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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第四章 ただの子爵令嬢ですが、王子と他国の姫の初デートを見守ります

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3

 


「すごいな、こんな場所があったなんて」

「あなたも初めてなの?」

「ああ。城から出ることなんて、公務以外殆どないからな」


 二人は例の展望台に来ていた。ダリアを含む人間は、二人を囲う様位置についていて、距離を置いて警備している。


 エマリエルはジョシュアの言葉に共感し、ぽつりと話す。


「私もよ。

 こんな立場でいる以上、自分の意思だけで外へ出ることなんて出来ない。

 いつも誰かがそばにいて、どこへ行くかも、何をするかも決められる」


(…誰と結婚するかさえ)


 かろうじて心の中で呟いたエマリエルだったが、それでも言葉が喉の奥につかえる。

 何だかジョシュアには言える気がする、そう思った時には、口に出ていた。


「あなた、好きな人がいたでしょう」

「えっ?」

「薄茶色の髪をしたメイドでしょう」

「なっ……!?」


 あまりの動揺ぶりに、エマリエルは思わず吹き出した。


「あなた、分かりやすすぎるわ。仮にも次期国王でしょうに」

「だ、だって……」

「どうして彼女はメイドをやめちゃったの?もしかして、どこかに隠しているとか?」

「違う!」


 ジョシュアは勢いよく否定する。


「彼女は結婚したんだ。…その時に、俺は振られて」

「“ふられて”って?」

「その…好きと言ったけれど、さようならと言われて…」


 エマリエルはにやりと笑った。


『成程。告白して振られたのね』

「こ、『告白』?」

「彼女に好きと伝えたのね?」

「そう!…いや!……ああ、もう!」


 顔を真っ赤にして頭を抱えるジョシュアを見て、エマリエルはとうとう堪えきれず、声を上げて笑った。


「初めて見た!あなたのそんな顔!ふふふ…」

「まさかこんな事を言われるなんて…ああ…」


 そう言って項垂れる様に、ジョシュアは手すりに腕を置き顔を埋めた。その間もエマリエルはくすくすと笑う。

 ジョシュアはそんなエマリエルをちらりと見ながら呟いた。


「…不快に、思っただろうか」


 まるで罪人の様な表情である。

 エマリエルは変わらず笑いながら、ジョシュアと同じ様に手すりに腕を置き、目の前に広がる景色を見ながらいった。


「いいえ?王族である前に一人の人間だもの。心を動かされてしまうのは、仕方のない事だわ」


 まさか全肯定されるとは思わなかったジョシュアは、思わず言葉に詰まる。

 やや沈黙があった後、ジョシュアは思い切って聞いた。


「なぜ知っていたんだ?俺は誰にも言っていないし、うまく隠せていたと思っていた」

「別に誰かに教えてもらったとかじゃないわ。見ただけで分かるもの」

「え?」

「私もそうだったから」


 ジョシュアは姿勢を正す。エマリエルは変わらず目線は景色に置いたまま、言った。


「私にもね、いたの。好きな人。

 その人も結婚したわ。あなたと違って、私は何も言えなかったけれど。

 あなたはちゃんと伝えたのね。すごいじゃない」


 今度はジョシュアがエマリエルに共感する番だった。

 この少ない言葉だけで、エマリエルのたくさんの心情や葛藤が分かる。分かってしまう。


「…そんなものじゃない。

 むしろ俺の身勝手な行動で、たくさんの人に迷惑をかけた。彼女にもね。

 自分の立場というものを再認識させられたよ」


 ジョシュアは再び手すりに腕を置き、エマリエルと一緒に景色を眺める。


 この時、二人は同じことを思っていた。

 本当に自分たちはよく似ていると。


(そういえば…)


 ジョシュアは、エマリエルにずっと聞こうと思っていた事を思い出した。


「君は覚えているのか分からないんだけど…」


 ジョシュアは懐かしそうに目を細めた。


「初めてリーズリー国との交流会が開かれた時のことだ。父上が演説をしている最中、後ろの小窓に一羽の鳥が止まった。

 七歳だった俺は演説なんて半分も聞いていなくて、その鳥ばかり見ていた。

 すると鳥がちょうど、父上の頭に乗ってる様に見える事に気付いてさ。しかも、その鳥が下の方をつつき始めたんだ。思わず吹き出した」


 ジョシュアはまるでその当時に戻ったかの様に楽しげに話す。鳥が国王の頭を突いている様に見えたあの光景は、今でも笑えるほどだ。


「その時、俺の他にも笑いを堪えている声が聞こえたんだ。

 それが君だった。自然と目が合って、お互い吹き出したんだけど…覚えてるかな」


 この奇妙な親近感は、今日初めて生まれたものではなかったのかもしれない。

 そう思って数少ない二人の思い出を、ジョシュアは問うてみた。


 言い終わったジョシュアがようやくエマリエルを見た時、心臓が跳ねた。

 エマリエルが驚いた様に目を開き、少し高揚した様な表情でジョシュアを見ていたのだ。


 その表情だけで答えは十分だった。


「覚えていたんだね。君との婚姻の話が出た時、まず一番にこの時のことを思い出したんだ。

 ああ、あの時一緒に笑った子かって」

「…不思議ね」


 先ほどのジョシュアを揶揄う様な声色ではなかった。エマリエルは照れ隠しをするように視線を逸らし、小さく笑う。


「私もね、思い出したの。あなたとの結婚が決まったと言われた時。

 絶対に笑ってはいけないあの空間で、一緒に笑い合ったあなたの顔を」


 二人はやや見つめあった後、ハッとした様に目を離す。

 火照った頬を誤魔化すように、手の甲を当ててジョシュアは言った。


「君が覚えてくれていて嬉しいよ。

 正直…嫌われていると思っていたから」

「え?」


 エマリエルの反応からして、そうではない事にジョシュアは気付く。エマリエルは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「そう…そんな風に受け取らせてしまっていたのね。

 この結婚は、政略的なものでしょう。私達はそれに従うしかない。

 あなたに好きな人がいるのは知っていたから、必要以上に関わらない様にしようって決めてたの。

 あなたも、その方がいいと思っているのだと…」


 エマリエルは手すりから手を離し、ゆっくりとジョシュアへ向き直った。


「あなたを嫌っていたというわけではないわ。むしろ、それがあなたに対する礼儀だと思っていたの。

 ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまったわ」

「いや、謝らないでほしい。

 俺の未熟さが、君にそんな気を遣わせてしまったんだ」

「いえ、謝らせて」


 エマリエルがジョシュアの言葉に被せる様に、そう言った。合わせて真剣な表情で見つめられて、ジョシュアは口を閉じる。

 エマリエルはそのまま続けた。


「あなたが最初、私たちの言葉で挨拶をしてくれた時、私は随分と素っ気ない態度を取ってしまったわ。

 あの時は無理をさせてしまったと、申し訳なく思っていたの」

「そんな風に思っていたのか」

「ええ…本当は嬉しかった。

 こうしてあなたと会話出来ている事も、あなたが努力してくれたからよ。だから私も応えようと思ったの」


 エマリエルの言葉に、ジョシュアはハッとした。


(ダリア嬢が教えてくれた、相手を知ること…それだけで、こんなにも世界は違って見えるのか)


 ジョシュアは改めて、ダリアに感謝したのだった。


「またどこかに出かけよう。君といれば出かける理由を一々考えたり、説明しなくていい」

「ふふ…そうね。色々な所へ行きましょう」

「まずはあの鳥を探しに行くか」

「それは名案だわ。ぜひそうしましょう」


 二人は顔を見合わせ、あの日と同じように小さく笑った。



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