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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第四章 ただの子爵令嬢ですが、王子と他国の姫の初デートを見守ります

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「それは本当か!」

「はい。無事に店主から承諾を頂きました」


 翌日、ブレーデンはジョシュアに報告していた。丁度エマリエルも横にいて、ジョシュアは嬉しそうにエマリエルの方を向いた。


「どうされたのですか?」

「君がこの間言っていた、コーヒーを出してくれる店の話だ。

 ブレーデンが行ける様に、手筈を整えてくれた」


 エマリエルは一瞬目を丸くした後、「本当ですか!?」と思わず大きな声を出した。


「行くって…いつですか?」

「明日の夜だ」

「明日!?」


 エマリエルがまた大きな声を出すので、ジョシュアは吹き出した。


「…あまりにも急なお話ですもの」

「はは…すまない。式が終わったらしばらく忙しくなるから、行くならその前にと思ったんだ。

 ただこの通り急な話だったから、きっと無理だろうと思って君には黙っていたのだけど、良かった」

「そう、ですか…」


 最初は突然の話に戸惑っていたエマリエルだったが、段々と自覚してきたのか、頬がみるみる緩んでいく。

 ジョシュアはそれを見て微笑んだ。


 その時、部屋のノック音が響く。ジョシュアが返事をしようとしたのを、ブレーデンは止めた。


「私が対応致します」

「ありがとう」


 ブレーデンは二人の楽しげな声を背に、部屋を出た。


「どうした?」

「結婚式の進行が少々変更になりまして、修正した進行表をお持ちしました」

「何が変わったんだ?」

「来賓の導線と祝辞の順番を少し調整しております。

 大きな変更ではございません」

「分かった。預かっておく」


 ブレーデンは修正されたという進行表を受け取る。念のため修正されていない箇所も含め、一から読み進んでいる内に、見慣れない言葉が目に入った。


「”指輪贈呈の儀”…?」


 それは、前回目を通した時にも気になったことをブレーデンは思い出す。ただその時は式全体の流れを把握する事を優先した為、あまり深く考えなかった。


(…そうだ)


 その時、ブレーデンの脳裏にリリアンヌによる文化講習がよみがえった。


 リーズリー国では、男性が女性にアクセサリーを贈ることは求愛を意味し、結婚式でもその想いを示す儀式が行われる。

 その際は指輪を贈るのが一般的だと聞いていた。これはノルヴェイン国にはない風習だった。


 ブレーデンの動きが止まる。


 脳裏に浮かんだのはリリアンヌの顔ではなく、七宝焼きのブローチを前に顔を真っ赤にしたダリアの姿だった。



 ――どなたか女性にプレゼントをするとか。


 ――……この流れを読んでくれ。君に買ってやると言っているんだ。


 ――え!?


 ――何をそんなに驚く事がある。


 ――だ、だって……! いえ、大丈夫です! 自分で買いますから!


 ――それとも私が贈ることに、何か問題でもあるのか?



「………っ」


 ブレーデンは進行表を持っていない方の手で、顔を覆う。そして、はーー、と長く息を吐いた。


「………やってしまった」


 耳まで赤くした男の呟きは、廊下に虚しく消えていった。


 当日の夜。ダリアは入城し、エマリエルの部屋を訪れた。


「ダリア!来てくれたのね」

「ハノーヴァー卿が声をかけて下さりまして」

「最近会えてなかったから、嬉しいわ」


 エマリエルの言葉にダリアは嬉しくなる。 


 エマリエルは簡素なドレスに、顔も隠れるフード付きのマントを着用していた。ブレーデンによるとあまり目立たない様に、警備も最低限で行くという。


「まさか本当に行けるとは思わなくて、いつか行けたらいいな、くらいの気持ちでお店の事を殿下にお話ししたの。

 そうしたらこんなに大事になってしまって…」

「いいのですよ。むしろこうしてお二人のお手伝いが出来るなんて、光栄です」


 するとエマリエルが申し訳なさそうに小声で言った。


「…実は、とっても楽しみなの。私的な用事で夜に出歩くなんて、初めて」


 そう言って笑うエマリエルに、ダリアは和みつつも、少し切なくなった。


(…これが、王族として生きるということなのね)


 ダリアは改めて、今日の成功を祈った。


 一度エマリエルと別れ、ダリアはブレーデンに指定された場所へと向かった。警備にあたる人物達と、そこで最終的な打ち合わせをする事になっている。


 その場所へと近づくと、数名の人影が見えた。どうやらブレーデンはまだ来ていない様だった。

 ダリアは緊張しながら「ご機嫌よう」と声をかけた。


「ダリア殿。ご機嫌よう」


 最初に声をかけてくれたのは、エマリエル付きの護衛騎士だった。いつも送り迎えをしてくれるので、顔見知りだ。


「え、ダリア殿ですか!?」


 その時、聞き覚えのない声で名前を呼ばれて、ダリアは体を固まらせた。


「ずっとお話ししてみたいと思っておりました!」


 そう言って一人の騎士が、ダリアの前に現れる。


(この人…確か殿下の護衛騎士の)


 ブレーデン同様、よくジョシュアの側に仕えている騎士のうちの一人だった。勿論、存在も顔も知っていたが、思い返せば確かに一度も会話をした記憶がない。


「ジョシュア殿下に仕えております、エドガー・フォーターと申します。以後お見知り置きを」


 そう言ってダリアの手を取り、エドガーが口を寄せようとした時だった。


「何をしている」


 低い声が飛ぶ。


 気付けばブレーデンが二人の間に立ち、エドガーの顔を片手で押さえていた。もう片方の手で、ダリアの手を自然に引き戻す。


「ばのーヴァーぎょう、おづがれざまでず」

「そのままで喋るな」


 ブレーデンは露骨に嫌そうな顔で手を離すと、エドガーの顔を抑えていた方の手をハンカチで拭った。


(びっくりした…少しだけ)


 エドガーの突然の口付け未遂もだが、ブレーデンに手を握られた事の方がダリアにとって驚きだった。


(…あのブローチのせいよ)


 他意はないと分かっている筈なのに、妙な意識をしてしまった自分を叱咤する。ダリアは誰も見ていない隙に、軽く自分の頬を叩いた。


 ブレーデンはハンカチをポケットにしまいながら呆れた様に言う。


「普通に名を名乗ればいいものを…だからお前と話させたくなかったんだ」

「別に普通ではないですか?」


 飄々としているエドガーに、ブレーデンが頭を抱えた時だった。


「お前と一緒にされたくないんだが」


 また新たな聞き覚えのない声が聞こえて見てみると、またもう一人男が現れた。


(この方も…殿下の護衛騎士の方だ)


 その人物は胸に手を当てて、ダリアに礼をした。


「ジェドイック・ラナイアと申します。私もジョシュア殿下に仕えております。よろしくお願いします」


 エドガーとは違う落ち着いた雰囲気の騎士だった。ダリアも頭を下げ、「こちらこそよろしくお願いします」と言った。


 お互いの挨拶を済ませた後は、スケジュール、道程、警備配置を確認し、すぐに解散となった。


 ダリアは先にジェドイックと共に店の方へ行き、店主への挨拶と、事前準備を行う。


「行って参ります」

「ああ、よろしく」


 ダリアも一緒にジェドイックとブレーデンに礼をする。顔を上げると、ブレーデンと目が合った。


 一瞬だけ、ブレーデンの表情が固まる。


 だが次の瞬間には、何事もなかったかのように視線を逸らした。


(…なに?)


 ダリアは何か違和感を感じたが、そこで問う訳にもいかず不思議に思いながら城を出た。



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