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「国王陛下、王妃殿下、並びにジョシュア殿下がご入場されます! 一同、礼!」
儀礼官の掛け声とともに、大きな扉が開かれた。
国王夫妻とジョシュアが姿を現すと、会場にいた全員が一斉に頭を下げる。
玉座へと続く赤い絨毯の上を歩きながら、三人は会場の奥へと進む。
国王夫妻が玉座に着くと、ジョシュアはその傍らへ静かに立った。
「続いてリーズリー国より、国王陛下代理、王弟デイビット・ヴァン・ダンジェ殿下!第一王女、エマリエル・ヴァン・ダンジェ殿下のご入場です!」
再び大きな扉が開かれる。
先頭を歩くのは、リーズリー国王の実弟にして、今回国王代理を務めるデイビット。
その半歩後ろに、エマリエルが続く。
粟色や黒髪が一般的で、ブロンドですら珍しいノルヴェイン国に対し、エマリエルの髪は青みがかったプラチナブロンドだ。
それはリーズリー王家にのみ受け継がれる特徴だと聞いていたが、ダリアも実際に目にするのは初めてだった。
瞳もまた、光を溶かし込んだような淡い色をしている。
(海を隔てるだけで、こんなにも違うものなのね…)
あまりにも見慣れないその容姿に、ダリアは思わず息をのんだ。
恐らくこの場にいる誰もがそう思っている中、エマリエルは真っすぐ背を伸ばし、王女らしい気品を湛えて歩みを進める。
二人は赤い絨毯の上を静かに進み、国王夫妻の前で立ち止まった。
『リーズリー国国王陛下の名代として参上いたしました。お招きいただき、心より感謝申し上げます』
デイビットの言葉を、帯同しているリーズリー国側の通訳者が、ノルヴェイン語に翻訳して会場中に伝える。
意味を理解した国王は微笑み、言った。
「遠路よく参られた。歓迎しよう」
『ありがたきお言葉、誠にありがとうございます』
デイビットは一礼すると、一歩横へ退いた。
代わってエマリエルが静かに半歩前へ出る。
ドレスの裾を美しく広げながら、リーズリー国伝統のカテーシーを披露する。
初めて見る方式のカテーシーとその洗練された所作に、会場のあちこちから思わず感嘆の息が漏れた。
『リーズリー国第一王女、エマリエル・ヴァン・ダンジェと申します。
どうぞ末永くよろしくお願いいたします』
国王は満足げに頷く。
「エマリエル王女。そなたを我が国へ迎えられたことを、大変喜ばしく思う。
どうかこの国を第二の故郷と思い、末永く過ごしていただきたい」
通訳者が二人に国王の言葉を伝えると、深く礼をした。
それを見届けた国王は、会場をゆっくりと見渡しながら続ける。
「今日は我が息子ジョシュアと、リーズリー国第一王女エマリエル殿下のため、この場へ足を運んでくれたことを心より感謝する。
本日の席は、婚姻に先立ち、両家ならびに両国の縁を結ぶための顔合わせの場である。
エマリエル殿下には、本日より我が国に滞在していただく。また、国王陛下の名代としてお越しくださったデイビット殿下にも、ふた月後に予定されている婚姻の儀が終わるまで、賓客として滞在いただき、力添えを賜ることとなっている。
この縁が両国の末永い友好へと繋がることを、心から願っている。
最後に、我が息子からも一言申し上げたい。ジョシュア」
「はい」
(きたわ…!)
思わずダリアの手に力が入る。
まるで、子どもの発表会を見守る母親の様な気分だ。
まさかその様に見守られているとは思っていないジョシュアは、実に落ち着いた表情で、一歩前へ出た。
「本日は私達の為にお集まり頂きありがとうございます。
父上の言葉通り、この婚姻が両国の発展の礎となる事を願っております。
皆様には、今後とも変わらぬ力添えを賜ります様よろしくお願い致します」
そしてジョシュアは、ゆっくりとエマリエルの方へ近付いて言った。
『エマリエル王女。
遠路はるばる、この国へお越しくださりありがとうございます』
ジョシュアの口から発されるリーズリー語に会場がどよめく。ジョシュアがリーズリー語を学んでいるという話は周知されていたが、ここまで流暢だとは想定していなかった様だ。
エマリエルとデイビットも目を見開いている。
『慣れない土地での暮らしは、不安も多いことでしょう。
少しでもあなたが不自由なく過ごせるよう、私もリーズリー国の文化や言葉を学び、皆と共に準備を進めてまいりました。
まだ至らぬ点も多いかと思いますが、これから共に歩み、お互いを知っていければ幸いです。
どうか末永く、よろしくお願いいたします』
(…やった!!)
一度も詰まることなく、ジョシュアは言い終えた。
これまで共に頑張ってきたダリアは感動のあまり、思わず拍手をしてしまいそうになるのをぐっと堪えた。
しかし自然と拍手が起き始め、それは大きなものとなった。おかげでダリアは誰よりも強く、ジョシュアに拍手を送る事が出来た。
『そのお心、大変感謝致します…!殿下』
デイビットが嬉しそうにジョシュアに握手を求め、二人は強く手を結ぶ。
(エマリエル殿下は…え?)
その時、ダリアは目を疑った。
そこにはジョシュアの気遣いに感動した姿ーーではなく、固く唇を結び、俯くエマリエルの姿があった。
(なぜ…)
想像とはあまりに違う反応に、ダリアの胸がざわつく。
一方でジョシュアは、その様子に気付いているはずなのに、少しも取り乱した様子はない。
(そもそも殿下が、どうしたらエマリエル殿下と仲良くなれるのか、悩んでいるのが不思議だった。
幼い頃から交流のある方なのにどうして、と……)
『ありがとうございます』
顔を上げたエマリエルは、礼儀として感謝を述べた。
だが、その表情に喜びの色は見えない。
(…もしかして)
ダリアの脳裏に、一つの可能性が浮かんだ。
(エマリエル殿下は、この婚姻を望んでいないのかもしれない)




