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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第六章 ただの子爵令嬢ですが、妃殿下の凱旋に帯同する事になりました

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「ダリア!久しぶり」

「お久しゅうございます、妃殿下」


 エマリエルに初めて会った時の張り詰めた雰囲気はもうない。

 その穏やかな表情を見て、ダリアは嬉しくなる。


「披露宴で会えると思っていたのに、あなたがどこにいるのかすら分からなくて残念だったわ」

「招待客が多かったですから。でもしっかりお二人の姿を目に焼き付けましたよ。思わず泣いちゃいました」

「もう…ダリア。本当にありがとう。あなたのおかげよ」


 エマリエルは嬉しそうに微笑んで、ダリアを抱きしめた。ダリアも烏滸がましく思いながらも、そっと腕を回す。

 体を離すと、エマリエルは続けた。


「婚姻後は忙しかったからなかなか時間がとれなくて…実は無理を言って、この時間を設けてもらったの。だからあまりゆっくり出来ずごめんなさいね」

「いえ、それでもこうしてお誘い頂けるなんて光栄です」


 ダリアの心が暖かくなる。エマリエルは無邪気にダリアの腕を取ると、「さあ、座って」と案内してくれた。


 席にかけ、ダリアがいつものように土産を出す。今回もエマリエルは大喜びだった。


 二人は会話を楽しみながらお茶をする。すると突然、エマリエルが畏まった様に背筋を伸ばした。


「…どうされました?」

「あのね、どうしてもあなたに直接聞きたくて、今日は来てもらったの」


 ダリアの胸がざわつく。一体何だろうと思っていたら、エマリエルが意を決した様に言った。


「今度、リーズリー国にジョシュアと凱旋するのだけど、あなたも帯同してもらえないかしら?」

「わ、私ですか?」


 ダリアは驚く。エマリエルは頷いて続けた。


「あなたに紹介したいものがたくさんあるの。こうしてジョシュアとの仲を深めれたのは、あなたのおかげだから、その礼をしたくて…どうかしら?」


 断る理由などない。ダリアは笑顔で答えた。


「ぜひ行きたいです」

「良かった…!」


 妃からの誘いを断る者など、そうはいないだろう。

 けれどエマリエルは、本気で断られる可能性を感じていたらしい。その事に、ダリアは自然と表情を綻ばせた。


 出発の時期も食事会より前だった。講師の依頼は一件入っていたが、この事情を話せば日程をずらしてもらうことに問題はないだろう。


 ダリアは誘ってもらった嬉しさも込めて、エマリエルへ礼を述べた。


 そしてあっという間に茶会の時間は終了し、エマリエルに別れを告げた。


 部屋を出てしばらく歩いたところで、ダリアはふと足を止めた。

 そして踵を返し、帰路とは反対の方向へ歩き出す。


 向かったのは、茶会の後にいつもブレーデンと落ち合っていた部屋だった。


 ジョシュアとエマリエルの仲が深まった今、二人がここに集まる理由はない。

 それでも、もしかしたらーーそんな淡い期待を捨てきれず、扉をそっと開ける。


 案の定、部屋には誰の姿もなかった。


「…当たり前よね」


 自嘲気味に呟きながらも、そのまま部屋へ入る。

 ダリアは待ってみる事にした。


 ブレーデンと顔を合わせたのは、ジョシュアとエマリエルが街へ出かけた日が最後だった。

 自分の恋心を自覚してからというもの、ブレーデンの姿を思い浮かべるたびに会いたくなる。恋しくなる。


 ぼんやりと窓の外を眺めながら、ダリアはふと頬を緩めた。


(…リーズリー国、楽しみだな)


 エマリエルたちに帯同すれば、ブレーデンと過ごせる時間がきっとある。


 感謝の気持ちから誘ってくれたエマリエルに対し、不純な期待を持っている事に少しだけ後ろめたかった。

 それでも、この機会を嬉しいと思わずにはいられない。


(…そうよ。きっと帯同中に会えるんだから、今日はもう帰ろう)


