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船は無事にリーズリー国の港に到着した。
港には王女が凱旋してくると聞きつけた、多くのリーズリー国の民達が待っている。
二人が船から降りると、その民達の大きな拍手が迎えた。楽隊まで準備されており、リーズリー国歌を美しく奏でている。
二人はなるべくゆっくり歩を進めながら多くの声援に手を振って答え、港近くに停まっていた馬車に乗り込む。
ダリアも何台か用意されていた馬車にメイドと共に乗り込み、一行は城へ向けて出発した。
馬車はやがて森の中に入っていく。
王都とつながっているノルヴェイン国の城と違い、リーズリー国の城は深い森に囲まれた山の上に、ただ一つ佇んでいる。
白い石灰岩の壁に、青い屋根の尖塔が映える美しい城だ。
ダリアはリーズリー国に訪れるたびに、あのお城の中は一体どうなっているのだろう、と思っていた。
いよいよその長年の夢が叶う。城が近付くにつれ、ダリアの胸は期待に弾んでいった。
『お帰りなさいませ』
城の使用人たちが二人を迎えた。ジョシュアが一歩前へ出て、口を開く。
『暖かな歓迎、感謝する。私も妻の故郷に来られて嬉しく思う』
すっかり流暢になったリーズリー語に、ダリアは思わず胸を張った。使用人たちは驚いたように目を見開く者、嬉しそうに微笑む者と反応は様々だ。
『しばらく世話になる。よろしく頼む』
ジョシュアがそう言い終えると、ここでもたくさんの拍手が巻き起こった。
そのまま二人は国王が待つ玉座の間へ向かうことになり、ダリアは先に使わせてもらう部屋へ案内された。
その道中、ダリアは何度も目を奪われた。
外観と同じく白を基調とした城内には、青や金を使った細やかな幾何学模様の壁紙が所々に施されている。まるで美しいタイル細工のようだ。
そして天井は、屋根の尖塔を思わせる深い青色で全て彩られていた。
ダリアが想像していた以上に内観もまた美しく、心を躍らせながら案内された部屋に入る。
「…素敵」
思わず声に出ていた。部屋も青と金をテーマに装飾され、調度品もそれらに合わせた物が置かれている。
窓から見える景色は深い緑の森が広がり、遠くには青い海まで見えた。
ダリアはここで三泊も過ごせる事が嬉しくて堪らなくなった。
すると後ろに控えていたメイドが「ダリア様」と声をかけた。
「荷解きを致します。触れてはいけないものなどありましたら、教えてください」
「いえ、特にないわ。よろしく」
メイドは一礼をすると、部屋のクローゼットや鏡台にダリアの荷物を入れていく。初めて会ったが、さすがブレーデンが選出しただけあって手際が良かった。
その後、エマリエルの代理だというメイドがやってきて、少しだけ王宮を案内してくれた。
船の中でエマリエルが絶対に案内したいと言っていた所意外を回る。特に興奮したのはタイル貼りの大浴場だ。ダリアは終始目を輝かせていた。
夕飯は部屋でとるか、馬車を出すので街の方に行っても構わないと言われたが、移動の疲れもあってダリアは部屋で食べる事を選んだ。
その後初めての大浴場を心ゆくまで堪能し、ダリアは深い眠りについた。
翌朝、朝食を食べ終えた頃、エマリエルがダリアの部屋を訪れた。
「ごめんなさいね、折角招待したのに一人で過ごさせてばかりで」
「そんな…!お忙しいので当たり前ですし、私は申し訳ないくらい満喫しております」
その後ダリアが興奮気味に、夕飯に出たデザートと大浴場について話すと、エマリエルは嬉しそうに笑った。
「気に入ってくれた様で良かったわ。予定通り、明日の午前中に私が王宮内を案内するわね」
「はい、楽しみにしております」
「あ、そうだ」
エマリエルが少しダリアとの距離を詰めて、こそりと言った。
「あとで贈り物があるから、楽しみにしていてね」
「贈り物…ですか?ですが先ほどから申しております様に、とても満喫させて頂いていて」
「もう準備しちゃったから」
まるで子どものようにそう言って押し切ると、エマリエルは部屋から出て行った。どうやらダリアは受け取るしかないらしい。
(贈り物…何かしら)
少し困惑しながらも、やはり期待に胸を膨らませた。
「少し早いですが、今夜のパーティーに向けてもうご準備を始められた方がよろしいかと」
「そうね」
少し早めの昼食をとり休んだ後、メイドに提案されてダリアは了承した。パーティーの始まりは夕方からなので、始めておいて損はないだろう。
ダリアは部屋についている浴場で湯浴みを済ませて、鏡台の前に腰を下ろす。
どういう風に仕上げるかメイドと考えていると、ノック音が響いた。ダリアは首を傾げて返事をする。
『…はい』
『エマリエル王女より賜りまして、今夜のパーティーの準備をお手伝いしに参りました』
そんな事を聞いていなかったダリアは目を丸くする。
入ってもらう様伝え、メイドが扉を開くと、ぞろぞろとリーズリー国の王宮メイド達が入室した。
その内の一人が手に持っている物を見て、ダリアはさらに驚いた。
『…ちょっと待って、そのドレスって』
『こちらもエマリエル王女から賜っております』
ダリアはハッとした。これがエマリエルからの“贈り物”のようだ。
と同時に既視感も覚える。ジョシュアとエマリエルの顔合わせの時にも、ジョシュアからこの様な施しを受けたのを思い出した。
(夫婦揃って、どうして私を着飾りたいのかしら…)
ダリアは不思議に思ったが、一般的にこの様なもてなしを受けるのは女性にとって嬉しいものなのだ。
だから二人はダリアに喜んでもらおうと用意しているのだが、ダリアはどうしても照れ臭さと申し訳なさを感じてしまう。
その時、前回たくさんの人に褒めてもらえたのをダリアは思い出した。
(…また、褒めてくれるかな)
“綺麗だ”と言ってくれた時のブレーデンの表情が頭に浮かぶ。ダリアはおずおずと『…よろしくお願いします』と言った。
エマリエルが用意してくれたドレスは、驚くほどダリアの好みをよく理解してくれているもので、すぐに気に入った。
(何よりこのブローチによく似合いそうだわ)
今回こそはと思い、ダリアはブレーデンからもらったブローチを持ってきていた。
しかも持参してきたものより、今のドレスの方が似合いそうだ。
『そちらをお付けしますか?』
ダリアの髪を結い終えたメイドが声をかけた。
『お願いしてもいい?』
『勿論です。お預かりします』
メイドはブローチを手に取ると、鏡にうつるダリアを見つめて場所を決めた。
『こちらでよろしいでしょうか?』
『ええ、よろしく』
『この様な細工は初めてみました。素敵ですね』
『七宝焼きというそうよ』
そこから少しメイドと話に花を咲かせ、会場が開く時間まで待った。




