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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第七章 王子ですが、臣下と子爵令嬢の仲を取り持ちます

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 ーーもう…私とは、会ってくれないの?



 聞いたことのなかったダリアのか細い声が、何度も頭に浮かぶ。


 顔は見られなかった。だから背を向けたまま答え、逃げるようにその場から去った。


 ブレーデンは、自分がこんなにも臆病な人間だとは思わなかった。


 どれだけ努力を重ね、多くの信頼を得ても、結局本質は変わらないのだと突きつけられたような気がする。


 与えられた職務を放棄し、初めて愛した人も傷つけて、何もかも中途半端な自分に、ブレーデンはひどく嫌気が差していた。


 今日は、ノルヴェイン国に帰る日だ。


 とにかく今は、ジョシュア達を無事に送り届ける事に集中せねばならない。ブレーデンは部屋を出る前に、自分の手の平に親指で三回円を描いた。


 それは兄から聞いた、母親が兄達にやっていた安心するまじないだった。


「ブレーデン」


 部屋を出ると、アダラントと鉢合わせた。ブレーデンは頭を下げる。


「そんなに畏まらなくていい。殿下の事を頼んだぞ」

「はい」


 およそ親子の会話ではないものを交わし、二人はそれぞれの方向へ進む。


 ただアダラントだけが途中で足を止め、そっと振り返る。そしてブレーデンの背中を黙って見つめていた。


『ご報告致します。港の警備にあたる騎士達は、定刻通りに出発しております。荷物の方も馬車に積み終わりました』

『報告ご苦労。では予定通りの時間に出発する』


 ブレーデンがそう言うと、リーズリー国の騎士は頭を下げ、去って行った。


 今回、ブレーデンがこれほどスムーズに事を進められたのは、リーズリー語を覚えていたおかげだった。

 そして、そのきっかけをくれたのは、他でもないダリアだった。


(…与えられてばかりだな)


 またダリアの事を考えてしまっている自分にブレーデンは気付く。もはや苦笑するしかなかった。


 ブレーデンはジョシュア達を馬車に乗せ、港へと向かった。ここに来た時同様、多くの民衆と楽隊が二人を盛大に送り出そうと集まっていた。


 馬車から降りるなり、声援と演奏が始まる。二人は笑顔で手を振って応えながら乗船した。


 あとは無事にこの海を渡るだけとなり、ブレーデンはほっと息を吐く。ジョシュア達を待機室へと案内しようとした時だった。


「ブレーデン、少し話がしたい。二人だけで」


 ジョシュアがそう言った。ブレーデンは一瞬戸惑ったが、もちろん了承した。

 とりあえずエマリエルを待機室へと案内し、ジョシュアと二人だけで空いていた部屋に入室した。 


「何とか日程をこなせたな。ありがとう、ブレーデン」

「身に余るお言葉です」

「本当にお前にはいつも感謝してるんだ。たまにむかつく事もあるけどな」


 そう言ってジョシュアは笑う。ブレーデンも思わず笑みが溢れた。

 ジョシュアはその表情を見て微笑み、少し視線を落として言った。


「お前のおかげで今の俺があると思っている。だが、たまに思うんだ。俺がお前を側近にしたいと言ったせいで、お前を縛ってしまったのだと」


 ブレーデンは目を見開く。


「その様に思わないでください。私こそあなたのおかげで、今の自分がいるのです。あなたに出会えなければ、私は何者にもなれなかった」

「なあ、ブレーデン。もうよせ。そんな風に自分を貶めるのは」


 ジョシュアはブレーデンを見つめて言った。


「お前はどんな立場だったとしても、絶対に輝いていたよ」

「そんな事はありません」

「いや、そうだ」

「いえ、ありません」


 不毛なやり取りに、ジョシュアは苦笑する。


「まったく、過去に遡って証明してやりたいよ。

 だがそうやって、恩義に感じてくれているのは俺も嬉しかった。そうだな…ある種誇りにも感じていたかもしれない」


 自分で言いながら、ジョシュアは気付いた。

 ブレーデンをこうさせたのは、アダラントだけでなく、ブレーデンの恩義を甘んじて受け入れていた自分のせいでもあるのだと。


(これを言っても、こいつには伝わらないだろうな…)


 この虚しさは、ジョシュアにしか分からないだろう。だからこそ、ジョシュアはブレーデンの幸せを願う。


「ブレーデン。俺という存在が枷になっている今、どんな事をしてでもお前を救いたい。

 俺は幸いにも影響力のある人間だ。ずっと頑張ってきたんだ。一つくらいわがままを言ってくれ」

「何を仰っているのですか…?」


 見た事のない、どこか怯えた様な表情をするブレーデンに、ジョシュアは優しく言った。


「愛する人がいるんだろう?」

「……っ」


 返事はない。少し間を空けて、ジョシュアは続ける。


「ハノーヴァー家から出ていけと言うのなら、そうすればいい。俺が絶対にお前を守ってやる。

 アダラント卿と対峙するのが怖いのなら、俺が説得する。お前は何もしなくていい」


 ブレーデンは何か言いたげに口を開いたが、結局閉じた。その表情を見て、ジョシュアは安心した様に微笑んだ。


「これは答えとして受け取るぞ。お前が言葉を失うなんて、見た事がない」


 それでも何も言わないブレーデンにジョシュアは肩をたたく。すると、ブレーデンがようやく口を開いた。


「…殿下」

「何だ」

「私は…ダリア・バッケンを愛しています」


 ジョシュアは目を見開いた後に、優しく細める。


「ですが殿下に仕えていきたいのです。どちらかを手放す事なんて出来ません」

「ああ、俺もお前がどちらかしか選べないなんて、おかしいと思う」


 ブレーデンはジョシュアを見つめて言った。


「父を…説得して下さいませんか」


 初めて聞いたブレーデンの頼みに、ジョシュアは喜んで答えた。


「勿論だ」


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