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ただの子爵令嬢ですが、なぜか王子の恋愛相談役になりました  作者: はくまいキャベツ
第三章 ただの子爵令嬢ですが、王子と他国の姫の仲介役をする事になりました

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5

 


「クリスティナ・シルタッドについて聞かれた?エマリエル殿下からか?」

「はい」


 ブレーデンが珍しく驚いた様子を見せる。


 エマリエルの秘密を知った時に話したあの部屋に二人は来ていた。茶会の後は、情報収集のためにここに必ず集まっているのだ。


 クリスティナ・シルタッドーー


 ダリアがここまで深くジョシュア達と関わるきっかけになった、ジョシュアの元恋慕の相手だ。


「ちなみに君は何と答えた?」

「講師になる前の事は分からないと」

「そうか…助かる」


 ブレーデンは腕を組み、顎へ手を添える。


「なぜクリスティナさんの事を聞かれたのでしょう?」

「やはり殿下が、彼女に好意を寄せていたと知っているからだろう。

 問題は、それをなぜエマリエル殿下がご存知なのかだ」

「…私は、決して口外なんて」

「分かっている。君はそのような事はしない」


 目を見てはっきりと言われ、この様な状況であるにも関わらず信頼されている事にダリアは嬉しくなった。

 ブレーデンは続ける。


「この事を知っている他の人間も、告げ口する様な人物ではない。私と同じ様に殿下に忠誠を誓っているからな。

 だからこそ殿下に協力し、事は起こってしまったのだから」

「では、エマリエル殿下自身がお気付きになったとしか」

「…私でも気付けなかった事を、年に数回会うかどうかの他国の姫が気付いたと?」

「人の思いの機微に敏感な方はいらっしゃいます。

 特に女性は、そういう変化に気付きやすいかもしれません」


 ダリアの指摘を聞いてブレーデンは一点を見つめしばらく考えていたが、「…考えても仕方がない」と言って組んでいた腕を解いた。


「とりあえず一つ分かったな。エマリエル殿下が距離を置いている理由は、クリスティナ・シルタッドが関わっている」

「はい」

「だからと言って我々から説明する訳にも、ましてや殿下から説明する訳にもいかないだろう」


 そこが一番の問題だった。


「ですが、あの様子だとエマリエル殿下は、まだジョシュア殿下がクリスティナさんの事を想っていると思われていそうです」

「その誤解をどう解くべきか…」


 二人はしばらく悩んだが、何も答えは浮かばない。さすがのブレーデンも思いつかない様だ。

 ダリアがゆっくりと口を開く。


「…そもそも、クリスティナさんの事について伝えるべきかどうかを判断するのは、私達ではないのかもしれません。

 前回と同じ様に、お二人に委ねるのが最善ではないでしょうか」


 ブレーデンはダリアの言葉をしばらく噛み締めた後に、「…そうだな」と同意した。


「とりあえず今は、エマリエル殿下の不安や胸のつかえを少しでも取り除く事が大切かと」

「どうすればいいんだ?」

「やはり会話以外にありません」


 ダリアはブレーデンを真っ直ぐ見つめて言った。


「当初から言っておりますが、相手を知る事。これがいちばん大切な事だと思います。結婚式までにお二人だけの時間を多くとりましょう」

「ならば我々の役目は、その場を整えることだな」

「はい。私は外部の人間ですので出来ることは限られていますが、必要であればお力になります」

「ならば何か協力を仰ぎたい時には、手紙を出していいか?

 君がこれきりにすると言っていた、非公式の場で殿下と会う事になるかもしれないが」

「はい。構いません」

「ありがとう。その代わり、これで本当に最後にする」


 二人は確かめ合う様に頷くと、それぞれで部屋を出た。


 それから頻回あった茶会の誘いは、ぱったりとなくなった。

 それはきっと、二人が共に過ごす時間が増えた証なのだろう。


 ダリアはその変化を嬉しく思いながらも、二人がどう過ごしているのか気になって仕方がなかった。

 以前は届くたびに身構えていたブレーデンからの手紙を、今では心待ちにしていた。


 そして結婚式まで、残り一週間となったある日。

 その知らせは、ダリアの予想もしない形で届く。


「お客様がお見えです」


 メイドの言葉に、ダリアは何気なく尋ねた。


「どなた?」


 返ってきた名を耳にした瞬間、ダリアは思わず足をもつれさせながら玄関へ駆け出した。


 そこに立っていた人物を見て、目を見開く。


「ハ、ハノーヴァー卿!? なぜここに…!?」

「緊急事態だったからな」


 講師の一件からバッケン家は王都に滞在していた。グラムとワーノルドは仕事で不在だが、リリアンヌは勿論ここにいる。

 ブレーデンが訪れたと知れば、また両親を心配させるかもしれないと思ったダリアは、ブレーデンの背中を押して慌てて自宅の脇に隠れた。


「手紙を出すのではなかったのですか!?」

「だから緊急事態だと言っている」


 あまりに必死になっていたからか、ダリアは思っていた以上にブレーデンと近い距離にいる事に気付き、頬を染めて慌てて一歩後ろへ下がった。


「それで…その緊急事態とは?」

「まずお二人は時間を多く過ごす様になったおかげで、大分親しくなられた様だ。以前よりエマリエル殿下の笑顔が見られる様になったと思う」

「そうですか!」


 ダリアは嬉しそうに小さく手を叩く。そして我に帰った。


「では、順調ではないですか」

「そうだ。そんな中、殿下から相談された。エマリエル殿下が行ってみたい場所がある様なのだが、連れて行けないだろうかと」

「外出、ですか」


 ブレーデンは頷き、さらに続ける。


「今お二人の関係は非常に良くなってきている。いつもと違う環境になる事は、また一つ近付けるきっかけになるかもしれない」

「そうですね!」

「但し、今は結婚式前だ。騒ぎになる可能性が高い。行くなら非公式でなければならない。そこで、だ」


 ブレーデンがダリアの手首を握った。


「今から行くぞ」

「え!?」


 そしてそのままダリアの手首を握ったまま歩き出す。


「行くってどこに!」

「その訪れたい店だ。お二人をお連れするとなると下見が必要だからな。

 もう結婚式は一週間後だ。一々君に手紙を出して許可を取っていたら間に合わない。だから直接来させてもらった」

「私がいなかったらどうしていたんです!?」

「その時は一人で行っていたに決まっているだろう」

「じゃあ私、必要あります!?」


 そこでブレーデンの足がぴたりと止まる。そしてゆっくりと振り返って言った。


「力になると言ったのは君だ」


 最近はすっかり頼れる相談相手になっていたが忘れていた。

 この男はこういう男だった。


 久しぶりのブレーデン節を耳にして、ダリアは思わず笑ってしまった。


「笑っている暇はない。急ぐぞ」

「は、はい!」


 二人はその目的の店に向かった。






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