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ジョシュアとエマリエルの結婚式当日。
結婚式は王族と一部の貴族、披露宴からはほとんどの貴族が出席する。バッケン家は披露宴からだ。
ダリアは一人悩んでいた。ドレスを身にまとい、化粧も髪も整えてもらった。
あとは――。
(このブローチをつけるか、つけないか……)
ブレーデンへの想いに気付く前は、せっかく頂いたのだし、と何も考えず身につけるつもりだった。
だが今は違う。
もしこれを身につけている姿をブレーデンに見られたら、自分の想いが見透かされてしまうのではと考えてしまう。
「でも…折角だから、見てほしいし」
ダリアはそう呟きながら、ブローチを胸元へ当てては外し、また当ててを繰り返す。
ドレスも、このブローチが映えるように選んだものだ。違和感はない。
それに、今までのブレーデンを見ている限り、きっと「ああ、付けてきたのか」と、それくらいにしか思わないだろう。
「…よし」
ダリアは意を決して、ブローチを胸元につけた。
バッケン家は外に出た。街道には花が飾られ、たくさんの人が往来している。
所々からリーズリー語も聞こえて、ダリアは改めてノルヴェイン国の歴史が変わる瞬間に関われた事に喜びを感じた。
会場へ向かうと、今までの式典の中で見たことのないほどの人の量に圧倒される。双方の貴族が招待されているのだから当たり前だ。
入り口で二組の老夫婦が立っているのが見えた。それに気付いたダリアは思わず声を出した。
『お祖父様!お祖母様!』
ダリアの声で、二人はにこりと微笑んだ。
『まあダリア!今日は一段と素敵ねえ』
リリアンヌと同じ様な表情と話し方にダリアは心が和んだ。二人はリリアンヌの両親だ。
『船旅ご苦労様でした』
そう言いながら、グラムがリリアンヌの父親に手を差し出し、二人は握手をする。
『久しぶりにこっちに来たが、大分変わった様だね。船旅も昔に比べて随分と快適だった』
『今回のこの婚姻で、何艘か新調したと伺っております』
『ああ。これからもっと発展していくだろう。まさかお前たちが結婚した時は、この様な未来が来るとは思わなかったよ』
横で聞いていたリリアンヌが嬉しそうに言った。
『本当にね。おかげでグラムもワーノルドも忙しくさせてもらっているわ』
グラムは貿易商を営んでいる。航路の整備や船の増備も相まって、リーズリー国との取引は急速に拡大し、今では全体の八割以上を占めていた。
そのため、グラムとワーノルドは連日仕事に追われている。
『昨日も遅くまで膨大な書類整理に追われて…今が頑張り時と思って父上と頑張ります』
そう言ってワーノルドは苦笑しつつも、声はやる気に溢れていた。
招待状を手に会場入りしたが、中は更に人でいっぱいだった。
「…お二人の姿、見れるかしら」
「行ける所まで行ってみよう」
ワーノルドが人混みをかき分けてくれ、ダリアはその後ろについて行く。
グラムとリリアンヌはリリアンヌの両親が心配だからと、無理をせず後ろで待機する事にした。
周りに謝罪しながら前へと進んでいると、招待客が横にいるダリアに気付かず不意に動いてぶつかってしまった。
しかもそのタイミングが悪く、ダリアは足を踏み外してしまう。
「あっ…!」
倒れる。そう思った瞬間、誰かの腕が咄嗟にダリアの体を支えた。
「大丈夫ですか?」
その声の主は男性だった。
「す、すみません」
ダリアが謝ると、その男性は「いえ」と言って支えていた腕を外した。
すると「申し訳ございません…!」とぶつかった相手が慌てた様に頭を下げた。
「こちらこそ周りを見ていなかったので…」
互いに頭を下げ合い、その相手は人混みの中へ消えていった。
「すまない、気付かなくて」
先に行っていたワーノルドが引き返して来てくれた。ワーノルドはダリアを助けてくれた男性に頭を下げる。
「ありがとうございます。妹を助けて頂いて」
「いえ。お怪我はありませんでしたか?」
「はい。本当にありがとうございました」
ダリアが感謝を述べると男性は軽く会釈し、人混みの中へ姿を消した。
「これ以上は危ないな」
「そうね」
二人はその場で披露宴が始まるのを待つ事にした。
それから間もなく、会場中にファンファーレが鳴り響いた。
儀礼官の掛け声とともに、来賓、そして両国の王族たちが入場する。そして最後に、今日の主役である二人が姿を現した。
割れんばかりの拍手が、二人を迎える。
ジョシュアは堂々と、エマリエルは優雅に歩みを進めている。まるで一枚の絵の様だった。
その時、エマリエルが裾を踏みかけたのか、体勢を崩した。会場がどよめく。
しかしジョシュアがすかさずエマリエルを支え、おかげで転倒は免れた。
エマリエルは驚いたようにジョシュアを見上げ、二人は目が合う。
そして溢れる様に微笑みあった。
(…ああ、良かった)
ダリアは二人の仲睦まじい姿を見て、自然と涙が溢れていた。
深く関わっていくうちに、二人の優しさや誠実さを知り、そして王族としての苦悩も知った。
これは自分たちの意思で選んだ結婚ではない。
それでも二人は互いを知り、歩み寄り、そして今日を迎えた。こうして育まれた絆もまた、一つの縁なのだとダリアは思った。
この場でもジョシュアはリーズリー語で祝辞を述べた。
それだけでなく、エマリエルも流暢なノルヴェイン語を披露し、会場は驚きと感動に包まれた。
この二人のスピーチにダリアは関わっていない。互いが先生となって教え合ったのだ。
最後に二人はノルヴェイン国、リーズリー国の発展と繁栄を望む挨拶で締めくくり、再び大きな拍手が響いた。
ダリアの目に再び涙が滲む。
「…お幸せに」
それはノルヴェイン国の民としてではなく、二人の友人として贈る、心からの祝福だった。




