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二人を部屋まで送り届け、ブレーデン達はほっと息をついていた。
ブレーデンは協力してくれた、ダリアと騎士達の方を向いて言った。
「ご苦労だった。急な話しだったにも関わらず、皆の協力のおかげで無事遂行出来た。感謝する」
「お二人ともとても楽しそうでしたね!」
エドガーが嬉しそうに言う。そこにいる全員が同意し、和やかな空気が流れた。
「ああ。腕を組んで高台から降りてこられた時は、大変微笑ましかった」
ブレーデンが珍しく柔らかく笑う。騎士達は一斉に目を丸くした。
「…明日雪が降るんじゃないか?」
「…しっ!」
ジェドイックが慌てて肘でエドガーを小突く。ブレーデンは二人を軽く睨みつつ、続けた。
「非番の者はここで解散。それ以外の者は各々の配置に戻るように」
「はっ」
騎士達が散っていく中、エドガーだけがダリアへ顔を向けた。
「ダリア殿、今日はようやくお話できて嬉しかったです。また今度ぜひーー」
「エドガー」
名前を呼ばれただけで、エドガーの肩がびくりと跳ねる。
「今日、当直だったな?」
「……はい」
エドガーは力なく肩を落とした。
「ダリア殿…またいつか」
未練たっぷりにそう言い残すと、重い足取りで持ち場へ向かっていった。
「ダリア嬢、行こう」
「はい」
行きはダリアの屋敷の護衛が送ってくれたが、帰りはブレーデンが送る事になっていた。
先を歩くブレーデンをダリアが追いかけようとすると、ジェドイックと目が合った。すかさずジェドイックは 両手を胸の前で軽く握りしめ、笑みを浮かべながら小声で言った。
「…応援してます!」
「…やめて下さい!」
ダリアも小声でジェドイックを嗜める。
「どうした?」
「い、いえ!何でもありません」
ダリアは誤魔化しながら、ブレーデンの横に並んだ。
外に出ると夜風が心地よく吹き抜ける。
ダリアの心は晴々としていた。
「無事に終わりましたね」
「ああ」
「お二人なら、もう大丈夫そうですね」
「そうだな」
「これで私のお役目も、終わりですね」
その言葉にブレーデンの返事はなかった。その代わり、ブレーデンは小さく頷いた。
ダリアも自分で口にしておきながら、胸の奥が少し痛む。
エマリエルとはこれからも会えるだろう。
それでも、こうしてジョシュアとブレーデンと行動を共にすることは、今日で終わる。
「寂しいか?」
思いがけない問いに、ダリアは少し笑った。
「少しだけ…いや、寂しいです。毎日楽しかったので」
そう答えると、ブレーデンは黙って続きを待った。
「でもお二人があんな風に笑い合えるようになって、本当に良かったと思います。ですから、これで十分です」
少し間を置いてから、ダリアは付け加えた。
「それに、全く縁がなくなるわけではありません。エマリエル殿下とはこれからもお会いしますし」
「……そうだな」
短い返事だけだった。
二人の間に静かな沈黙が流れる。やはりそこには寂しさがあった。
ダリアはその沈黙に耐えきれず、口を開く。
「先ほどのハノーヴァー卿の表情、驚きました」
「何がだ?」
「殿下達が腕を組んで歩いていた事を、心の底から喜んでらっしゃるのが伝わって」
ブレーデンは少し驚いた様に言った。
「そんな顔をしていたのか」
「はい」
ダリアが返事をすると、ブレーデンは今度は微笑みながら言った。
「あの方が幸せそうに笑っておられる姿を見るのは、俺も嬉しいからな」
ブレーデンの言葉にダリアの心が暖まる。そして思わず口にしていた。
「ハノーヴァー卿は、本当に殿下を敬愛なさっているのですね」
ブレーデンは返事をしなかった。
その沈黙に、ダリアは不思議そうに顔を覗き込む。
「…ハノーヴァー卿?」
黙ったままのブレーデンに、ダリアは首を傾げる。
「どうされたのです?」
「すまない…考え事をしていた」
(このタイミングで…?)
すると、ブレーデンが立ち止まった。自然とダリアも足を止める。
そしてブレーデンは何かを考えるように視線を落とし、やがてダリアへ向けた。突然目が合い、ダリアの心臓が跳ねる。
ブレーデンはゆっくりと口を開いた。
「…あの方は、出来損ないだった俺を認め、役割を与えてくださった。今の俺があるのは、殿下のおかげだと思っている」
首を傾げるダリアを見つめ、ブレーデンは続ける。
「殿下を最優先に考えるのが当然だった…。
だが最近は…それ以外を優先して動いている自分がいる気がする」
ブレーデンは、呟く様に言った。
「…君なのかもしれない」
その声は、確かにダリアの耳に届いた。
意味を理解した時、ダリアの心臓が大きく跳ねる。
何と言えばいいのかわからず、頭が真っ白になった。その代わりに、ダリアの頬が熱くなっていく。
そんなダリアの表情を見て、ブレーデンはハッとした。
(…俺は、今何を)
ようやくそこで自分が何を言ったのか気付いた。ブレーデンは額に手を当て言った。
「…いや、忘れてくれ」
ダリアは目を見開く。
「そ、そんなの…」
出来るわけがない。そう言おうとしたが、ブレーデンが珍しく動揺しているのが分かってしまい、ダリアは何も言えなかった。
そのまま二人は無言で歩き出す。
今までの沈黙とは違う。お互いを意識して話せない沈黙だった。
やがて屋敷に到着した。
ダリアは何かを言わなきゃと、ブレーデンの方へ向く。でも言葉が出ず、「今日はありがとうございました」と言った。
「ああ。こちらこそ、今日はありがとう」
ブレーデンはそれだけを言うと、踵を返して帰って行く。
(これで…ハノーヴァー卿とこうして過ごすことは、もうない)
ダリアの胸がしめつけられていく。
(本当に…これが最後でいいの?)
そう思った時には「あの!」と声を出していた。
「また…会えますか?その、二人だけで…」
きっと声は震えていた。耳まで赤く染まっていただろう。
それでもこれだけは伝えなくちゃと、ダリアは勇気を振り絞った。
ブレーデンは目を見開いた後、柔らかく微笑んで言った。
「勿論だ」




