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第5話 憧れの英雄は...飲んだくれでした。

書き溜めていた分まとめてあげています

「だから、今月まとめて払うって言ってるだろ!」

「その今月が何回目だと思ってるんだ!」

「……細かい男だなぁ」

「金の話だっつってんだろ!!」

周囲の冒険者たちから笑い声が上がる。

私は、その光景を呆然と眺めていた。

目の前にいるのは、十年間ずっと探し続けてきた人。

メアリー・レオンハート。

《緋色のメアリー》。

私とお母さんを救ってくれた、憧れの英雄。

その人が今、酒場の店長とツケの支払いで揉めている。

「…………」

……ええと。

これは、どういう状況なんだろう。

「メアリーさん。」

「……ん?」

「もしかして…お金、足りないんですか?」

「…………」

メアリーさんは、私を見た。

それから、店長を見た。

そしてもう一度、私を見る。

「なんだ……お前、まだいたのか」

「はい!」

「元気のいい返事だな。よし、帰れ」

「嫌です!」

「即答かよ……」

メアリーさんは、頭を抱えた。

私はその向かいに立ち、深く頭を下げる。

「十年前は、本当にありがとうございました!」

「…………」

「メアリーさんが助けてくれなかったら、私もお母さんも、きっと今ここにはいません!」

先ほどまで騒がしかったメアリーさんが、黙り込んだ。

私は顔を上げる。

「ずっと、お礼を言いたかったんです」

「……そうか」

小さな返事だった。メアリーさんは杯を見つめたまま、少しだけ目を伏せた。

「……元気でよかったな」

「はい!」

「なら、それでいいだろ」

「え?」

「礼なら受け取った。ほら、とっとと帰れ」

「…………」

……また、帰れって言われた。

どうしてだろう。

私は、もう一度メアリーさんを見つめた。

十年前、あの人は怖いと言いながら、それでも私たちを守ってくれた。

今は少し……いや、かなり様子が違うけれど。

あの時の優しさは、確かにここにある。

だから。

「メアリーさん!」

「今度は何だよ……」

「私、騎士になったんです!」

「さっき聞いた」

「メアリーさんみたいになりたくて!」

「それも聞いた」

「十年間、ずっと剣の稽古をしてきました!」

「……へえ」

初めて、少しだけ興味を持ってもらえた気がした。

「誰に習った?」

「最初は、お母さんです!」

「……母親に?」

「はい! それから、村の人たちにも教えてもらいました!」

「……そうか」

メアリーさんは短く答えた。

「なら、その教えてくれた連中を大事にしろよ」

「もちろんです!」

「よし。話は終わりだな」

「終わりません!」

「何でだよ!」

私は拳を握った。

ここまで来たんだ。

十年間、ずっと会いたかった人が目の前にいる。

聞きたいことも、話したいことも、たくさんある。

それに。ずっと、決めていたことがある。

「メアリーさん!お願いがあります!」

「お、おい。待て待て……嫌な予感しかしないんだが」

「私を――」

私は、深く頭を下げた。

「弟子にしてください!」

「…………」

沈黙。

周囲の笑い声まで、遠くなった気がした。

やがて。

「……は?」

メアリーさんが、間の抜けた声を出した。

「弟子?」

「はい!」

「誰の?」

「メアリーさんのです!」

「…………」

メアリーさんは、しばらく私を見つめていた。

それから。

「……店長」

「何だよ」

「酒が切れたみたいだ。もう一杯」

「だから先にツケを払え!!」

……また、そのやり取りだ。

「メアリーさん!」

「弟子は取らん!」

「そこをなんとか!」

「だから取らんって言ってるだろ!」

「どうしてですか!?」

「面倒くさいからだよ!」

「…………え?」

面倒くさい。

……面倒くさい?

私は、思わず首を傾げた。

十年前。命懸けで私たちを守ってくれた英雄が。

今、弟子を取らない理由として口にしたのは。

面倒くさい。

ただ、それだけだった。

「……メアリーさん」

「何だ」

「もしかして……」

「……?」

「すごく、面倒くさがりなんですか?」

「お!分かってくれたか!」

思わず、目を瞬かせる。

……あれ?

私の憧れていた英雄って。

こんな人だったっけ。

それでも。

私は、もう一度メアリーさんを見た。

あの時の背中を、私は忘れていない。

だから、簡単には諦められない。

「それでも、お願いします!」

「断る!」

「お願いします!」

「だから断るって!」

「お願いします!」

「……お前、人の話聞いてるか?」

「はい!」

「絶対聞いてねえだろ!!」

酒場に、再び笑い声が上がった。

メアリーさんは、深いため息をついた。

「……分かった」

「本当ですか!?」

「一つだけ、教えてやる」

「はい!」

私は思わず背筋を伸ばした。

初めて憧れの英雄から、教えを受けられる。

「いいか。よく聞けよ」

「はい!」

メアリーさんは真剣な顔で私を見つめた。

そして、静かに突き放すように告げた。

「……英雄なんかに、憧れるな」

「…………」

一瞬、言葉が出なかった。

その声には、さっきまでの軽薄さはなかった。

「……どうして、ですか?」

「ろくなもんじゃないからだよ」

そう言って、メアリーさんは笑った。

でもその笑顔は、どこか寂しそうに見えた。

「……それでも」

私は、拳を握りしめた。

「私にとって、メアリーさんは英雄です」

「…………」

「だから、諦めません!」

メアリーさんは、しばらく私を見つめていた。

やがて、大きくため息をつく。

「……ああ、もう」

そして。

「……店長」

「今度は何だ!」

「こいつ、何とかしてくれ」

「自分で何とかしろ!!」

……どうやら。

私の弟子入りは、まだ認めてもらえないらしい。

でも、大丈夫!十年間、探し続けてきたんだから。

少しくらい時間がかかっても、諦めるつもりはない。

――ただ、一つだけ。

私は、目の前で酒の追加注文を諦めきれずにいるメアリーさんを見つめた。

私の英雄って…

思っていたより、ずっと……

残念な人なのかもしれない………


今日もう1話あげれたらあげます

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