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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第五章 ただの子爵令嬢ですが、王太子夫妻の結婚式に参列します

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(…私に、縁談…?)


 ダリアは差し出された縁談の申し込みが書かれた書状を手に取り、目を通す。

 その申し出先を見て、更に驚いた。


「ローディン伯爵家…!?」

 なぜこの様な格上の家から、私に縁談の話が…?」

「この家だけではない」


 グラムは静かに告げる。


「他にもいくつか申し出があった。その中でも、家柄、人柄ともに申し分ないローディン伯爵家を私が選んだ」

「……っ!」


 ダリアは驚きのあまり、口を開いたままグラムを見つめることしかできない。


「予想どおり、我々バッケン家が此度のリーズリー国との婚姻に深く関わったことは、貴族たちの間で広く知られているようだ」


 ダリアは息をのむ。


「とりわけお前は、殿下のスピーチを成功へ導いた立役者だ。

 さらにエマリエル殿下の茶会にも度々招かれ、ジョシュア殿下、エマリエル殿下の双方から信頼を得ている事は間違いない」


 グラムは一度言葉を切り、目を細めた。


「今のバッケン家は、王家から多大な信頼を得ている一族と見られている。

 将来を見据え、今のうちに縁を結んでおきたいと考える家が現れても、不思議ではない」


 じわり、とダリアの手のひらに汗が滲む。

 書状を握る指先に力が入り、紙に小さな皺が寄った。


「なお、ローディン伯爵は、お前自身を見込んでの申し出だそうだ。もちろん、王家との縁が後押しになったことは否定できないだろうが…。

 お前に妙な噂が立たずに済んで安心していたんだがな。まさかこの様な形で注目を浴びる事になるとは」


 そう言ってグラムは小さく息を吐いた。


 講師の役目を終えた後は、静かな日常へ戻れるものとグラムは思っていた。


 妙な噂が立たぬよう気を配り、これ以上王家との縁を深めないよう本人にも伝え、案じてきたが、もはやそれだけで済む段階ではなかった。


 それほどまでに、ダリアが残した功績は大きかった。


 ダリアが貴族社会の渦中の人間となるのは、避けようのない必然だったのだ。


「………」


 衝撃の連続でダリアは茫然としていた。グラムは優しく言う。


「今すぐに返事をしなければならないという事はない。相手も人生に関わる決断だという事を、理解してくれていると思う」

「これは…必ず受けるものなのですか?」


 グラムは押し黙った。

 ダリアはその事に気づいて、胸がざわつく。


 ややあった後に、グラムはゆっくりと言った。


「…いや。必ずではない。

 だが、伯爵家からの正式な申し出を無下に断れば、相手の面目を潰すことになる。断るにしても、それ相応の理由が必要だ。

 恐らく四日後の殿下の披露宴で顔を合わす事になるだろう。いいかい?」

「…はい」


 返事をした後、ダリアは目を伏せた。


「お父様は…この縁談をどう思われていますか?」


 少し考えた後に、グラムは言った。


「とても光栄な話だと思っている。

 ローディン伯爵とは多少面識があってな。見識のある方だ。お前を評価しての申し出にも、納得がいく。

 だから家柄の格差はあれど、お前の意思を無碍にする事

 なく、尊重してくださるだろう」


(お父様は…このお話に前向きなのね)


 ダリアの胸の奥が、ずきりと痛む。


 この様な良縁、断る理由などないだろう。

 家柄も申し分なく、グラムも安心できる相手なのだから。


 それなのに、なぜ胸が痛むのか。


 自分がどんな表情を浮かべているのか分からず、俯いて顔を隠しながら「……お父様にお任せします」と言ってダリアは部屋を出た。


 自室に戻り、背中でゆっくりと扉を閉めた。パタン、という音だけが部屋に響く。


 ダリアはそのまま扉にもたれ、ぼうっと足元を見つめる。


 どれほどそうしていただろうか。やがて重い足取りで鏡台へ向かい、その前で立ち止まった。


 手を伸ばし、鏡台に置いてあるアクセサリーボックスの蓋を開ける。そっと取り出したのは、あの七宝焼きのブローチだった。

 ダリアは指先で、そっとブローチをなぞる。


 縁談の話がきているーーそう言われた時に浮かんだのは、ブレーデンの顔だった


 どうしてそうなったのか、なんて分からない程、ダリアも幼い訳ではない。


(そうか…私は)


 現実主義で、ロマンの欠片もない。失礼なことも平気で言う。

 振り回されたことだって、一度や二度じゃない。


(…でも、いざという時は誰よりも頼りになって、裏表がないからこそ、嬉しい言葉は真っ直ぐ届く。

 大切な人の幸せを心から願えて、完璧な人間かと思えば、意外と抜けている所もあって――)


 どんどん溢れてくる言葉達に、ダリアは自嘲した。


(前は嫌な所の方が、たくさん言えたのに…)


  ダリアは鏡台に腕を重ね、その上へ頬を預けて横を向いた。

 視線の先には、青く澄んだ空が見える。


(私はあの人が…好きなのね)


 ダリアは静かに、自分の想いを受け入れた。




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