 そう気持ちを切り替え、踵を返した。

 その時だった。


 廊下から足音が近づいてくる。やがて部屋の前で止まり、扉がゆっくりと開いた。


「……!」


 入ってきた人物は、部屋にダリアがいることに目を見開く。ダリアもまた、息を呑んだ。


 二人の声が、ほとんど同時に重なる。


「どうしてここにいるんですか?」

「なぜここにいる?」


 扉の向こうに立っていたのは、ブレーデンだった。


 随分と久しぶりに間近でブレーデンを見て、ダリアは咄嗟に目を逸らす。途端に心臓が鳴り出した。


 顔は赤くなっていないだろうか、にやけてしまってないだろうかと、頭を巡らせる。


 ブレーデンは気まずげに頭を掻いてから、ゆっくりと入室した。


「…驚いた。まさか君が来ているとは」


 声も久しぶりに聞いた。この抑揚のない低い声が、ダリアの心臓を更に震わせる。


「ここに集まるのが習慣で…つい来てしまいました」


 ややあった後に、ブレーデンも「…私もだ」と言った。


 ダリアは本当なのだろうか、と思った。

 なぜならダリアは習慣などではなく、期待を寄せてここに来たからだ。本人に言えるわけがないので、適当に嘘をついただけ。


 その真意を問うわけにもいかず固まっていると、ブレーデンはいつもの場所に腰掛けた。ダリアもそうする。


「お久しぶりですね」

「ああ。元気そうで何よりだ」


(前までどう話していたんだっけ…)


 改めて自分の不器用さを実感する。ダリアはブレーデンから見えない位置でスカートを握り、何とか平常心を保ちながら会話を試みた。


「皆さん相変わらずの様で、安心いたしました」

「久しぶりといえど、たった何週間かだろう」

「毎日の様にお会いしていたので」

「そうだな」

「そういえば、妃殿下からリーズリー国に帯同して欲しいとお誘いを受けました」

「ああ、私が提案したからな」


 ダリアの動きが止まる。


「…ハノーヴァー卿がですか?」


 そして思わず聞き返していた。ブレーデンは不思議そうにこちらを見て言った。


「そうだが?」


 まるで、それが特別なことではないようにブレーデンは答えた。その反応に、ダリアの方が戸惑う。

 思わず問うていた。


「なぜ提案を?」

「君に随分と会えていないと思ったからな」

「…それはええと…妃殿下が言われたのではなく、あなたがそう思ったからですか?」

「そうだ」


(…この人、自分で何を言ってるのか分かってるのかしら?)


 この部屋で再会した時から、薄々気づいてはいた。


 ブレーデンは「まさか君が来ているとは」と確かに言った。

 それはダリアが来ないと分かっているのに、この部屋に足を運んだということだ。


 その上、ダリアに会えていないからと、エマリエルに提案までしていたという。


 そこまで揃えば、もう考えるまでもない。


(この人…私の事が好きなのね)


 ダリアは、ベアトリスとどうやってブレーデンの真意を知るか、あれこれ考えていた時の会話を思い出す。



 ーー結構、手強そうではあるわよね。


 ーーそうなの。事実しか言ってこないし。


 ーーちょっと触ってみたら?


 ーーそ、そんなの無理よ!


 ーーそれくらいしないとだめよ。相手は堅物さんよ?



「…ふふっ」


 ダリアは思わず吹き出す。


「どうした」

「いえ…ちょっと思い出して」

「…突然だな」


(ベアトリス、そんな事をする必要もなかったわ。この人…分かりやすいにも程がある)


 もしかしたらダリアと同じ様に、ブレーデンもこういった事は不器用なのかもしれない。しかも全部無自覚にやっている辺り、ダリアよりも質が悪い。


 何はともあれブレーデンの気持ちが分かった今、ダリアがしなければならない事は決まっている。


 首を傾げているブレーデンに、ダリアは言った。


「一つお願いがあるのですが」

「何だ」


 それでもやっぱり勇気がいる。ダリアは一拍置いた後、思い切って言った。


「リーズリー国滞在中に、どこか出かけませんか?

 ふ…二人で」


 少し噛んでしまったが、ダリアは何とか言い切った。

 さすがに顔を見れなくて、俯く。


「………」


(…ちょっと待って、何も言ってこないのだけど)


 沈黙に耐えかねて恐る恐る顔を上げると、固まったブレーデンがそこにいた。


「あの、ハノーヴァー卿?」

「…あ、すまない」


 我に返ったようにそう言うと、なぜかブレーデンは立ち上がり、ダリアに背を向けた。


「…あ、あの」


 ダリアからしたら一刻も早く答えが欲しくて声をかけたのに、ブレーデンは動かない。


「難しい、ですか?」

「あ、いや…そうではない。予定を思い返していた」


 ブレーデンはそこでようやく振り向いてダリアと対峙したが、目線はなぜか二人の間にあるテーブルに集中して話を続けた。


「出発までに調整しておく。その…行こう。ぜひ」

「はい。よろしくお願いします」

「では失礼する」


 そしてそのまま目線は逸らされたまま、ブレーデンはそそくさと部屋を出て行ってしまう。


 ダリアは思わず笑ってしまった。





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