らなかった。


「中には何が?」


「知らない」


「見たことがないんですか?」


「見たことはある」


「じゃあ、どうして知らないって?」


馬成林は少し笑った。


「読めないんだ」


安生は布包みを開いた。


中には、紙が何枚か入っていた。


どれも乾いて、端が脆くなっている。


それから、一枚の木札。


木札には、


「西倉」


と刻まれていた。


安生が顔を上げる。


「これは、お父さんのものですか?」


「たぶんな」


「どうして分かるんです?」


「死ぬ前に、親父が俺に渡した」


「何か言っていましたか?」


馬成林は少し考えた。


「言ってた」


「これを持って、人を訪ねるなって」


安生は一瞬、手を止めた。


「なぜ?」


「もう役に立たないからだ、と」


安生は木札を見つめた。


それ以上は聞かなかった。


紙を開く。


そのうちの一枚には、いくつかの文字だけが残っていた。


六月九日。


二包。


移す。


その下に、小さく一字。


「馬」でもない。


「許」でもない。


ぼやけた、


「周」


だった。


安生は、その字をじっと見た。


「これは、お父さんが書いた字ですか?」


「違う」


「間違いないですか?」


「親父の字なら分かる」


安生は紙を裏返した。


何も書かれていない。


「この『周』は、誰です?」


馬成林は首を振った。


「知らない」


安生は何も言わなかった。


周長順の名前が、頭をよぎった。


だが、その字をすぐに彼の名前だとは結びつけなかった。


たった一字の「周」だけでは。


何一つ証明できない。


⸻


帰り道。


安生は王記の米屋の前を通った。


王福が米を運んでいた。


安生を見ると、


「安生」


と声を掛けた。


「王叔さん」


「最近も、あの古い帳面を調べてるのか?」


「はい」


王福は笑った。


「何か分かったか?」


「まだです」


「それでも調べるのか?」


安生は少し考えた。


「荷物がどこへ行ったのか」


「それだけでも、知っておきたいんです」


王福は肩に担いでいた米袋を下ろした。


「そう言われると」


「一つ思い出したことがある」


安生が立ち止まる。


「何です?」


「ずっと昔のことだ」


「ここに南から来た布が入ってきたことがある」


「布?」


「そうだ」


「俺が買ったわけじゃない」


「誰かが米と交換しに持ってきたんだ」


安生は眉を寄せた。


「いつです?」


「覚えてない」


「ずっと昔、ということですか?」


「ああ」


「六月では?」


王福は首を振った。


「分からない」


「どのくらいありました?」


「何反かだ」


「何反?」


「ほんの少しだ」


「誰が持ってきたんです?」


王福は少し考えた。


「たしか、周という姓だったような気がする」


安生は何も言わなかった。


王福は安生の表情を見る。


「どうした?」


「いえ」


「変なことを考えるなよ」


「俺も確信があるわけじゃない」


安生は頷いた。


「分かっています」


それ以上は聞かなかった。


今の話から分かるのは、一つだけだった。


ずっと昔、南から来た布を米と交換した人がいた。


それだけだ。


あの二包だったのか。


それは、まったく分からない。


⸻


夜。


安生は、その日手に入れたものをすべて机の上に並べた。


西倉の木札。


六月九日の紙。


馬徳順が残した「周」という字。


王福が話した、南から来た布。


しばらく、それらを見つめていた。


やがて筆を取り、


紙に書いた。


現在、確認できること。


一、六月六日、十二包の南貨が波止場に入った。


二、そのうち二包は、検品を終えていなかった。


三、六月九日、二包が東倉から西倉へ移された。


四、馬徳順が残した記録には、「六月九日、二包、移す、周」という文字がある。


五、王福は以前、南から来た布を何反か受け取ったことがある。ただし、時期、出所、数量はいずれも確認できない。


安生は手を止めた。


それから、もう一度書く。


現在、確認できないこと。


一、六月九日の二包が、六月六日の二包と同じ荷なのか。


二、「周」が周長順を指しているのか。


三、王福が受け取った布が、この荷と関係しているのか。


四、二包の荷が、その後どこへ行ったのか。


書き終える。


安生は椅子にもたれた。


失望はなかった。


むしろ、以前よりもはっきりしていた。


少なくとも今は。


いくつかのことを、別々に扱える。


もう、曖昧な「八十両」という数字だけで、すべてを説明する必要はない。


一つの「周」という字だけで、周長順が何かをしたと決めつける必要もない。


⸻


その時。


安平が戸を開けて入ってきた。


机の上を見て、


「また何か見つかったのか?」


と聞いた。


安生は紙を渡した。


安平は最後まで目を通した。


「周長順を疑ってるのか?」


「今は、そうとは言えない」


「なぜ?」


「一字しかない」


「それに、この紙を誰が書いたのかも、完全には分からない」


安平は頷いた。


「じゃあ、次は何を調べる?」


安生は少し考えた。


「王記だ」


「王叔さんのところ?」


「うん」


「南から来た布を米と交換したって話」


「もし当時の記録が残っていれば」


「何年のことだったのか、分かるかもしれない」


安平は安生を見た。


「もし、本当にあの荷だったら?」


安生は首を振った。


「まだ『もし』の話はしない」


安平は笑った。


「お前、最近ますます親父に似てきたな」


安生も笑った。


「うつったのかもしれない」


兄弟は、二人とも少し笑った。


笑いが消えたあと。


安平がふと聞いた。


「安生」


「うん?」


「最後まで調べて」


「もし、親父もあの時、何か間違っていたと分かったら」


安生は黙った。


長い間、何も言わなかった。


やがて、


「それも親父のことだ」


と言った。


「俺は、事実を確かめる」


「でも、親父のために事実を書き換えることはしない」


安平は安生を見た。


それ以上、何も言わなかった。


窓の外から風が入ってきた。


机の上の古い紙が、かすかに動く。


安生は手を伸ばし、その紙を押さえた。


ふと気づく。


昔の自分は、調べるというのは、一人を見つけることだと思っていた。


その人を見つければ。


すべてが終わる。


今になって分かった。


本当に難しいのは。


一人の人間がしたことと。


していないことを。


一つずつ分けていくことなのだ。


そうして最後に残ったものだけが。


その人自身のものになる。


だから今度は。


誰かの分まで、一つ多く数えたくはない。


そして。


一つ少なく数えることもしたくなかった。

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