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アダラントが出て行った後、部屋は妙な緊張感に包まれた。
ダリアはブレーデンの顔が見れず、俯く事しか出来ない。
(すごく変なタイミングだったけど…お互いの想いを確認し合えた、という事でいいのよね…?)
ーー私は彼女を愛しています。
強く、はっきりと、ブレーデンはそう言った。ダリアはその声を何度も頭の中で反芻しながら、隣にいるブレーデンをちらりと覗った時だった。
「…まさか、父上の前で言うことになるとは」
「…ん?」
ブレーデンは全く嬉しそうではなかった。むしろ青ざめている様にすら見える。たまらずダリアは声をかけた。
「あ、あの」
「ダリア、頼みがある」
ブレーデンは勢いよくダリアの方へ向くと、力強い瞳で言った。
「仕切り直させてくれないか」
ダリアは目を見開く。
「な、何を」
「もう何もかもだ」
「はい!?」
甘い雰囲気とは全く逆の展開に、ダリアは困惑する。しかもいつの間にか呼び捨てだ。
「何もかもってどういう…」
「頼む、ダリア」
「…え!?あ…は、はい」
ダリアが了承したその瞬間、ブレーデンは一気に顔を綻ばせ、ダリアを抱きしめた。
「きゃーー!」
思わずダリアが叫ぶ。しかしブレーデンはお構いなしだった。
「ありがとう!ダリア!」
そう言って満面の笑みを浮かべると、名残惜しむ様子もなく身体を離す。
呆然とするダリアを置いて、ブレーデンはハッとした様に言った。
「実は殿下がーー」
二人はすぐにジョシュアとエマリエルの元へ行く。ダリアは二人と目が合った瞬間、涙が溢れた。
「私達のために…お二人が尽力なさったと聞いて」
「そんな大層なものではないわ。とにかくおめでとう…ダリア」
ダリアは堪らずエマリエルに抱きついていた。エマリエルも静かに涙を流して、ダリアを抱きしめる。
「今まで世話になりっぱなしだったんだ。このくらいは当たり前だ」
そう言ったジョシュアはブレーデンを見て、手を差し出す。ブレーデンは苦笑した後、その手を強く握った。
「おめでとう、友よ」
「…本当に、ありがとうございます」
この瞬間だけは、二人に主従関係などなかった。
それから話はどんどん進んでいった。
まず、ローディン伯爵家との縁談の話はなくなった。
ブレーデン自らがローディン伯爵家へ手紙をしたため、ダリアとの縁談を白紙に戻してほしい旨を申し入れたのだ。
予想通り、ローディン伯爵家は受け入れてくれた。
こちらからもローディン伯爵家へ詫びの手紙を送ったところ、縁談相手のセドリックは本当にダリアを気に入っていたらしかった。残念ではあるが、彼女の幸せを願っている、と返ってきた手紙には綴られていた。
ダリアは少し胸が痛んだが、中途半端に向き合う選択をしなくて良かったと改めて思った。今はただ、セドリックの幸せを願うのみだ。
自動的にダリアの両親にも、ブレーデンとダリアの想いが通じ合ったと知らせる事となる。
リリアンヌは大喜びで、グラムは呆れた様に笑っていた。ダリアは思わず問うていた。
「心配しているの?」
「ん?いや…むしろ心配しすぎていたなと思ってな。あれこれ口出ししてすまなかった。
とにかくお前が幸せであれば、それでいいんだ。よかったな、ダリア」
そう言ってグラムはダリアを抱きしめた。リリアンヌも一緒になって包む。ダリアは二人の暖かさを感じながら目を閉じた。
一方、兄のワーノルドは呆然としていた。
「まさか結婚するのか…?」
「すぐって訳じゃないけど…まあ、その内、ね」
「挨拶もなしに別の家名を継ぐだとか、そんな話になってるのはどうなんだ…?」
ダリアはワーノルドの気迫に冷や汗をかく。次の難関はここかもしれない、と心中でブレーデンを応援した。
「何それ!」
「驚くでしょう?本当にいきなりだったんだから…」
数日後、ダリアはベアトリスにも報告していた。最初は涙を浮かべて喜びを噛み締めてくれていたベアトリスだったが、まるで子どもの様にはしゃいでダリアを抱きしめてきたブレーデンの話をすると、ベアトリスは大笑いしていた。
「ふふ…面白い人ね。それにしても本当に良かったわ。もっと足掻きなさいなんて言ったけど、そうする必要もなかったわね。まさか王太子ご夫妻が協力してくれていたなんて」
「本当に驚いたわ。でもあなたがそう言ってくれなかったら、きっと私は弱気なままだった。もしかしたら、そんな私をアダラント卿は認めてくれなかったかもしれない」
ダリアはそう言いながらベアトリスの手を握る。ベアトリスもダリアの手を握り返した。
「それにしても羨ましいわ。忙しすぎて、恋なんてすっかり縁遠い話になっちゃった」
「そうなのね…」
ダリアはにやりと笑う。
「…お兄様も、相変わらず恋人はいないみたいよ?」
「!?ちょっとダリア…いつの話をしてるのよ!」
そう言ってベアトリスの頬が赤く染まる。実はベアトリスは幼い頃、ワーノルドに憧れていた時期があったのだ。
特に進展はなく、ダリアも忘れていたが、この反応を見るに少なからず今も意識はしている様だ。
(今度は私が応援する側かしら)
そう思いながら、自身の顔を手で仰ぐベアトリスを見て微笑んだ。
そうやって過ごしているダリアだが、大事なブレーデンからの連絡はまだなかった。
仕切り直すと言われて、ダリアは今お預けされている状態だ。想いが通じ合ったのだから、一刻も早く顔を合わせたいし、もう一度抱きしめたり、もっと触れ合ったりしたい。
そうやって悶々としていたある日、やっとブレーデンから連絡がきた。それを伝えにきたのは意外にもエドガーだった。
「お久しぶりです。ダリア殿!」
「お久しゅうございます…その、ジェドイック卿ではないのですね」
ダリアがそういうと、エドガーはうんざりした様に言った。
「ええ、そうです。ダリア殿と想いが通じ合ったと分かった途端にこれですよ…。
しかもジェドイックが無理だから仕方なくお前に頼むだけだとか言って、かなり嫌そうでした。人に物を頼む態度ではありませんよ、全く…」
「そうですか…」
ダリアは苦笑しながら、エドガーから手紙を受け取る。
「でも、改めておめでとうございます!殿下達も早くお会いしたいとのことです」
「私もですとお伝えください」
エドガーはにこりと微笑んで、去って行った。
ダリアはその場で手紙を開封する。どうやら明日、ブレーデンはダリアに会いにきてくれる様だ。
ダリアは心を躍らせた。




